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第7話

『――…い、おい起きろ』

誰かが呼んでいる。まだ目を開けたくないのに。

『おい小娘、ぐっすり寝たのはいいけど寝過ぎじゃねーか?』

「寝…すぎ……ああっ!!」

がばっと起き上がった。


時計を見ると、8時をとうに過ぎていた。

「やっ、やばい!」

あたしは転げるようにベッドから出た。

義将は頭をぽりぽりかきながらあたしの慌てぶりを観察している。


「ちょっと義将!なにぼけっとしてんの、出てってよ」

『何で』

「きーがーえーるーの!」


そう言うと、義将はぶつぶつ言いながら壁の向こうに消えていった。


着替えを済ませて鏡の前に立つ。

げっ、ひどい寝癖だ。でも直している時間はない。

あたしはスプレーを大量に吹き付けて応急処置をした。


階段を駆け降りると、どんっと誰かにぶつかった。おじいちゃんだ。

「なんだ、起きたのか」

おじいちゃんはむすっとした顔で言った。でも、もう怒ってはいないみたいだ。

「うん」

ほんのちょっとだけ、気まずい空気が流れた。やがておじいちゃんはうめくように口を開いた。

「お前がどんなことをやってるのかわしは知らんが…」

「――おじいちゃん」

「?」

「ありがとね」


そう一言つぶやいて、キッチンを素通りして玄関に向かった。ご飯を食べてる時間はなさそうだ。


ドアを開けると、外は申し分ない晴れ空だった。

「さっ、急がなきゃ!」

あたしは学校に向けて自転車をこぎ出した。

義将もふわふわとついて来る。

『お前なんで笑ってるんだ?』

「別に」

今は無理でも、いつかきっと、おじいちゃんも誇りに思えるような孫になってみせる。

日本中、ううん、世界中の誰よりもすごい解決屋になってやるんだ。




景色はだんだん都会になっていく。人通りも多くなり、山なんて遠くにちょっぴり見えるだけだ。

やがてその中に、にょっきりと背の高い建物が見えてきた。

その壁は色あせて、所々はがれている。あたしの通う高校だ。

県の重要文化財である旧校舎と並んでいても、ぼろぼろさなら決して負けていない。


『おおおーっ!見ろ小娘、おなごがいっぱいいるぞ!』

「はいはい」

義将はぞろぞろと校門をくぐっていく女子高生に大興奮しているご様子だ。

本当にこいつを連れてきてよかったのか?自分…

あたしは義将に小声でささやいた。

「いい?学校に入ったらあたしに話しかけちゃだめだからね」

義将は自信たっぷりといった顔をした。

『わかってるって。オレはそこからゆーっくり観察させてもらうからな』

そう言って指さしたのは、あたしのケータイについているウサギのぬいぐるみだった。


「…え?どうやって?」

そうあたしが言うと、義将は得意げな顔をして『ほっ!』とぬいぐるみに向かって飛び込んだ。

すると、義将の体はしゅるしゅると掃除機のように吸い込まれ、ぬいぐるみの中に消えていった。

「えっ何?どうなったの!?」

あまりに突然だったので、あたしは何が何だかわからなかった。

『うーむ、少しごわごわしてるけど、まあまあ居心地はいいな』


義将の声は間違いなくウサギから聞こえてくる。まさか本気でぬいぐるみに入っちゃったの?

あたしがあっけにとられていると、義将の上機嫌な声が聞こえてきた。

『ま、お前が知らない間にこういうことも覚えちゃったんだな、オレ』

でも確かに、こうしていれば一日中義将を監視しなくてもいいし、義将も女子にいたずらできないし・・・

あたしの顔に笑みが広がる。やれやれ、今回は一本とられたみたい。

「やるじゃない」

義将がにやにやしているのがわかった。


あたしは駐輪場に自転車を置き、校舎に入っていった。




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