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第21話

あたし…覚えてる。彼が鬼だって覚えてる!

「――あ、学校着いたね」

高槻くんの声で、現実に引き戻された。

さて、どうしよう。とりあえず確かなのは、のんきにこの人と歩いている場合じゃないってことだ。

「ごめん、あたし用事思い出した」

「え?」

高槻くんはきょとんとした顔をした。

「大っ事な用事だから、先行くね。ホントごめん!」

よし、これだけ謝っとけば十分。あたしは返事も聞かずに駆け出した。



彼が屋上にいるってことはわかっていた。1時間目はいつもさぼってるから。


自分にもうちょっと体力があったらこんな階段ささっと上れるんだけど、残念ながらすでにヘロヘロだった。

ほんっとに、彼と関わってからロクなことがない。

事故には巻き込まれ、自転車はぺしゃんこにされ、こんなに走らされ。

あたしは手すりにかじりついて階段を上った。

なんとしても、取っ捕まえてあの冗談としか思えない言葉の真相を聞かなきゃ気がすまない。

実際、冗談だったわけだけど。


屋上のドアを勢いよく開けると、フェンスにもたれて座っていた成神聡也が振り向いた。

あたしを見て、あからさまに嫌そうな顔をした。

そりゃあ汗だくの女の子がぜいぜい言いながら立ってたら、そうしたくなるのもトーゼン。

「…またあんたか」

もうウンザリってカンジの言い方だ。

「あんたもずいぶん物好きだな。授業中にこんなとこ来てていいのか?」

お互い様でしょ、と言ってやろうかと思ったけど、高槻くんとおんなじセリフだと気付いてやめておいた。

「あのねー、あたしはあんたと違って、用があるから来たの」

あたしはそう言いながら、髪の毛を直した。

「さっさと済ましてくれないか」

はいはい。言われなくとも。

「昨日のことなんだけど」

彼は眉をひそめただけで、表情一つ崩さなかった。

「何の話?」

あたしが忘れてると思って完全にしらばっくれている。

思わず飛んでいきそうになったこぶしをなだめて、あたしはごほんと咳払いした。

「ほらー、あたしを助けてくれたあと、いろいろ話したじゃない。覚えてるでしょ?」

「…さあな」

「だから!自分は鬼だって、そう言ったでしょ!」

おっと。思わず口を押さえたけど、遅かった。

彼の表情は凍りついていた。

そして次の瞬間には、彼はあたしの目の前にいた。まるでテレビのチャンネルでもぱちっと切り替えたみたいに、一瞬のうちに。


あろうことか、彼はいきなりあたしの襟首をがっと掴んで引っぱり上げた。

氷みたいにひんやりした手が首筋に触れ、びくっと体が震えた。


「なんで…消えてない?」

この世の終わりみたいにつぶやいた。

「あ、あたしだって知らない」

舌がもつれて「あらしだってしあない」みたいな言い方になってしまった。


彼はカッターシャツの襟を、ぐしゃぐしゃになるほど強く握り締めていたけど、義将の時みたいに締め上げはしなかった。

なぜ息苦しいかというと、あたしがドキドキしてるせいだ。

だって、彼の顔がちょっと背伸びすればキスできるくらい近くにあったから。

このままキスしてくれればいいのに、なんて思ってしまった自分に、顔が真っ赤になった。

でも彼のほうは逆だった。白い肌は青ざめている。


「まさか、こんなことあるわけがない…本当に人間なのか?」

「人間に決まってるでしょ!」

頭が変だって思われたことはあるけど(空気に向かって話しかけているのを目撃されたせい)、人間かどうか疑われたのは初めてだ。

彼はありえない…とつぶやきながら呆然としている。


「あのー…出来れば放してくれない?」

彼は、ああ…と青い顔で手を放した。きれいにアイロンをかけたはずのカッターシャツはしわくちゃになっていた。

成神聡也は額に手を当てて険しい顔をしている。かなり動揺してるみたいだ。

その証拠に、さっきもあたしの目の前で「身体能力」を披露しちゃったし。


「まあ、そんなに気を落とさないでよ。誰にも言わないから」

成神くんって鬼なんだって、なんて言っても信じてくれる人はいないだろう。

「あんたには悪いが…」

彼は額から手を離した。瞳はいつもの鋭さを取り戻していた。

「記憶が消滅していない以上、消えてもらう」





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