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何でもない男の話  作者: 雲太
1章 何でもない男の誕生した話
5/20

5話 トリップものの一番の問題点は、入浴習慣があるかどうかだと誰かが言っていた。確かに・・・特に一般的な現代日本人にとっては、死活問題に等しいだろう。

前回の続きです。

夕方、予定表より15分ほど早く、小屋の掃除はひと段落した。

もっとも本の類はともかく、発掘した道具類はまだ整理し切っておらず小屋の外に出してある。また、先住者が使っていたらしい衣服もかなりの枚数見つかった。

「一体どこから出てきたのだろうか、この荷物の数々は・・・?」

明らかに小屋に設えてある収納量を大幅に超えている。

「魔術用品と鍛冶関係のものも一緒に突っ込まれている上に、明らかにサイズが違う服がなぜこんなにあるんだ・・?」

本は何とか壁いっぱいに設えてある棚に収めたが、余ったスペースではとてもではないが他の道具が収まらない。さらに小さなクローゼットと衣装箱一つでは、どうやってもこの衣類の山は入らない。

「セヴィ。ひょっとしなくても、魔法で収納を確保する方法とかありますか?」

『ある。亜空間を生み出し、任意の場所と入口をつなげる方法だ。

お前に分かりやすく言えば、青い狸ロボットの不思議ポケットと同じだ』

「あー・・・すごく分かりやすい説明です。四次元収納なんですね。しかし、棚にはそんな便利な仕掛けはありませんでしたし、クローゼットや衣装箱がそうなんでしょうか」

『そうだな。あと、棚の上に幾つか空箱が転がってただろう。あれもそうだな』

「え?あれは小さすぎませんか?一番小さいのなんて手のひらサイズでしたよ」

『大きさは関係ない。入り口に持っていけばサイズの関係なく全て入る。生き物以外はな』

「はあ、いよいよ四次元ですね・・・・まあいいでしょう。じゃあ、物の分別と収納は明日行うことにして、このあとは食事と・・・あと、入浴ですね」

昼に湯にさらして灰汁を抜いておいた山菜があるから、それとキノコで炒め物を作ろう。あと、干しておいた魚もそろそろ良いころだろうから、一枚食べようか。

肩を叩きながらこの後の予定を考える雲雀。

「できれば湯船につかりたいところだが、今日の所は無理だな。盥があったから、あれに水を汲んで体を洗ってしまおう」

昨日今日と一日中森の中と洞窟内を動き回り、しかも昨日は疲れて風呂どころではなくそのまま眠ってしまった。

丸一日洗っていない体は汗と埃だらけ。

潔癖症という訳ではないが、これから一年はここで暮らしていくのだから、可能な限り住環境は良くありたい。水だけでどこまで汚れが落とせるかは疑問だが、少なくともこのままよりはマシである。

「秋だったらムクロジだのサイカチがあるかもしれないが、時期が違うからな・・・」

石鹸替わりに使われる植物を思い浮かべ首をふる。

「今日は水で我慢して、竈の灰で今夜一晩で灰汁をつくろう。そうすれば明日以降はそれで体を洗えるし、どうせあの衣類も洗う必要があるからな。それにも使える」

『そこまでするのか・・・』

実態を持たないセヴィにすれば、入浴に対する雲雀のこだわりは驚くことらしい。

「セヴィ。健康を維持する上で、衛生管理は重要ですよ。むろん緊急性はある程度落ちますが、確保できるならば確保すべき内容です」

可能ならきちんとした石鹸も欲しいくらいである。というか、ある程度落ち着いていい油が手に入れば作るつもりでいるのだが。

「ま、今は願望でしかないですけどね。さ、さっさと食事を作ってしまいましょう」



「ほう、つまり魔法には精霊魔法と詠唱魔法、刻印魔法の三種があるんですね?」

濡れた髪をタオルで拭きつつ、初めて知る魔法について尋ねた。自前のトランクから出した服に着替え、さっぱりとした表情で予定表通りの座学に取り組んでいる。

『ああ。ファンタジー風に言うと、精霊魔術に、白魔術と黒魔術、それからルーン魔術といったところか』



精霊魔法は精霊と意思疎通を図ることでその力を振う魔法。

精霊が力の行使をするため、魔力をほとんど使わないという。ただし精霊と触れ合える資質を持つものが少ない為、使い手は少数。

主に四大元素を司る魔法らしい。


詠唱魔法は自身の魔力を使い様々な現象を起こす魔法。

攻撃から治癒まで様々な種類があり、自身の魔力量によっては精霊魔法よりも強力な威力を発揮する。

ただし逆に魔力が少なければ大した魔法は使えず、またイメージ力によっても威力が大きく変わる。


刻印魔法は文字や魔方陣を使用することで現象を起こす魔法。

事前に刻印を刻んだものが必要になる為、突発的な事態に対しては弱い側面があるが、逆にきちんと法則にのっとって刻印を刻めれば、少ない魔力でも大きな効力を発揮することができるらしい。

また魔道具と呼ばれるマジックアイテム類は、この刻印魔法を利用することで作られているらしい。



『普通はこの内のどれか一つが使えればいい方なんだが・・・お前の場合、かのお方の力で限界というものが取り払われている。そのつもりがあれば、全て使えるようになるだろう』

「チートですね。でも、実際にやるとなると大変でしょう。法則が違うみたいですし・・・まあ、やりますけど。全部」

『だろうと思った・・・』

「でも中途半端になっても問題ですし、優先順位が必要ですね。・・・セヴィ、一般的に使い手が多いのは詠唱魔法と刻印魔法のどっちですか?」

『目にする割合としては詠唱魔法だろう。だが刻印魔法はマジックアイテムに欠かせない分、使い手の数自体はそれほど差はない』

「なるほど・・・では、取りかかり易さで言ったらどちらでしょう」

『それは、詠唱魔法だろう。こちらは法則性はさほど気にしなくともある程度は何とかなるからな』

「そうですか。では、まず詠唱魔法からにしましょう。・・・と、その前に。セヴィ。この世界の魔法は、やはりこちらの世界の言葉でなければ使えないのでしょうか?だとすると、私はまずそちらの方から先に学ばなければなりませんが・・・」

『ああ・・・そう言えばそうだったな。詠唱魔法については言葉の違いは影響しない。“詠唱”などと言われているが、別に呪文を唱えなくても使えるからな』

重要なのは魔力とイメージ力で、呪文を唱えるのはそれらしい内容を口にすることによって集中力を高め、イメージしやすい状況に持っていく為の、ある種のポーズであるらしい。

つまり集中さえできれば、言語は何を使っても構わないそうだ。

『ついでに説明するが、言語を修得するのは必ずしも必要なことでもない。

この世界は多種族が暮らしている関係上、身体的構造の問題で共通言語を話せない種族もいる。そういった種族とも意思疎通ができるように、言語補正がこの世界全体に働いている』

だから単純に生きていくだけなら、言葉を覚えなくても生活はできるらしい。

『もっとも人族は基本、どの種族であっても共通言語を話す。多少の地域差による変化はあるがな。

完全に人族であるお前が全く異なる言語を使えは、間違いなく人目を引くだろう』

ついでに、刻印魔法は文字を使用する関係上、基礎段階を学ぶ上で言語習得は必須だ。

「分かりました。意味のない注目はされたくありません。言葉はしっかり覚えます」

『うむ。じゃあ言語習得については明日以降ということでいいか?それとも、今からやるか?』

「今日はこのまま詠唱魔法についてお願いします。そのつもりで心構えをしていたので、いきなり切り替わっても集中力が続かないでしょうから」

『分かった。ならばまず属性について説明するぞ。

一般的に詠唱魔法は四大元素である火、水、風、地に加えて、光、闇の6種類を基本属性と呼ぶ。他にも基本からの派生属性として雷属性と氷属性があり、特殊属性として時空属性、神聖属性とある。

通常、詠唱魔法を覚えるには、基本属性の初級魔法から始めるのが一般的だ』



実態を持たない為、声だけのセヴィの説明を黙々とメモに書きとめる雲雀。


そして異世界二日目にして初めての魔法学は、定時間のオーバーするまで続けられた。



現代人にとって中世ファンタジー世界というのは、精神的な問題だけでなく、生命維持の観点から見ても、そのままでは耐え切れないものだと思います。

特に温泉大国、衛生大国の日本人にとっては、心が挫き折れるレベルだと思う。

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