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愛しの師匠  作者: 正太郎&シン・ゴジラ
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第96話 素晴らしいお茶会について


 今日は、なんて素敵な日なのだろうか!


 私は鼻歌混じりに台所へ向かいながら、今日の出来事を喜んでいた。


 喜ぶのも当然である。

 師匠と共に“歩き骸骨”退治をしようとしていたら、なんと友人のクリスと出会えたのだ。

 

 なにせ師匠にこき使われる忙しい日々においては、彼とゆっくり語らう機会がなかなか得られなかったのだ。


 通話装置を使おうにも、ドケチの師匠は『通話は一日一時間、伝文は十通まで』という意味の分からない制限を課してきたのだ。


 それが破られた際には保護者権限により使用停止に処すとの脅しをいただいていたため、一日の内の短い時間の意思疎通のみで我慢するしかなかった。


 だが、今日は違う!


 師匠公認の、友人を迎えた素敵なお茶会なのだ!


 これなら気兼ねをすることなく、思う存分お話ができるというもの!


 こんな素晴らしい日には、私が手ずからお茶を淹れるべきである!


 「よぉし!やるぞぉ!」

 

 私は鼻息も荒く準備に掛かった。


 食卓の方から、しろすけが眠そうにこちらを見ていた。


 台所なんてお菓子をくすねるためにしか入ったことがなかったが、それでもどこに何があるかはおおよそ理解していた。


 というのも、師匠は買ってきたお菓子類はすべて台所のどこかに隠してしまうのだ。


 健康を維持することに並々ならぬ執念を燃やす師匠は、その手段として食生活の徹底的な管理を行おうとする。やれ『夕飯が食べられなくなる』だの『肥満の原因になる』だのと口やかましく言うのだ。

 その昔、目の前で焼き菓子の袋を手の届かない高さにある戸棚の中に入れられた時の屈辱は、今でも鮮明に思い出せる。

 ちなみにその時は大小様々な調理器具を積み重ねて塔を作り、それを登って見事に焼き菓子を奪還していた。まあ、その後一週間のお菓子禁止令を出されてしまったが。

 

 要するに。

 私は隠されたお宝を求めて台所中を捜索するので、必然的に調理器具から食材の位置まで把握できるようになってしまったということだ。


 だが、それらの適切な使用法については別の話である。


 「・・・あれ?こうちゃって、どうやっていれるんだっけ?」


 私は調理器具の入った箪笥の扉を開いたまま、首をかしげていた。


 目の前に並んだ四つの薬缶は、師匠が用途に合わせて使い分けているものだ。

 確か紅茶を淹れる時には、特別な薬缶を使うと言っていたような・・・?


 「・・・まあ、いいや!」


 私は見た目と材質が異なる薬缶たちを眺めながら、頷いた。

 

 どうせこんなものは、お湯を沸かすための道具にすぎないのだ。

 大した違いなんてあるまい。


 私は鉄製の薬缶を引っ掴んで扉を閉めた。

 

 後はここに水を入れて、紅茶の葉っぱをいれてから沸かすんだったかな。

 なんとも簡単ではないか。

 

 私は水がめの中に薬缶を沈めてから、井戸から水を汲みだす要領でそれを引っ張り上げた。

 

 「よし!まんぱいだ!」


 私は水でいっぱいになった薬缶を竈の上に置くと、今度は戸棚から紅茶の葉っぱが入った缶を取り出した。


 お腹が膨れないから普段は見過ごしてきたけれど、今日は目一杯活躍してもらおう!


 私は缶の蓋を取ると、それを薬缶の上で逆さまにした。


 細切れの葉っぱがバサバサと薬缶の中の水に落ちていったの確認すると、いよいよ私は竈に火をかけた。そして完全魔法化された最新式のそれの取っ手をひねり、“最大火力”に設定した。


 ぼうっ!

 

 という音と共に、台所がにわかに熱気に包まれた。


 「おお、あったかい!」


 ついでに私は、外から帰って来たばかりで若干悴んでいた手を温めることにした。


 あ、そう言えば手を洗ってなかったな。

 ま、いいや。


 しばらくすると、薬缶からごぼごぼという音が聞こえてきた。


 立ち上り始めた湯気に気を付けながら覗き込んでみると、心なしかお湯が茶色っぽく染まっているように見える。


 「できた!」


 私は歓声を上げて、即座に竈の火を止めた。

 火をつけっぱなしにすると火事の原因になる、と師匠から教わっていたからだ。

 

 私は待ちくたびれているであろう二人のために、急いでお盆の上に湯呑を三つ乗せた。


 そして濡らした布巾を手に持つと、薬缶の取っ手にそれをかけた。

 熱した薬缶は取っ手の方も熱いので、火傷をしないように気を付けるべし、と師匠から教わっていたからだ。


 変なところにこぼれないようにと細心の注意を払いながら、私は湯呑の中に“茶色く染まった液体”を注いでいった。


 「かんせいだ!」


 紅茶の淹れ方は師匠から教わっていなかったが、優秀な私には造作もないことだった。

 

 私は湯気を立てる三つの湯呑を眺めながら、腕組みをして頷いた。

 後はこれを、客人と師匠に届けるだけである。


 そこまできて私は、はたと気づいた。






 「・・・これ、おいしいのかな?」






 何分初めて淹れたものだから、上手にできているかが分からなかったのだ。

 しかしせっかく招いた友人に出すのだから、美味しくないと困る。


 そこで私は、味見をすることにした。


 お盆から自分の湯呑を取って、火傷をしないように気を付けながら飲んでみる。


 「ん!わからん!」


 私は舌で唇を拭いながら、そう自己評価した。

 

 全体、師匠の淹れてくれる紅茶というものは、味がはっきりしなくてよくわからないのだ。

 そのまま飲んでも全然美味しく感じないため、いつも果醤をしこたまぶち込んでいるくらいである。


 こういうのがオトナの味というのかもしれないが、今回の主賓たるクリスは私と同じ子供である。


 ならば、私と同じ味を好む筈だ!


 私は一人頷くと、調味料の入った戸棚を開いた。

 中に入っているのは、塩、胡椒、酢に加えて・・・


 「あった!おさとう!」


 私は砂糖の入った小瓶を引っ掴むと、その蓋をはぐった。

 そして中に入っていた小さじを使い、紅茶の入った湯呑に均等になる様に砂糖を入れていった。

 

 「うーん、いれすぎたかな?」


 三つの湯呑に四杯ずつ砂糖を入れてから、私はまたも分からなくなった。


 あんまり砂糖を入れ過ぎては、甘すぎて美味しくなくなってしまうかもしれない。

 それならば、安定を取るためにも塩を入れるとしよう!


 私は砂糖の小瓶を戻すと、今度は塩の入った小瓶を取り出した。

 先刻の砂糖と同じ要領で、今度は湯呑に塩を入れていった。


 なんだかこうしていると、熟練の料理人のようではないか。

 

 すっかり気をよくした私は、ふと熟練の料理人を気取る師匠の後姿を思い出していた。


 そう言えば師匠は、料理をするときは片手でこれらの調味料をぱぱっと鍋に入れていたなぁ。


 「よーし!こうなったら!」


 だんだん気分が乗ってきた私は、この際だからいろいろと手を尽くすことにした。


 私は戸棚の中にある調味料の一切を引っ掴んだ。

 

 全体、大切な友人であるクリス君には、私の全力をもっておもてなしをしなければならないのだから!


 「えへへ。くりすくん、よろこんでくれるかな?」

 

 私は友人の感想が待ち遠しくなって、顔をほころばせた。


 



 食卓の上で昼寝をしていたしろすけは、何かに気が付いたようにそっとその場を離れていった。

 

 

 







 私が初めて淹れた紅茶を携えて居間へと戻ると、二人の男どもは何故だか陰気な顔をしていた。

 お互いに顔をちらちらと見合ったり、かと思えばそっぽを向いたりしている。


 一体何をしているのだろうか?


 私は不思議に思ったが、とりあえずは客人にお茶をお出しするのが先決だと思いなおした。


 「おまたせっ!」


 私が元気よく居間へと戻ると、その瞬間にまるで灯りがともったかの様に二人の表情が変化した。

 

 「あ、ありがとう!リィルさん!」

 「うん、待ち遠しかったよ!」


 二人の男どもは、そう口々に私の帰還を喜んだ。


 いや、まあ、ウチの師匠の方はいつもの彫像の様な顔のままだったのだが。

 

 「・・・ふたりとも、どうかしたの?」


 その二人の態度の急変っぷりに、私が訝って聞いてみた。


 「いや、別に。うわあ、美味しそうだなあ!」

 「うむ、特には何も。おお、初めてなのにきちんとできたんだね!」


 しかし師匠とクリスはお茶を濁すようなことを言いながら、私が手に持っていた盆から湯呑を取り上げていった。


 陰気な顔をして黙りこくっていた二人の男が急に活発になったものだから少しだけ驚いたが、初めて紅茶を淹れたことを喜ばれて悪い気はしなかった。

 私は顔をふにゃふにゃとさせながら、師匠の隣に座った。


 「じしんさくだよ!のんでみて!」

 「あ、はい!」

 「うむ。では、いただくとしようか」


 私と師匠とクリス君は、同時に湯呑を傾けた。

 

 

  















































              『ぐえ』















































 「あー。その、なんだね・・・」


 ディンさんは人形のような顔をやつれさせながら、首筋を撫でていました。


 大変失礼ながら、出会った時にはまるで作り物の様に感じていたのですが、この変化の乏しい表情の中にもきちんと感情の起伏が表れているように感じられました。

 

 「あの娘の友だちになってくれたことに、礼を言わせてほしい」


 同じく頬をやつれさせた僕は、ディンさんの改まった態度に驚きました。

 最初は僕に対して良い感情を抱いていないように思えたのですが、本当は全くそんな気はなかったのだそうです。

 

 “リィルさんのおかげ”で、この人としっかり対話をすることができたのは今日一番のよい出来事でした。

 

 「お礼って、そんな・・・」


 僕はもう涙目にはなりませんでしたが、それでも縮こまってもじもじとしていました。

 

 なにせお礼を言いたいのはこちらの方なのです。


 リィルさんはこんな情けない僕の友人になってくれた、お師様の次に素晴らしい女性なのですから。


 ディンさんはそんな僕には構わずに、続けて言いました。


 「あの娘は色々とがさつだが、繊細な一面もあるんだ」

 「は、はぁ・・・」


 女の子に対して、がさつって評価はどうなんだろうか?

 というか、それって矛盾しているんじゃないかな?


 と思いつつも、僕はなんとなく納得してしまいました。


 なにせあの恐ろしい“毒薬”を調合してしまったリィルさんは、その威力に自らひっくり返って気絶してしまいました。紅茶を淹れたつもりで自分でも制御できないような猛毒をこさえてしまうだなんて、ぞんざいにもほどがあります。 


 まあそのとばっちりを食う形になってしまいましたが、結果として僕とディンさんは話す機会を得ることができました。


 どうやらお互いに、対話のきっかけを欲していたようだったのです。

 二人の意識が上手く噛み合っていなかったところに、彼女の“紅茶”は良い潤滑剤となってくれました。


 「どうかこれからも、あの娘と仲良くしてやって貰いたい。この通りだ」


 ディンさんがそう言って頭を下げたことに、僕は大変驚きました。

 出会った時には、なんて恐ろしい人なんだろうと思っていたのですが。

 でもどうやらそれは、僕の思い違いだったようです。


 この人は、本当に・・・


 『リィルさんのことを、大切に思っているんだなぁ・・・』


 何だか僕は、それがとても嬉しくなりました。


 二人とも同様に親を失い。

 そして二人とも同様に、偉大な師に仕えている。

 そんな僕たちが出会い、そして友だちになったことを、喜んでくれている。


 それはなんと素晴らしいことなのでしょうか。


 「はい!勿論です!」


 

  


 

 











 僕は足取りも軽く、家路につきました。


 早く帰って、お師様とお話したかったのです。


 僕の友人と、そのお師匠様のこと!

 

 お話したら、きっと喜んでくれるでしょう!


















 「・・・は?今なんて言ったの、少年?」

 「はい!今日はリィルさんのお家にお邪魔しました!」

 「・・・そ、そう。そりゃあ、よかったわねぇ」

 「リィルさんのお師匠様にもお会いしました!とてもお優しい方でしたよ!」

 「・・・」

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