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作戦

 先ほどなったチャイムの音こそが、生徒全員の絶望の音色に変化した証だった。「もう逃げられない」という感情が、顔の表情を奪う。

「どうする…?何か完璧な作戦でもあるか?」「あるわけねぇだろ!」「落ち着けよ!」という声が部室に響く。小田は、考えるに考えた。そしてある考えを思いついた。その考えは、あまりに良くない考えだ。

「みんな落ち着いてきいてくれ。俺の考えの他に考えがある奴はドンドン答えてくれ。」

 しかし皆無言で真剣な顔で小田の顔を見ていた。みんなの希望は小田の考えだけだからだ。小田は子の学校でも1位、2位を争う学力の持ち主なので、きっと導いてくれると信じているからだ。

「まず落ち着いて考えてみよう。俺らのこの部屋は、全く見たことが無い。これは他の部活も同じだ。そしてテーブルにあるこの地図。これには俺らの部室以外に何にも場所を示していない。つまり他の部活は俺らの部室の位置を知らない。」

 部員の中からは「おお~」「確かに」と言う声がポツリポツリ聞こえる。しかしこれは見ればわかること。作戦になってない。

「んで?詳しい作戦は?」

 林は、もっとも小田の痛いところをついてきた。でも、小田は一通りの作戦を考えていた。

「ルールには、一つの部活と、同盟を組むことができる。この戦争が始まったばかりの今、戦力を増やすこと、そして多くの智恵が必要だろ思う。だから俺のロッカーに入っていたこれを使う!!」

 小田がポケットから出したのは旧型の携帯電話だ。小田がその電話帳をみんなに見せると、各部活の電話番号と考えられる番号があった。そして、福井はある質問をした。

「それで、何処の部活と同盟を結ぶの?」

 ストレートな質問なほど、答えにくい物だが、小田はそれすらも考えていた。

「それは、陸上部だ。」

 キッパリと言い切った小田に対し、部員たちは疑問の声が浮かぶ。

「理由は、三つある。1つは、友好関係だ。これは今までの部活練習などでも、合同で走ったりすることがあるからだ。2つは、個性豊かな知恵を持っている。最後は、機動力だ。これは他の部活でも勝つことが難しいと思う。」

 再び「おお~」「たしかに」の声が浮かぶ。しかしその中から、一人の一年生が反論する。

「先輩!私は反対です。普段は仲良くしている部活でも、これは戦争ですよ?これは、最大の敵と同盟を結んで安全に戦うのがセオリーだとおもいます。」

 反論してきた後輩は、生徒会書記【藤本 あかね】。若干の童顔で、小学生と間違えられる。身長も140あると本人は言っているが、他の女子の情報によると138センチらしい。貧乳で、気が強いので林に次ぐツンデレであるときく。それでも、学力は前回の定期テストで一年でダントツの一位。反論するにはそれなりの理由があるのだと考えられた。

「お前それ嘘だろ? 陸上部に昔の彼氏がいるからじゃねぇの?」

「ば…馬鹿言わないでよ!元彼なんていないわよ!!」

 藤本の右の鉄拳が、からかってきた男子に飛んで行く。しかし男はそれを左手で止める。そして藤本の鉄拳を流す。ニヤリと笑って藤本の頭を撫でる。

「幼なじみに殴りかかるなよ~」

 男は笑顔で答える。彼は、【三浦 拓海】 藤本と同じ1年で、幼なじみ。右だけ跳ねている寝癖と思われるあとは、三浦の家での状況を想像させてくれる。ずば抜けた反射神経で、色々な部活に誘われたが、なぜか弓道部に入った。先ほどの小田の話もあくびをしながらきいている。それでも憎めないいやなやつだ。その理由は、笑顔にあるだろう。モットーは「笑う角には福来る」なので常に笑顔なのだ。

「ところで藤本。最大の敵ってなんだ?」

「・・・(三浦殺す)。最大の敵、それは一番人数の多い部活です。数が多いと色々と有利になってしまうのでは?何処が多いのかわからないですけど…。」

「たしかにこの学校の陸上部は、人数が多いとはいえないですね~。」

 しかし、話している余裕などなかった。

「みんな喋るな! 外で音が聞こえる・・・」

 永野の用心深さが、表に出た。みんなが黙ると、外─廊下から叫び声と、金属音、爆撃音などが聞こえた。弓道部は、まだ一人も外に出ていない。頼りになるのは地図だけだ。しかし外から聞こえた音は、部員の心を深くえぐった。


 『ぐああぁぁぁ・・・ し…死にたくな・・・』


 この声が聞こえた瞬間、ガラスが割れるような音がした。その破片が地面におち、 チリンチリン と聞こえる。やがて、音は静まった。

 しかしそれはこちらも同じだった。耳で聞いてわかっただれかが、死んだ情報。そして更に不安定になった心に更なる追い討ちがかかった。


 キンコンカンコン 『現在9時12分、野球部1年○○君が、サッカー部の△君殺されました。野球部の残り人数は、44人です。』


 驚愕した。いきなりのチャイムの音、そして誰が殺されたか、誰が殺したか、そしてその部活の残り人数が放送によって公開される。弓道部にとって今は嬉しい情報だが、複雑な気持ちだ。


 キンコンカンコン 『~~』


 再び聞こえ音に悲鳴をあげる者もいた。無言で立っているだけの者もいる。ただ、絶望の中何もできないこの無力さをどうにかしようと皆考えていただろう。

「もう戦うしかないのか?」

 永野が言った一言で、永野は立ち上がり、戦闘のための準備をする者が数名居た。それを小田を始めとする残ったメンバーは、止めなかった。止められない。

 そして、永野と7人の部員は、弓と剣と盾を持って部室の外に出て行った。残ったメンバーは椅子に座って小田の顔を見た。残った10人で完璧な作戦を考えるまで、みんな無言だった。

 その空気を打ち破ったのは、小田…でなく、福井だった。

「そうですね~ 私達も作戦が終了次第出ましょう。まずは同盟を結ばないと~』

 のんびりとした口調は、なにかを安心させてくれるような声だった。

「あ…あの! 私も陸上部でいいです!! 反論してごめんなさいっ!」

 藤本の目からは涙が流れていた。まるで小学生が虐められて泣くような感じで、カワイイ。藤本のおかげで、別の感情がうまれた。

「じゃあ、さっきの作戦どうり陸上部と結ぶ。賛成の者は手を挙げてくれ。」

 ゆっくりと10本の腕が上がっている。この部屋にいる奴は全員賛成なのだ。つまり過半数を超えているのでこの作戦は認められた。

「じゃあ俺は陸上部に連絡する。」

 そう言って、小田はポケットから携帯電話を取り出して、電話帳を開いた。なれた手つきで電話を換える。


 プルルルルル・・・ プルルルルル・・・ プルルルルル・・・ ガチャッ!!


『もしもし?陸上部主将の【菊池 さやか】です。そちらは?』

 電話に出たのはもちろん陸上部の主将だ。陸上部は代々女子が主将を務めているらしい。菊池は、2年だが、3年生と間違われるくらい顔がしっかりしている。

「えっと、弓道部主将の小田です。単刀直入に説明します。弓道と同盟を結びませんか?

『いいわよ。こちらも同盟について話していたところだし。ただ…』

「どうした?」

『同盟を結ぶのは、主将同士が会わないといけないらしいの。そちらの部室はどこにあるの?』

 確かにルール上では、同盟は主将が結ぶものとされている。永野が生徒手帳で見つけたのは、同盟についてのページも含む。

 弓道部の部室は二階の突き当たりの教室に属する。この学校は広いので、玄関から歩くと数分はかかると思われる。 小田は場所を説明すると陸上部の部室も教えてもらった。陸上部は、4階の玄関から4つめの教室と言われた。階段を2つ降りる上、結構な距離を通ることになる。が、

『私が走ってそっちに向うわ。 できれば、部室付近で待機してもらえる?』

 

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