第11話
ちゅんちゅんと小鳥の声がする。あたしはぱっちりと目を開けた。
まだ外は明るくなったばかりらしく、カーテンからオレンジ色の光が差している。
こんなに早起きしたのは久しぶりだ。背伸びをして部屋を見渡す。
やっぱり義将はいない。
あたしは制服に着替え、髪型もワックスでばっちりセットした。
そして、じっと鏡を見つめた。目の下にうっすらくまができているけど、どこにでもいそうな普通の少女が映っている。
――あのおなごはお前のことを信じて、依頼したんだ。
昨日の義将の言葉がよみがえる。
違う。あたしはそんな大した人間じゃない。ただ能力を持ってるだけ。嫌なことからはさっさと逃げ出そうとする、最低なやつだ。
だけど、そのままで終わりたくはない。
こんなあたしでも、あの女の人のためにできることがあるって信じたい。
あたしはしゃきっと体を起こして、階段を下りた。
キッチンに行くと、圭太が朝ごはんを作っている最中だった。
「えっ…万夜!?いったい何があったんだよ?」
圭太は万年お寝坊のあたしが立っているのを見て、信じられないって顔をした。
「別になんでもないわよ」
圭太は疑わしげにじろじろ見てきた。
「ふーん…万夜にもちゃんと早起きする知能が残ってたのか。びっくりだなこりゃ」
「んだとっ小僧!」
あたしは必殺パンチをお見舞いした。
「おわっ!いってーな、味噌汁こぼれるだろ!バカ!」
なべを片手にぶんぶん腕を振り回す弟はかなりかっこ悪い。あたしは思わず笑ってしまった。
あたしは早めにご飯を食べて、出かける支度をした。
今日は絶対に、ちゃんと話してやるんだから。もう怖い気持ちは一つもなかった。
今からでも遅くないだろうか。義将をがっかりさせてしまったけれど。
もうあたしに失望して、帰ってこないかもしれない。
そう思うと、一瞬暗い気持ちがよぎる。そして、ガラガラと戸を開けた。
するとあたしは、家の前にあたしのおんぼろ自転車が置いてあるのを見つけた。
自転車は倉庫にしまっているので、ここにあるはずはない。でもあたしにはすぐその原因がわかった。
荷台の上に乗っかってあぐらをかいているのは、義将だったからだ。
きっと、霊力でここまで運んできてくれたに違いない。
あたしの足音に、義将は振り向いた。
『やる気になったか?』
あたしはうなづいた。
「ごめん。もう絶対、投げ出したりしないから」
義将は視線を落として、ぽりぽりと頭をかいた。
『まあ、オレもつい言い過ぎたっていうか。長年幽霊やってると、やっぱな』
あたしは微笑んだ。
「わかってるって」
『ま、とりあえず、こっからが朝日奈万夜の本番ってわけだな』
「そっ」