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自分なりに頑張ったと思う作品集

鏡の向こう側の君に向かって

作者: 矢田こうじ
掲載日:2016/10/01

僕の思い出。

荷物がトラックに積まれ、引っ越し先に向かう。


千春と知り合ったのは、もう桜の散る頃。

大学の友人が持ってきた合コンで知り合った。

よく意外だと言われた。


居酒屋の長テーブル。

僕たちの始まりは席が対角線で一番遠い席から。


周りが盛り上がって行く中、お互い席を移動できず、距離はずっと保たれたまま。

少し遠慮がちに、千春が誰かと笑っている君の横顔を僕は時折見ていただけで、その日は終わった。


後日、気持ちのいい風の吹く日に、同じメンバーで遊園地に行く事になった。

友人が一回会うだけじゃつまらない、といって企画していたのに、当日気づいた僕。


千春が女性達の少し後ろに立っていたのを見て、嬉しかったのを覚えている。

アトラクションの席、ランチのテーブル、パレードの立ち見。

僕は少しずつ、千春に近づいていった。

お互いの心の距離も確かめるように。


帰りの電車は向かい側正面に座った。

でも間には僕達の友達がいる。

電車に揺られるみんなの体の隙間から、千春と目が合う時にはもう、僕は好きになっていた。

電車を降りた時に僕は連絡先を交換した。

少しびっくりしている千春の顔に、僕は照れた。


それからは2人の距離を縮めていった。


映画。

千春は横で号泣していて、僕は慌てながらも笑った。


七夕祭り。

風に揺られる色とりどりの短冊を見つめて、千春は何度もつまづいた。

僕はそんな横顔を見つめて、人にぶつかった。


雨の花火大会。

急遽中止になった僕達は、2人の最寄り駅が交差する駅までの二駅分を歩いて話し合った。

僕のこと、君のこと。

そして僕は君への気持ちを伝えた。

千春は少し戸惑いながら、僕の気持ちを受け入れてくれた。


秋になり、僕の部屋に遊びに来てくれるようになった頃、僕の部屋が殺風景すぎると言って、千春は鏡を買って持って来た。

玄関と部屋に一枚ずつ。

玄関の姿見は貴方の身だしなみの為に。

部屋の手鏡は私の為に、と照れながら僕に言った。


僕は毎日鏡に向かって結んだネクタイを確認した。

千春の笑顔を思い出して、行ってきます、と言って扉を開き、ただいまと言って扉を閉めた。


雨が冷たいクリスマスの日。

僕達は、駅前で待ち合わせをした。

簡単に食事をした後、僕達は雑貨店でお揃いの写真立てを買った。2人の並んだ写真を入れて、お互いの部屋に飾る為に。


そしていつものように二駅分歩いた。

この時間は僕達が始まった時間と距離。

年末年始の予定を合わせて、到着した駅で別れた。

それが千春との最後だった。


千春の顔はまるで寝ているかのように穏やかだった。

遺品の中に、ガラスが痛々しく割れている僕達の写真立て。

僕は千春の棺に入れて、空に贈る。


もう一度桜が散る季節が過ぎる頃、僕は千春がお気に入りだった玄関の鏡を部屋に飾った。

少しでも千春を側に感じていたいという理由で。


映り込む鏡の向こうに千春が座っていた。

鏡は僕を映しているが、映し出している場所は千春の部屋。


千春は、ずっと僕達の写真立ての前で座っていた。

声をかけるが、鏡を叩くが振り向いてはくれない。

背中が寂しそうだった。


その鏡は千春の生活を映し続けた。

まるで窓ガラス1枚で隔てられた世界のように。


それからは千春と生活を共にする日が続いた。

僕は同じテレビ番組を観て、同じ食事を選び、同じ日に出かけた。

そして時々寂しそうに見続ける僕達の写真。

僕も一緒に写真を見ながら、思い出に耽った。


気持ちのいい風の吹く日、千春が手鏡を持ち出した。

僕の部屋に今ある同じ物。

千春が鏡を覗く時を見計らって僕も手にした。


僕と千春は半年ぶりに見つめ合う事になる。

鏡の向こうで手を振る僕に、千春はそのまま倒れて気を失った。

しばらく姿見から心配そうに僕は覗いた。


ほどなくして千春は気が付き、もう一度手鏡を覗く。

僕はもう一度、手を振った。


この不思議な出来事を千春は受け入れた。

鏡の向こうでは、僕がいなくなったらしい。


泣き笑いの千春を見つめて、僕も泣いた。

それから千春は、自分の部屋の姿見を僕の部屋にあった姿見に交換した。

僕がいなくなった後に貰ったらしい。


ガラス1枚向こう側の世界。

近づけは触れられそうで、この世界のどこよりも遠い距離だった。


新しい千春との生活が始まる。

朝、一緒に起きて朝食を取り、夜は一緒に同じテレビを観て、ビールを飲んだ。


『映画に行こう』

この時の為に用意したスケッチブックと逆さ文字。

片手に挟んでスマホに写る専用サイト。


笑顔で頷く千春。

手鏡も指差す。

そうだね、一緒に持って行こう。


2人で同じ映画館に向かう。

僕は14のEで千春は14のF。

手鏡で映せば、僕の隣に千春がいた。


僕達はもう一度、2人の思い出を重ねた。

七夕祭り。

花火大会。

この日は晴れだった。

花火も見ずに、お互い手鏡ばかり見ていた。


冬になり、2度目のクリスマスが近づく頃。

千春は真剣に姿見の前で座って欲しいと促した。

お互いスケッチブックを持つ。


『どうしたの』

僕は鏡越しに伝える。


『このままではいけないとおもう』

千春は泣いていた。

『ぼくはこのままいたい』

大きく書いて訴える。


『はなせない、ふれあえない』

千春の目は真剣だ。

『おたがいべつのせかいでくらしている』

スケッチブックをめくる。

『でも、いきててよかった。べつのせかいでも』

またページをめくり、書く。

『わたしたちは、ふつうにおわかれするの』


そう書いた後、急いで書き足した。

まるでぼくの元から走り去るように。

それは逆さ文字ではなかった。


『さようなら』


千春は泣き顔を隠さず、僕を見つめながら姿見を裏返した。


それから僕は毎日、毎晩覗き込んだけど、別れたあの日から、姿見も手鏡も僕の世界だけを映しているだけだった。


そして。

3年前に知り合った女性と一緒に住む為に、引っ越しの準備をしていた。

片付いて行く部屋に、長く気持ちを残していた。

その場所から、僕は"おわかれ"する。


部屋にかけてある姿見。

そこには今でも僕とこの部屋だけが映る。

僕はスケッチブックを1枚切り、逆さ文字で手紙を書いて貼る。その後、手鏡と一緒に梱包した。


『しんぱいかけました』

『ぼくも、やっとしあわせになれそうです』


鏡の向こう側の君に向かって。

いかがでしたでしょうか。

誰も喋らないものを書いてみました。


内容も表現も、うーん、色々似てね?ちょっと間開けようか、とも思ったんですが、出しました。

最後まで読んでみて頂けた方、よろしければご意見下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 私は3歳半で祖父を亡くしました。 でも、祖父との思い出は少しですが今も覚えています。 場面も、言われたことも覚えているのですが、 声を忘れてしまいました。色々教えてくれたのに。 そのもどかし…
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