第12話:新たな謎
いつもより30分も早く学校についた。
学校にはまだ人がまばらにしか来ていないみたいだ。
教室のドアをガラッと開けると、他の子と話していた麻海があたしに気付いてそばにきた。
「おはよ万夜、今日早いね…いつもはギリギリに来るのに」
「ちょっとね…」
そう言いながらあいつの席をちらっと見る。
まだカバンがない。
「あの転校生、まだ来てないんだ…」
「ううん、来てるよ?」
「へっ?」
「私、今朝見かけたの。屋上に行く階段を登ってったよ」
屋上ね…行ってみるか。あたしはくるっとUターンした。
「サンキュッ、麻海!」
麻海はにっこり微笑んだ。
薄暗い階段を一段とばしで駆け上がる。
何でこんなに急いでるのか自分でもわからないが、妙に気持ちが急いていた。
息を弾ませて、屋上に出る扉の前に着いた。
薄汚れた扉はちょこっと開いている。やっぱりここにいるんだ。
顔を押し当てて隙間から外を覗いてみた。
広いコンクリートの地面に一人寝っころがっている人影が見える。間違いなく、彼だ。
寝ているのだろうか?そっちのほうが安心だけど。
『あいつに会って何話すんだ?』
うーん確かに…何を話せばいいんだろう?まともに言葉のキャッチボールはできないだろうと断言できる。
「とっ、とりあえず、あいさつからよね!」
気合いを入れてガッツポーズで言ったのに、義将はため息をついた。
『いや、やっぱオレが見てくるから小娘はここから覗いてろ』
義将はウサギから出てくると、ふわふわとあいつに近付いていった。義将は寝転がっているあいつの顔を覗きこんだ。
『おーい美少年、起きてるかー?おーい!!』
そう、彼の耳元で叫んでいる。
なに無駄なことやってんだか…聞こえるはずないのに。
すると、成神聡也ががばっと起き上がった。
――それだけじゃない。なんと、あろうことか義将の襟元をがっと掴んだのだ!
あたしは心臓が飛び出しそうになった。
幽霊に触れる…?そんなのありえない!
義将は突然掴みかかられてどっきりしている。
『お前…何でオレに触れるんだ?』
義将は苦しまぎれに言った。
「――さっきから黙って見ていれば…人の眠りを邪魔しやがって」
そう低くつぶやき、成神聡也は掴んだ手に力を込める。締め上げられた義将はうげーっとうめいた。このままじゃ義将が危ない。
あたしがまごまごしていると、成神聡也は振り返らずに言った。
「あと、そこにいるやつ。何してる?」
ぎくっ。間違いなくあたしのことだ…
ばれたならもう隠れている必要はない。あたしはそろそろと戸を開けて屋上に出た。
「あの…その人、放してあげて」
あいつは頭をかすかにこっちに傾けた。
「この幽霊…あんたの連れか?」
うーん、連れっていうか、なんというか…
あたしが迷っていると義将が目で訴えてきた。『何でもいいから言っとけ』と言っている。今にも死にそうだ。
「あー、うん。まあそんな感じ」
成神聡也は怪訝そうにあたしを見て、ぱっと手をはなした。
義将はすぐに飛びのくと、げほげほと咳き込んでいる。
彼はすっと立ち上がってあたしのほうを向いた。
「あんたも幽霊を連れて歩くなら、ちゃんとしつけとけ。人の睡眠を邪魔しない程度にはな」
そう言って義将を睨んだ。当の本人はぜいぜい言いながら必死に呼吸を整えている。やれやれ。
成神聡也はふんと鼻を鳴らし、あたしの横を通り過ぎて屋上から出て行こうとした。
そこであたしは大事な質問を思い出した。ぱっと振り向き、階段を下りていく彼に叫んだ。
「ねえっ!何でさわれるの!?」
彼は足を止めて振り返る。
「あんたが知る必要はない」
そう一言言って、すたすたと階段を下りていった。
あたしはしばらく動けなかった。あたしと同じように幽霊と話せて、しかも触れる…どうなってんの?
ようやく正常な呼吸を取り戻した義将がよろよろと戻ってきた。
「まあ、あれだな…かなり…力が強いってことは確かだな…うん」