表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

名探偵・藤崎誠シリーズ

スマホを持とう!

作者: さきら天悟

2021年、日本は経済危機に直面した。

東京オリンピックは無事成功したが、

それ以降、国民の心を躍らせる未来が見えなかった。


自動車産業は大転換期を迎えた。

ドイツが開発した大容量蓄電池により、ガソリン自動車以上の走行距離が可能になったのだ。

また、大型トラックやバスへの使用も耐えうるものだった。

これにより、日本の自動車産業は崩壊した。

ガソリン車はすべて電気自動車に代わってしまった。

ほとんどの特許を海外メーカーに抑えられ、

高いロイヤルティーを払って製造するので、ほとんど利益がでなくなってしまった。

関連部品メーカーも全滅だ。

失業率が低かったA県だが、今や15%を超えていた。


公称2500億円で建設された(実際は3000億円以上)新国立競技場は、

輝いていた日本の墓標となってしまった。


日本政府の政策の失敗で、高齢化社会への対応も遅れてしまった。

格差が広がり、我慢強さを誇っていた日本人は今や消えかかていた。




「経済、格差、老人医療・介護、年金など問題は山積みですね」


30半ば端の男が発言した。

彼は、このメンバーでは不釣り合いなほど若かった。

それに探偵だった。自称名探偵藤崎誠である。

彼は、総理補佐官の太田の強い推薦で、この会議に出席していた。


長楕円の卓を囲む総理をはじめ、主要閣僚、与党三役、官僚、有識者らは、

塗りたてのコンクリートについた猫の足跡のように彼を見つめた。


藤崎はシビレを切らしていた。

既に1時間が経っていたが、期待が持てる意見は何もなかった。

それもそのはず、この会議も今年に入り既に5回目だった。


「ムダを削減して、行政改革?つまらないですね」

藤崎は内心、おまえらがムダだろ、と思った。

メンバーらは藤崎を睨んだ。


「私に日本を救うアイデアがあります」


藤崎の挑発に彼らは目を少し輝かせた。


「スマートフォンです」


彼らの目の輝きは一瞬で失われた。

今さら、スマホ?と言う表情が顔ににじみ出ていた。


日本市場はA社が独占していて日本メーカーに入り込める余地がなかった。


藤崎は予想通りの反応を見て、

バカなやつらだと思った。


「小学生から高校生までの子供に無償で支給します」


「貧乏人だけか?」

与党幹事長がヤジを飛ばした。


「日本製のスマホを全員に支給します。

これは格差対策、経済対策になります」



「A社が許しますか?」

官僚の誰かが発言した。



「独自仕様にします。

例えば20時から6時まで使用禁止にします。

また、学校、病院、電車など公共施設での使用を禁止します。

またネットでは匿名性を排除し、健康保険証として使用できるようにします。

究極のガラパゴス仕様です。

世界シェアを狙うA社は手を出さないでしょう。

またアプリは完全に無償化します」



「アプリがタダ?」

そんなのでアプリメーカーが参入するわけないだろう?」



「メーカーにはテスト市場と認識してもらえばいいのです。

日本で評判なアプリなら海外で通用するでしょう。

英語表記のアプリなら子供たちの英語の勉強にもなります」



「確かにスマホメーカーは儲からるかもしれない。

そんなので日本の経済対策になるのか?」



「今や子供のスマホにかかる家庭の支出はバカになりません。

その分、消費に回れば経済効果も期待できます」



「究極のガラパゴス?

本当にそれでいいのか?」



「はい、日本で成功すれば、これをビジネスモデルとして海外に展開可能です」



う~、メンバーらは腕を組んで頭を捻っていた。

しかし、彼らにこれを上回る意見を持ち合わせていなかった。






20年が経った。

太田は総理大臣になっていた。

太田が推薦し、おし進めた藤崎の政策が、日本を救ったのだった。


スマホメーカーは業績を伸ばし、既にA社を追い越していた。

高校を卒業した子供たちは、藤崎の期待通りに同機種を使い続けた。


それに以前から問題となっていた裁判数が激減したことにより、政府の財政負担を軽くした。

携帯料金未払いの裁判である。

強欲弁護士らは、過払い金差し戻し請求に代わる飯のタネとしていたが、

彼らの成長とともに裁判は減って行った。

つまり、その分国家負担が軽くなった。



しかし、藤崎誠の真の目的はそれらではなかった。

いわゆる2040年問題だった。

高齢者の自殺である。

理由は経済的なことではなく、孤独だった。

彼らの遺体には特徴があった。

スマホを胸に抱えていた。

彼らは若いころからSNSに依存し、スマホを手放せなかった。

いわゆるスマホ中毒だった。

老いとともに交友相手が減ることを自分のアイデンティティを失うことのように気にした。

そして、心を酌み交わしていた相手が老いで死んだことが分かると、

明日への希望を失い、自殺したのだった。


新たな相手は見つけられなかった。

新たなグループに参加はできるのだが、

すでに密接な関係者が構築されているので、入り込む余地がなかった。

実は、そのグループも新参者を受け入れる気は毛頭なかった。

受け入れるフリをするのは、自分たちの絆を確認するためだった。


自殺した者は、ようやく気付いたのだろう。

本当の孤独を。

一人でいることが孤独ではなく、

周りに人がいるのに一人だということが本当の孤独であると。



藤崎は、この2040年問題が起こることを予想していた。

そのためにはスマホに依存しない子供に育てるべきだと。

だから20時から6時まで使用禁止にした。

それが見事に成功し、スマホを手放せない子供が激減した。

実は、経済効果などはどうでも良かったのだった。




余談。

日本政府が抱えていた高齢者や年金問題が、一部緩和された。

それを解決したのは、スマホ依存者の自殺だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ