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何でもない男の話  作者: 雲太
1章 何でもない男の誕生した話
8/20

8話 家族か・・・色々あったし、すでに戻ることもできない存在だが、それでも、大切なものだ。それは世界を違えても変わることはない。

今回は主人公の背景を書いています。

第2話同様、医学的内容が出てきますが、差別的意図は一切ありません。

ポロン・・・ポロロン・・・

夏のまだ明るい夕暮れの空の下、弦を軽く弾き調律する。座学までの一時間に満たない時間は、雲雀にとって貴重な自由時間である。

効率を優先するにしては無駄な時間と見えるかもないが、緩めるところもないと物事は続かない。こちらにいっしょに運ばれてきたヴァイオリンとギターは、ナイナイ尽くしのここで数少ない雲雀の娯楽だ。

今日は気分的にヴァイオリンなので、ギターの調律はしない。弓に松脂をつけつつ、大分量が少なくなってきた、一人語ちる。一応、スペアも持ってきているので余裕はあるのだが、使い切ったら面倒だ。

セヴィが言うにはこちらの世界にもヴァイオリンやギターに相当する楽器は存在するので、大きな街に行けば手に入るらしいのだが、この森で手に入れるのは無理だ。

もしかしなくても、自分で松脂を採取する必要があるかもしれない。

頭をよぎった面倒な考えを振り払い、ヴァイオリンを肩に乗せる。何を引こうかと一瞬考え、思いついたまま弓を弾いた。


~~~~~~~~~♪


森の中に伸びのある音が響き渡る。実に楽しそうに響き渡るその音は、ヴァイオリンを弾くというより、ヴァイオリンが歌っているかのようだ。

『本当に多才だな、お前は。戦闘や魔法の才だけでなく、音楽の才まであるとは』

もはやいつもの事になりつつあるセヴィの呆れ声に、雲雀は弓を止めることはないまま苦笑する。

確かに自分は色々とできることが多いが、その理由の大半が生まれ育った環境にあるからだ。



雲雀は日本のとある地方にある、名家とはいかないまでも、それなりに歴史をもつ旧家の三番目の末っ子として生まれた。

当時の雲雀は、遺伝子学上も後に芽生える自己認識性も男性だったが外見だけは女性体をしており、また旧家の風習からか馴染みの産婆の手によるによる自宅出産によって生まれた為、詳しい遺伝子検査をしていなかった家族は、当然、彼を娘と思い女性として育てたのだ。

元々上の兄弟は二人とも男だったので、初めて生まれた娘に、両親や祖父母は旧家の一人娘として恥ずかしくない教育を施そうとした。勉強はもちろんの事、お茶やお花の行儀作法や音楽まで。将来、旧家に相応しい家柄の男性に嫁がせる気満々で育てたのである。

見た目は女性だが実際には男性である雲雀にとって、この生活は当然ながら非常に不本意なものであった。

幸い習い事自体は、元々の器用さに加えて何事にも好奇心旺盛な事も有り、さして苦には思わなかったが、習う理由が“女らしくある為”であり、身に付けさせられる衣服や所作・立ち振る舞いなどに女性らしさを求められるのは、苦痛でしかなかった。

普通ならばそこで反発し、女らしくあることを拒否したのだろうが、幸か不幸か雲雀は非常に理性的であり、観察力にも状況判断力も優れていた。その為、兄たちが自分たちの置かれている状況や掛けられている両親や祖父母のプレッシャーに、どう対応しているかを見て、自分がいかに女性であることを否定したところで、無駄な徒労と苦痛を受けるだけで何の解決もできないことを、誰に言われるでもなく理解してしまった。

そこで雲雀は、自分が成長し自由に行動できるようになるまで敢えて反発せず、少しずつ自分が過ごしやすいように状況持っていきつつやり過ごすという道を選んだ。例としては華道を学ぶ傍ら、護身ができるようになりたいと言って古武術で体を鍛えたり。社交ダンスを習わされる代わりに、ボーイスカウトに入ってサバイバルの基礎を習ったりといった具合である。

家族には旧家の娘としての勉強と思わせつつ、実際には男らしさを身に付ける為のあれこれを学んできたのだ。

はっきり言って子供が考えるような内容ではないのだが、雲雀の持つ優れた本能がその選択をさせたのだろう。


結局その生活は雲雀が14歳の時、家族によって入れられた私立名門女子中学の海外修学旅行前に行う精密な健康診断によって、事実が明らかになるまで続いた。



~~~~♪~~~~~~~~♪♪


朗々と響くヴァイオリンの音。

歌うように流れるメロディーは、しかしクラッシックではなく、某パソコンゲームのオープニングテーマ曲だ。他にも雲雀が好んで引く曲は、クラッシクよりもゲーム音楽やアニメや映画音楽、ポップスなどが多い。

これらは当然ながら実家にいた頃には弾くことはできなかったものだ。弾けるようになったのは、叔父の家で暮らすようになってからである。


あの事実が分かった後、当たり前だが調べた学校も、知らされた家族も大混乱に陥った。

学校からすれば名門女子中学に男子生徒がいたことになるわけだから問題になるのは当然だし、家族からすれば一人娘のはずが実は三男だったとなるわけだから、こちらも混乱するのは当然。

特に家族は、雲雀本人には知らせていなかったがその頃既に親が許嫁を決めており、その事も有ってこれ以上ないほどのショックを受けた。

もちろん男同志で結婚させるわけにはいかないから、家族としては全てを秘密にしたまま婚約破棄ということにしたかっただろう。

しかし判明したのは学校の健康診断でのことだ。しかも両親が進んで入れさせた名門校である。名家・旧家の子女が大勢通う学校――隠そうにも隠しきれるものではない。

当然ながらその事実はさほど時を置かず、ある一定以上の家の関係者に知れ渡ることになった。

旧家の一人娘が実は男――このある種のスキャンダルに、家族は頭を抱えた。特に家柄に誇りを持っていた両親や祖父母は、家の面目が潰れたことを嘆いた。


もちろん、これは雲雀が悪い訳ではない。それは家族も分かっている。


しかし体面を重んじる両親や祖父母は、それが壊れる原因になった雲雀をそれまでと全く同じように受け入れることは難しくなっってしまった。特に事実が判明した後、雲雀が自己認識が男性だったことを打ち明けると、尚の事それが強くなった。


結果、雲雀は家を出て叔父の元に預けられることになったのである。



『お前、随分と苦労していたのだな・・・』

この話をした時、セヴィは珍しく同情したように告げたものだ。

たまたま少し遺伝子に欠損があった為に、日常生活には何の支障もないにもかかわらず、家族に見捨てられたような形になったのである。そう思うのも当然だ。


しかし雲雀としては、家族に対して恨みはないし、妙なしこりも持っていない。


両親や祖父母がどれだけ家を大切に思って生きてきたのかを知っているし、雲雀に対して愛情が無くなった訳でないことも理解している。

ただ長年積み上げてきた価値観故に、すぐに事実に向き合うことが難しいだけなのだ。

その証拠に家を出てからというもの、会うことは少なかったが、毎月必ず様子を心配して確認の電話をかけてくるような人たちだったのだから。

それに両親たちはともかく、兄たちは戸惑いつつも自分の事を受け入れてくれていた。

長兄は家を継ぐという関係上、体面もあってあまり会わなかったが、次兄は時間があると顔を見に来ては一緒に食事をしたり話をしたりしていた。


そして自分を引き取ってくれた叔父。


この人は雲雀とは違う理由で結婚が不可能な人であり、家を出ざるを得なかった人だ。自分の子供が持てないこともあり、同居人と共に雲雀を自分の息子同然に受け入れ、好きに学ばせ教えてくれた。

全体として見れば、確かに少しツイていなかったし面倒なことも色々あったが、雲雀は自分が不幸だったとは思っていない。

だからこそ鳥谷雲雀という人間は、本人の自覚はないものの、ここまで稀有な人間となったのだろう。



~~~~♪♪~~~~~~~~♪♪♪~~~♪


いつの間にか曲が変わっている。

ちなみにこの曲もクラッシクではなく、友人知人によって知らされた魔法が出てくる某少女向けアニメの登場生物のテーマ曲である。アニメに興味はないが、フィドル風の曲調が気に入って耳コピーしたものだ。


星がはっきり見え始めた黄昏時の空。

次は夏がテーマの曲もいいかもしれない――かつて活躍した某少女バンドが歌った少年時代の思い出を歌った曲を思い浮かべ、笑みを浮かべる。



“秘密基地”なんて正にこの場所にピッタリだと、実に楽しそうに笑った。


閑話的お話。

なお、主人公のヴァイオリンのモデルは某動画投稿サイトのお面の有名人さんです。

好きなんですよ、あの人の演奏ww

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