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愛しの師匠  作者: 正太郎&シン・ゴジラ
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第121話 知性ある者の在り方 前

誤字脱字ばかりで、申し訳ありません。


 空に浮かぶ城。


 永すぎる時を生きてきた自分ではあったが、これ程に荒唐無稽なものを見たのは初めてであった。


 天高くに浮かぶ、緑豊かで鳥たちのさえずりが聞こえてくる、まるで楽園のような地。

 あるいは伝え聞くのみである天上とは、このような場所なのかもしれない。


 もっとも、周囲を取り囲む機械仕掛けの人形たちの存在が、その雰囲気をぶち壊しているように思えるが。


 「妙だな・・・?」


 三十体目のゴーレムを切り伏せた私は、この状況を訝しんでいた。


 侵入者である私に対して攻撃を仕掛けてくる、数百体の魂無き兵隊たち。

 しかしその攻撃の手はあまりにも緩慢で、このおびただしい数とは裏腹に私と言う異物の排除に積極的でないように思えた。


 「まるで、周囲への被害を気にしているような・・・?」


 私に次々と向かってくる連中は、そうとしか考えられないような単調な動きを繰り返していた。

 なにせ機械人形たちは巨大な手で掴みかかろうとしてくるばかりで、殴りかかるだの飛び道具を使うだのの威力のある攻撃をしてこないのだ。


 もしかすると、この城を壊さないようにと命令を受けているのかもしれない。

 そのような制約があるのならば、多対一を強いられる私にとっては好都合であった。


 しかし・・・


 「とは言え、これではな」


 火花を上げて立ち尽くしていた三十一体目を蹴り飛ばしながら、私は一向に好転する気配のない現状に苛立ち始めていた。


 “着弾”した場所からまったく前進できず、釘づけにされてから三分が経とうとしている。


 体力は全く消耗していないが、これ以上時間をかけることは避けたかった。

 ここに弟子が囚われているとすれば、人質として使われる危険性があるからだ。


 私自身がどうなろうと問題はないが、眼の届かないところで弟子に危険が及ぶというのは許容できない。


 「どうしたものかな・・・」


 二進も三進も行かない現状に、私は歯噛みするしかなかった。

 まったくもって、自分は無能な男である。


 本気を出せば、この程度の戦力などものの数秒とかけずに殲滅できる。

 だが一度“あの状態”になってしまっては、自分でも力の制御が効かなくなってしまう。


 弟子がいるかも知れないこの城を海に沈めるような愚行は、断じて犯すわけにはいかないのだ。

 だが、このままではその弟子が・・・


 私が、そんな焦燥感に駆られていると。


 「何っ!?」

 

 事態が、急変した。














 ゼークトロンは、焦燥感に駆られていた。


 いや、この表現は誤りである。

 なにせ彼には、感情などないのだから。


 だがそうだとしても、この状況が彼にとっては望ましくないというのは、紛れもない事実であった。


 『周囲への被害を留意しつつ、戦闘を続行』


 あくまでも冷徹に状況を分析し続けるゼークトロンは、二つの相反する命令を着実に遂行しようと躍起になっていた。


 まったくもって、想定外の事態であった。


 この戦天城に土足で踏み込んだ、いや撃ち込まれた男は、その衝撃で死ぬどころか完全に無傷の状態で立ち上がったのだ。

 魔法防壁を貫徹してきたことから奇跡の力を有していると推測されるこの人間は、直後から剣を振り回しての破壊活動を開始した。


 “別の目的”で防衛戦力が出動していたからよかったものの、初期対応が遅れていたら中枢にまで一気に侵入されていたかもしれない。

 それ程に、この剣士の戦闘能力は高かった。


 『脅威度判定を上方修正。二十以上と断定』


 ゼークトロンは、相変わらず外を飛び回っている二頭のシルヴァー・ドラゴンをあしらいつつ、恐るべき侵入者への対応に集中していた。


 すでに四十三体目のゴーレムを無力化されているというのに、向こうには損傷の一つも与えられていない。彼の知り得る限り、これ程に強壮な人間は偉大なる大首領のみであった。


 『火力支援の必要性を認む。なれど、“護衛対象”への被害甚大と推定。却下』


 創造されたときより与えられていた、『侵入者を排除せよ』という命令。

 そして新たに与えられた命令は、彼の能力を大きく制限してしまうという結果をもたらしていた。


 どちらかに集中しようとすれば、もう一方が遂行不可能になる。

 人工知性であるがゆえに、柔軟な発想のできないゼークトロンは二律背反に陥ってしまったのだ。


 『脅威排除と対象護衛の両立は困難と推定。有効手段無し』


 その戦況分析に、ゼークトロンはさらなる焦燥感を・・・


  いや、この表現は明らかな誤りである。

 なにせ彼には、感情などないのだから。


 そう。

 彼には、感情はない。

 

 だが彼の中には、思考を大きくかき乱す“雑音”のようなものが発生しつつあった。


 それはなんと表現したものか、まあつまりは未来予測の一種である。


 このままでは、与えられた命令のどちらも遂行できずに、新たな後継者たちの前で無様な姿をさらすことになってしまう。 

 そうなれば、やっと出会えた後継者たちからも見捨てられてしまうという事態が、容易に推測できた。


 そうなってしまったら、今後ゼークトロンは何のために存在すればよいのか。


 この緊急事態にあって、ゼークトロンは思考力の一部を使ってそんな無意味な処理を行っていたのだ。

 そしてその“雑音”はどんどん膨らみ、ゼークトロンの高性能な頭脳に負担をかけつつあった。


 また永劫に近い時間を無為に過ごすことは、常闇の腹心という偉大なる者たちのために創造された彼には許容できない。


 本気を出せば、この剣士を滅ぼすことこそ叶わずも、城から落とすことくらいはできる。

 だがその手段を取ろうとすれば、同時に新たな後継者からの命令に背くことになってしまう。


 ゼークトロンの存在意義を否定するような愚行を、断じて犯すわけにはいかないのだ。

 だが、如何せん・・・


 ゼークトロンが、その頭脳を破裂寸前にまで酷使していると。



























 「やめろぉぉぉおっ!」







 







 中枢区画。

  

 玉座の間にて観戦をしていた後継者の一人が、ゼークトロンに新たな命令を下した。


 優秀な人工知性であるゼークトロンは、その命令を即座に遂行した。





 








 「何っ!?」


 私は、事態の急変に驚愕していた。

 今まさに私に掴みかからんと腕を振り上げた機械人形が、その直前で動きを止めたのだ。


 いや、目の前の人形だけではない。


 私を取り囲んでいた全ての機械人形が、一斉に、まるで動力を引き抜かれたかのようにぴたりと静止したのだ。同時に、外に向かっての砲撃も止んでいた。


 先刻までうるさかった金属音や重たい足音は完全に消え去り、吹き抜ける風や鳥のさえずりが耳に届くようになった。


 「一体、何が・・・?」


 急に静かになった戦場で、私が一人立ち尽くしていると。







 『やめろぉーーーー!ばか師匠ーーーー!!』





 その静寂をつんざく叫び声が、周囲に響き渡った。


 あまりの音量に眉根を寄せつつも、私は安堵のため息をついた。


 聞きなれた、やや舌足らずな喋り方。

 どうやら、不肖の弟子は無事であったらしい。

 そしてあの伝文に書かれていた内容は、本当だったのだ。


 それでも緩むことなく剣を構え続ける私に、さらに弟子は怒鳴りつけてきた。


 『ぼうりょくをふるうのをやめて、いますぐわたしのところにきなさい!』

 

 そう言われても、私は取り囲まれているのだが。


 そう思っていると。

 

 ざっ!と機械人形たちが動いた。


 数百体の人形たちが一糸乱れぬ精妙な動きで、長い長い列を作ったのだ。

 すると私の眼の前に、まるで一本の道の様な空間が出来上がった。

 どうやら、ここを通り抜けて来いという意味らしい。

 

 私は警戒をしつつも、その指示に従うことにした。

 

 構えを解き、大剣を背負うと、私は人形たちの間を歩き始めた。

 眼の前を通り過ぎても、人形たちはぴくりとも動かない。


 先刻までの戦闘が嘘のようだった。

 

 ・・・ひょっとすると弟子は、この機械人形を操る何者かと懇意なのだろうか。

 だとしたら、少々無礼な訪問の仕方だっただろうか。


 いやしかし、あの伝文にはかなり物騒なことが書いてあったのだ。

 だからこれは、一種のやむを得ぬ犠牲というやつであろう。


 私は周囲を見回し大剣に手をかけつつも、緊張感に欠けたことを考え始めていた。


 すると。


 「・・・むむっ?」


 背後に気配を感じて、私は振り向いた。

 

 壁となった人形たちの中から、一体だけが離れて動き出したのだ。


 私は即座に身構えたが、しかしその人形は私には眼もくれずに背中を向けて歩き出した。


 その奇妙な行動をする機械人形を見守っていると、そいつは私の背後の道を戻るように歩いていき、私が“着弾”したせいで倒壊してしまった大樹の前で立ち止まった。


 そして私は、またしても驚愕した。


 その機械人形は、私のせいで地面に落ちてしまっていた雛鳥を、その大きな手で優しく摘まみ上げたのだ。


 私が思わずそれに見入っていると。


 先刻まで私の頭を突き回していた親鳥たちがその機械人形に手にとまり、嬉しそうにさえずりだした。


 「『ありがとう』・・・、だと?」

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