プロローグ
目の前には果てしない闇が続いている。
あたしは制服姿で一人立ち尽くしていた。
後ろからこれまでにないような殺気を感じる。
あいつが追ってきているのだ。
あたしの息の根を止めるために。
逃げようと必死に足をバタバタと動かす。
でも今回もやっぱり、夢の中にありがちなスローモーション。
全力疾走しているはずの足は、のろのろと虚しく空をきった。
体が逃げろと悲鳴をあげている。
わかってる、わかってるのに体が言うことを聞かない。
『どこまで逃げる気だ?お嬢さん』
耳元であいつがささやいた。
ぞくりと背筋に恐怖が走る。
いつの間にか、あいつはすぐうしろに追いついていた。
震える息をか細く吐き出しながらおそるおそる振り返ると、突然大きな手で頭をつかまれ、あたしの足は地面から離れた。
あいつの指が頭を締めつけ、爪が食い込むのを感じた。
頭が割れるような痛みの中で、あたしは薄く目を開けてあいつを見た。
はっきりした顔はわからない。
人であるかさえも。
人間のような姿かたちなのに、頭からは2本の角。
欲望で血走った眼は、本物の血なんかよりずっと鮮やかな 赤。
あいつは口元をゆがめ、残忍な笑みを浮かべた。
開いた口から獣のように鋭い牙が覗く。
あいつにとってあたしは獲物なのだ。
殺しの欲求を満たすための。
あいつは右手をゆっくり持ち上げ、ナイフのような5本の爪をあたしに向けた。
もうすぐあれがあたしを八つ裂きにする。
あの凶器からはきっと逃げ切れない。
体を堅くし、痛いほどきつく目をつぶる。
あいつの勝利の高笑いとともに、焼け付くような痛みが体を貫いた。
悲鳴をあげる暇もなく、次の痛みが襲う。
叫ぼうとした喉も引き裂かれる。
なまあたたかいものが体を伝う感触を最後に、意識は遠のいていく。
死ぬならそれでいい。死んでこの痛みから解放されたい。
早く
早く終わらせて