第10話
こんにちは!実はこのたび、読者のみなさんのおかげでこの小説のアクセス数が2000を超えました!こんなにたくさんの方に読んでもらえるなんて、本当に嬉しい限りです。年末年始で更新が遅くなりますが、みなさんに楽しんで読んでもらえるようがんばって書きたいと思います。これからもよろしくお願いします。
な…何なのよあの男はっ!
あたしは一人トイレでうなだれていた。
なんか感じ悪いし怖いし、どうやってあれと仲良くなれっていうの?
はあー…とひとりでにため息がこぼれる。
『ずいぶん無愛想なやつだな、お前が友だちになる男ってのは』
ほんとよっ
顔を上げて鏡を見ると、今朝スプレーを吹きかけた寝癖は見事に再発していた。
暗い気分で水をつけていると、麻海がトイレに入ってきた。
「あっ万夜、ここにいたんだ」
にこっと笑ってあたしの隣りに立つ。
「…ねえ麻海…さっきの転校生、どう思う?」
麻海はちょっと困った顔をした。
「うーん…何ていうか、近寄りがたい感じだったよね…かっこいいけどすごく怖そうだし」
だよね…
ていうかあれは、自分から近寄らせないようにしてるって感じ。
あの嫌悪感に満ちた瞳を思い出した。
「万夜、隣りの席だけど…がんばってね」
「うん…」
とは言ったものの…
そのあとからの時間は気まずいの一言だった。
『やつ』はこっちに見向きもせずに窓の外を眺めている。
…やっぱりこれは、話しかけるべきなの?
結果は明らかに目に見えているけど。
それにあの瞳に耐えられる自信が全くない。思い出すだけでぶるっと身震いしてしまう。
話しかけたりなんかしたら、視線で殺されるだろう。
――ええい、負けるもんか!
「あああ…あのっ」
なけなしの勇気をふりしぼる。
ありえないほどかっこいい顔がこっちに振り向いた。
うわーっあたしほんとに話しちゃってる。
「え…ええと、その、困ったこととかあったら何でも聞いて…下さい…」
なんであたし敬語?
思わずツッコミを入れてしまうほど情けないしゃべり方だ。
すると相手はふっと視線をそらした。
「――別に、あんたに世話になることなんてない」
そう冷たく言った。
こいつ…こっちはこんなに親切に言ってんのに…!
笑顔が引きつりそうだったが、ギリギリ我慢した。
「あ、あはは…まあそんなこと言わないで…あっ、あと学校の中とかわからないとこあったら…」
「いらないって言ってるから」
成神聡也は突きはなすように強く言い放った。
「あんた、しつこい」
その言葉が心をぐさりと刺した。
――さっきの眼だ。
びくっと心臓がはね上がった。憎しみと嫌悪感をひしひし感じて、背筋に寒気が走る。
「ご…ごめんなさい」
謝ってその場から立ち去るしかなかった。
そしてそのあとは成神聡也と一つも言葉を交わすことなく、一日が終わった。もうあたしに、それ以上話しかける勇気はなかった。
帰り道、あたしは自転車をとぼとぼ押して歩いていた。
あたしは何をしたわけでもないのにゲッソリと疲れ切っていた。
持ってる精神力を全部使い果たした気分だ。
家にたどり着き、夕飯も食べずにベッドに倒れこむ。
とにかく今は何もせずに休みたかった。
義将が負のオーラを発しているあたしに近づいてきた。
『ま、お前には少々難しい相手だってこったな。明日またがんばればいいんじゃないか?』
と、何気なく言った。
あたしは聞いてるようで聞いていなかった。頭の中がもやもやした感情で埋め尽くされていく。
――あたし、何やってんだろ。見るからに冷たい転校生にわざわざ話しかけて?結局突き放されて?かっこわる…
「――もうやだ」
心に積もった不満が固まっていく。
口からわずかに漏れた気持ちは一気に流れ出した。
「もうやだよ、こんなの。大体、何であたしはこんな意味不明なことしなくちゃいけないのよ?あの女の人が自分で会いに行けばいいじゃない。おかしな依頼してきて…あいつと仲良くなるって何?あんな感じ悪いやつと?意味分かんないしっ!」
愚痴まじりに一気にぶちまけた。
部屋はしんと静まり返っている。――あれ?なんで何も言わないの?
『お前、本気で言ってるのか?自分で会いに行けばいいって?』
「え…?」
義将は険しい顔をしていた。あたしが見たことない義将だった。
静かな声に、聞きなれた明るい面影はない。
『どんなに話しかけても気付いてもらえない。だから見てることしかできないんだ。幽霊がどんな思いをしているか、考えたことがあるか?お前は簡単に幽霊と話せるからわからないかもしれないけどな』
あたしは何も言えなかった。
『きっとあの幽霊も何かを伝えられずにいる。お前はそれができる。だからあのおなごはお前のことを信じて、依頼したんだ。それを投げ出すのか?オレも、力になれるやつはお前だけだと思うけどな』
義将はそう言ってふっと消えていった。
あたしは空っぽの部屋に一人取り残された。時計だけがカチカチと音を響かせている。
――幽霊がどんな思いをしているか、考えたことがあるか?
いとしい家族にも友達にも存在を気づいてもらえない、思いを伝えられない歯がゆさ。空気のように扱われるつらさ。
あたしは幽霊とも人間とも話せる。思ったことをすぐに伝えられる。
そんな気持ち、考えたことなんて、なかった。
――どんなに悲しいだろう。
その夜あたしは沈んだ気持ちで目を閉じた。