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何でもない男の話  作者: 雲太
1章 何でもない男の誕生した話
7/20

7話 魔法は実は科学的なものだ!と以前誰かが自作の小説の中で叫んでいたが、確かに正しいようだ。魔法とは言え、物理的事象を伴う以上は科学の範疇からは逃れられないのだろう。

前回の続き。まだ続きます。

「ごちそうさま」

きれいに空になった食器を前に、手を合わせる。

本日の夕食は、つぶした自然薯に灰汁抜きした野草と干し肉を加えて焼いたお好み焼きモドキと、茸と魚のスープだ。どちらも味付けは塩のみなので単調なものだが、ひと月ぶりに食べることのできた穀類に大喜びの雲雀は、上機嫌で夕食を終え、自作のお茶を飲みつつホクホク顔だ。

「やっぱり、穀類は、偉大、だな。惜しむらくは、ソースが、ない、事だろうか」

色々な雑学知識豊富な雲雀だが、さすがにこの状況でソースを作ることはできない。一応、レシピは頭の中にあるのだが。

「ここの、果実、だけでは、種類が、足りないだろうし、スパイスも、足りない・・・せめて、醤油が、あれば、まだ、変わるのだが」

醤油や味噌作りの知識もあるのだ。その気になれば作ることはできる。・・・ただ、やはり材料がない。

「さすがに、まだ、麹菌を、空気中から、取り出す事は、できまないからな。なにより、大豆が、ない」

先住者の保存していた種類に大豆はなかった。一応、ひよこ豆はあったのだが、果たしてこれで味噌はともかく、醤油ができるだろうか?

「う~ん・・・魚醤、だったら、作れるか?たしか、鮎で、作った、魚醤が、あったから、川魚でも、可能なはず・・・」

基本、必要なのは塩と魚だ。発酵は魔法で促進してやれば良い。

「よし。作ろう、魚醤。あれが、あるだけでも、随分、味が、改善する」

やはり日本人。和食が食べたいのだ。

今後の食生活に思いを馳せ、決意を固める雲雀。セヴィが呆れていることには、気づいてはいるが気にはしていない。だってそれだけ重要なのだから。



食事の片づけを終えると、入浴時間である。初めは単なる行水だったこれも、ひと月も経てばすっかり改善される。

まず小屋の外に転がっていた大盥を改造し、1人用の小さなものだが浴槽を作った。これに魔法で湯を張るのだ。

当初は普通サイズの盥に自力で汲んだ水を魔法で加熱するだけで精一杯だったのだが、今では大盥浴槽に水を張り、湯に変えることも可能になっている。

それもこれも、ひとえに風呂に入りたいという、その一心である。

『もはや執念だな、ここまで来ると。身体を洗うためだけに、魔法が上達するとは・・・』

「べつに、その為だけに、魔法を、使って、いたのでは、ないですよ?」


雲雀としては、もちろん入浴もしたかったが、それ以上に純粋に魔法技術の上昇も狙っての行動だったらしい。

確かに大盥はともかく、普通の盥程度なら竈でお湯を沸かせば事足りるのだ。態々魔力切れでひっくり返る危険を冒してまで魔法にこだわる必要もない。

にも拘らず魔法を使っていたのは、元々の目的が魔力を空にすることにあったからだ。

何事においてもそうだが、物事を身に付けるにはとにかく正しく反復するのが一番である。とくに魔法はファンタジー系のお約束に洩れず、自分の魔力総量を増やすためにも空になるまで使い続けるのが良い。

しかしこの世界に来たばかりで、何から何まですべて一人でこなさなければならない雲雀はやることや学ぶことがとても多く、そうそう限界まで魔法を使い続けるような危険な真似はできない。

その為、できるだけ早く魔法を身に付けたかった雲雀は、日常生活に魔法を多用することでそれを実行したのである。

もちろん最初はすぐに魔力が空になるし、ひっくり返ったらその後しばらくは疲労で満足に動けない。

体力任せの用事の多い日中には行えないので、たとえ体が動かなくても頭だけ動いていれば問題ない座学だけしか残っていない、入浴時に魔法を使うことにしたのである。

何度魔力が空になりひっくり返ろうとも、入浴するために毎日魔法を使い続け、結果効率の良い魔法の使い方の習得と、魔力増量が叶った。


『これだけの量の湯を生み出すのは、かなりの力を必要とするんだがな』

少なくとも、魔法を学んで1ヶ月の新人に普通できることではない。

「これも、単純に、イメージ力の、問題、なんですけどね」

昼間と同じような会話だが、これについては理由が分かっている雲雀は苦笑するしかない。


科学知識の乏しいこの世界において、何もない空間から水を生み出すことは神秘的なこととして捉えられる。つまり、無から有を生み出すという認識であり、実行するにはそれなりの魔力を消費してしまうのだ。

一方、現代科学知識を持つ雲雀は、空気中に様々な分子や原子が存在し、その中に水の分子も存在していること認識している。雲雀にとって何もない空間から水を生み出すということは、空気中から水分子をだけを集めるということを意味する。

よってイメージもし易くなり、必要な魔力も最小限で済むのだ。


「まさか、ファンタジーで、科学知識が、これほど、有効だとは、思いませんでしたよ」

もちろん雲雀とて、初めからこんなに効率的に魔法が使えたわけではない。少ない魔力量で少しでも効率の良い魔法の使い方を模索した結果、科学知識の応用を思いついたのである。

「でも、まだまだ、ですけどね」

空気中から水分子を集め大量の水を生み出すことも、その水分子を振動させてお湯を沸かすこともできるようにはなったが、空気中からいきなりお湯を生み出すことはまだできない。

水分子の収集と振動を同時にはまだイメージできないからである。

「もっと、早く、複雑な、イメージも、できるように、ならないと、いけませんね」

浴槽の外で体を洗いながら一人語ちる。

ちなみに石鹸を使っているが、これは木灰灰汁と木の実油で作った自作の品である。魔法で水分が飛ばせるので、油が手に入り次第すぐに作ったものだ。

試作品だし地球の物と比べて対した品質ではないのだが、石鹸が使えるだけで十分。次からはハーブでも混ぜてみようか?などと思っていたりする。

泡を流して再び浴槽につかりつつ、今後の魔法の使用について考える雲雀。今では風呂を沸かすのも、入浴後に髪を乾かすのも苦労しなくなっている。なまじ効率よく魔法が使えるようになっているので、今度は魔力を空にして総量を増やすことが難しくなるという状態に陥りつつある。

正に≪あちらを立てればこちらが立たず≫な状況だが、できるなら両方立てたいというのが人として正直な思いだろう。

『どん欲だな、お前は。普通ここまで使えるようになるまで、数年かかることも珍しくないというのに』

「自覚、しています、けどね。でも、時間は、有限、ですから」

元々期限が限られているのだから、時間の使い方も効率を追求せざるを得ない。

「明かりは、すでに、魔法を、使用している。火を、熾すのも、使っている。料理の、水は、味の、関係上、魔法は、却下」

掃き掃除は逆に埃が舞いそうで使いたくないし、拭き掃除はすでに汚れを浮かせることで魔法を使っている。となると、あと日常生活で魔法を用いていないところは、洗濯くらいだろうか。

「水流で、洗濯機を、再現・・・時間を、それなりに、使うから、魔力消費も、多くなるか・・・」

ちなみに、石鹸は油の消費を抑えるため最小限しか作っておらず、洗濯には使っていない。

代わりに自然の石鹸といわれるムクロジやサイカチの実を使っているが、やはり石鹸ほど汚れ落ちは良くない。

「汚れを、浮かせるのに、魔力を、使って・・・濯ぎに、乾燥・・・うん、かなり、消費が、増えるな」

これなら魔力を空にすることができるかもしれない。

「これで、ダメなら、後は、縛りプレイ、だな」

敢えて効率の悪いやり方をして、魔力消費量を上げる――魔法上達のために、下手に魔法を使う――なんという矛盾。はっきり言ってやりたくない。


近い将来確実に陥りそうな状況に顔を顰め、いつの間にか逆上せそうになった頭を振る。

覚えの良さが仇になるという、他の魔法関係者が聞いたら激怒しそうな悩みに頭を痛めつつ、湯船を出たのだった。


現代日本人のこだわり、入浴環境が改善されています。

なお、木灰石鹸のレシピ。海外のサイトを見て調べてありますので、知りたい方がいらっしゃるようなら、小説上で公開すると思います。

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