第14話
「まったく!どこのどいつだ、罰当たりめ!」
庭そうじから帰ってきたおじいちゃんは、顔を真っ赤にして怒っている。
檀家のお墓を誰かに破壊されたことにそうとうご立腹らしい。
あたしはその真相を知っていたけど、黙ってもぐもぐご飯を食べた。
昨日のことを説明するには、幽霊を見たことから言わなければいけない。このカタブツおじいちゃんは幽霊なんて信じていないから、あたしが夢を見たと思うか、病院に連れて行くかどちらかだろう。
だからおじいちゃんは、あたしの解決屋のこともおかしな小遣い稼ぎか何かだと思っている。
「ほんとにけしからんやつだ…仏様を粉々にしおって!今度来たら取っ捕まえてやる」
おじいちゃんはぶつぶつ言いながら納豆をぐしゃぐしゃ混ぜた。
墓石をぶっこわすようなやつを果たして捕まえられるのか不明だけど。あの真っ赤な瞳を思い出した。
そういえばどこかで見たような気がする。あの血のように赤い瞳を――そう、あの夢の中で。
昨日見たやつは夢の中のあいつなの?
だとしたら、あの恐ろしい夢が現実に起こるということだろうか。――冗談じゃない!殺されるなんて。何も起こらないことを祈るのみだ。
あたしは身震いして味噌汁をすすった。
うちの朝ごはんはいつも味噌汁が出る。圭太に言わせると「何入れてもいいし作るの楽だから」らしい。
ちなみに今日は野菜とちくわ、そしてトウモロコシが入っている。味噌汁にトウモロコシなんて、コーン好きのあたしに言わせればまさに冒涜。
ああ、一度でいいからベーコンエッグに野菜サラダに、あつあつのコーンスープの朝食を食べたい…
自分の料理の腕をここまで口惜しく感じる瞬間はない。
でもまあ、朝食は手抜きだけど、圭太は晩ごはんにはかなり手をかける。ああ見えて料理にはこだわりを持ってるから。
あたしなんかが作ってる途中にキッチンに入ろうものならとたんに追い出される。あたしに手伝わせるとどうなるか幼い頃から身をもって経験してきたからだ。圭太の料理の腕はあたしの存在によって磨かれたと言ってもいいくらい。
あたしも少しはうちの食生活に貢献したいって思ってたけど、最近何もしないのが一番だとわかった。
あたしにできるのは、洗濯機を回して中身をおじいちゃんに干させるくらい。
口の中でトウモロコシと味噌がビミョウなハーモニーを奏でていたけど、文句は言わないでおいた。
圭太がいるから家事が成り立ってるんだもの。多少口の悪さに目をつぶれば、いい旦那さんになるはずだ。
「なあ」
ご飯を食べ終わって玄関に向かおうとすると、圭太がふいに声をかけた。珍しく怪訝そうな顔だ。
「何?」
「…いや、やっぱなんでもない」
「あたしに一日会えなくてさみしいか?そうかそうかー」
「超嬉しい!」
あっそ、ふーん。あたしはすたすたとキッチンに戻っていく圭太の背中を視線で攻撃しておいた。
外に出ると、息が白かった。冷たい空気に触れた肌がピリピリする。あたしはマフラーに顔を深くうずめた。
今日も自転車はスタンバイされていた。荷台に義将を乗っけて。
『おまえ寒そうだな』
着物一枚のあんたのほうが寒そうだけど。でも真冬に何を着てたって義将には関係ない。感じないんだから。
「いいから学校行くわよ」
あたしは裏のお墓をちらりと見て、自転車に飛び乗った。