3話 そう言えば、テンプレとはイコールご都合主義だと誰か言っていたな。流していた時にチラっと見かけただけだったから、どこの誰が言っていたのかは覚えていないが。
一応、地球産の事柄については調べてから書いてます。
間違ってる可能性も0じゃないけど・・・
基本事項についてある程度の確認が終われば、次に考えるのは今後の行動についてである。
向こう一年間は半径1㎞圏内なら安全であるとの保障は得たが、それはあくまで魔獣や猛獣などの外的要因に対する保障だ。サバイバルにおいての最重要事項の一つである安全な場所の確保については問題ないが、食糧の確保については自力でどうにかしなければならない。
「最悪、二、三日は非常食という手もあるが、やはり可能な限り食糧の確保を図った方が良いだろうな」
取り敢えず、安全圏内で採れる食料をまず探すべきだろう。
「しかし問題なのは、この世界の動植物が私の知識とどれほどの祖語があるか、だ…」
狩猟能力は元の世界の同年代の人間と比べて高い自信はあるが、それはあくまで生まれ育った世界での話だ。見たことも聞いたこともないものばかりでは、正直自分でも生き残れる自信はない。
「そういえば仮聖霊さん。あなたは案内役と言っていましたが、その辺の知識についてはあなたが教えてくれると思っていいのでしょうか?」
『まあな。一応その点についても俺がサポートすることはできる。だが、基本的にこの世界の動植物も、お前の知識にあるものとさして変わらないぞ』
魔獣や魔術といったファンタジックなものもあるが、基本部分においてはかなりの範囲元の世界の知識で補えるという。
「ますますRPGぽいですね。ご都合主義と言いますか・・・まあ、助かりますが」
ならば確認と、可能なら多少の食糧確保も兼ねて洞窟の外に出てみることにする。
(ふむ。では、我はこれ以上の手出しはかなわぬ故、後はお主たちで動くがよかろう。もし、お主たちでどうにもならぬことがあるならば、この文を手に我に呼びかけるのじゃ)
それきり手紙から文字が消え、完全な白紙状態になる。どうやら“監督”との交信が切れたようだ。
まあ、元々口は出せても手は出せない存在なので、居ようと居まいとあまり関係ない。
“監督”が聞けばかなり不敬なことを思いつつ、雲雀は椅子から腰を上げた。
*
「なるほど、ここは山裾の森なのか…。まあ、隠遁した魔術師やら偏屈なドワーフの過ごしていた場所なのだから、周囲に人がいないのは当然か」
「今は初夏か。晩冬からいきなり気候が変わるのは結構きついな・・・まあ、いきなり盛夏に飛ばされなかっただけマシだと思おう。それに今からなら、冬に向けて備えることも十分できそうだからな…」
「ああ、結構大きな川があるな。これは良い。魚も取れるし、水場があれば動物も寄ってくる。肉も確保できそうだ。せっかくだから、簡単な仕掛けでもしておくか」
「おやおや、これはクレソンだな。貴重なビタミン元だ。ある程度採っておこう」
「木苺の類が多い。日持ちはしないだろうが、甘いものは貴重品だ。場所はしっかり記憶しておかなければ」
「お、ゼンマイ発見。おっと、こっちはタラの芽、あ、ワラビもある」
「これはセリ・・・だな。うん、毒ゼリじゃない」
「ナラタケに、ハタケシメジ・・・アカヤマドリまで!確かにあっても不思議ではないが、いきなりこんなにキノコが見つかるとは・・・」
「これは・・・岩塩、か?こんなすぐ傍で塩が取れるとは・・・なんというか、本当にご都合主義っぽいな・・・助かるが」
*
「いや~、採れましたね。まさかとは思いましたが、念のため籠を持っていって正解でした。先住者の方に感謝です」
小屋から持ち出した背負い籠の中に、かなりの量詰め込まれた山菜をはじめとした食料の数々。異世界生活初日としては大成果であろう。
『・・・大した奴だな、お前は。変わり者だとは思ったが、ここまでとは…』
仮聖霊も呆れている。違う世界から跳ばされてきて動揺もせず、初日にここまでしっかり食糧確保をやってのければ、ある意味当然の反応だろう。
「“監督”にも言いましたが、マイナス思考になるのはそれが可能な余裕が出来てからです」
落ち込んでも腹は膨れません。
きっぱり言い切り小屋の中に入る。締め切ってあった為、暗さと埃っぽさは如何ともし難い。出掛ける前に窓と戸を開けておいたのだが、さすがにそれだけでは改善はできなかった。
「これは掃除もしなければ・・・」
まず空腹を満たしてから、そのあとでざっと掃除だな。ついでに小屋の中の物について確認もしなければ。元、魔術師の住家だったというのなら自分にも使える道具があるか探す必要もあるし、何より危険物でもあったら大変困る。
頭の中でこの後の予定を立て、自前のサバイバルグッズから取り出したランプに明かりをつける。
ちなみに、小屋の外は洞窟内でありながら明かりを必要としないくらい明るい。ヒカリゴケがあるからか、それとも魔法とやらの影響なのかは分からないが、取り敢えず現時点で影響はないので雲雀は気にしないことにしている。
台所スペースらしい一角にあった竈の側に籠を置き、近くに転がっていた鉄なべを拾い上げると底を確かめる。どうやら穴などの異常はないらしく、使えると判断したそれに籠の中からいくつかの山菜とキノコを取り出し投げ込んでおく。次に台所道具の山から蓋やお玉、たわしを探し出すと、それらを手に外の清水場へと歩いて行った。
サバイバルグッズのライターと小屋の裏に残っていた薪を使い、山菜とキノコと岩塩で作ったスープで食事を済ませた雲雀は、さっそく小屋の掃除を行うことにした。といっても、すでに時間が深夜になりかかっていたので、発掘した箒とぼろ布と桶を使ってベッド周りを中心に軽く掃き、テーブルや椅子を拭いただけだ。
ちなみに埃だらけの布団や毛布を使う気にはならなかったので、今夜は持参の寝袋を使用することにした。
「明日は布団と毛布の虫干しだな。掃除もちゃんとしなければならないし、あと見つけた衣類や道具類の確認と、あとは・・・」
寝袋に入りながら、翌日の予定を考える雲雀。
「鍛冶場の方も覗いてみるか。確認作業はまだできないが、食糧調達に使えそうな道具くらいはないと不便だしな」
多少は自作することもできるが、物があるならそれを使った方が性能も効率も断然良い。
「午前中に川の仕掛けを確認して、採れるならほかに野草でも採って、午後は小屋の片づけと・・・」
少しずつ、つぶやく言葉が遅くになっていく。
「そういえば、さっき見つけた本。見事に何が書いてあるかわからなかった。魔法、とかもあるなら、勉強も、しないと・・・」
瞼がだんだん落ちてくる。
「文字は、教えてくれるんですよね?仮精霊、さん、が・・・」
(ああ、ついでに言葉自体も教えてやる)
「あー・・・言葉、も、違う、んですね・・・なんと、なく、予想して、ましたけど・・・・」
非常に眠そうに答える雲雀。さすがに疲れているのだろう。当然と言えば当然だ。
(他に戦い方も学ぶ必要があるぞ。魔獣もいるからな。・・・しかし、まあ・・・)
もはや完全に眠りに落ちかかっている雲雀。
(取り敢えず、今日はもう休息だな)
相棒の言葉は、すでに聞こえなかったに違いない。
第一日目終了です。
なお、ところどころで口調が変わるのは、独り言かそうでないかの違いです。