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恋を失敗し続ける女と、恋を追い続ける男(3)

     ◆



 立ち上がった私と真幸が見たのは、小柄で可愛らしい顔をした女性だった。

 しかも、ピンクと白のフリフリのゴシックロリータといわれる衣装に身を包んでいる。年齢はパッと見、二十歳代半ばくらい。

 キャラメルブラウンの長い髪は縦ロールで中世のお姫様仕様。

 しかも、カラーコンタクトでアイスブルーとオリーブのオッドアイになってる。

 手には精緻なレースの閉じられた日傘。

 うん。こういう奇抜な人、時々街中で見るけど間近で見ると圧巻よね。

 つかつかと店内を厚底ブーツで突き進んできたその女性は、私の前に両腕を組んで憮然とした表情で立った。


「あんたが御堂円みどうまどか?」


 アニメの少女キャラのような愛くるしい声で、大変失礼な尋ね方をした相手に、私と真幸さねゆきは顔を見合わせる。

 お互いに『知り合い?』と、目配せして確認し合あうけれど、私には覚えがない。無駄に広い交友関係を持っている真幸にしても、どうやら彼女は思い当たらないらしい。


「そうですけど…何か?」


 まるで品定めするかのような視線で、私を頭の先から足の先まで見た相手は鼻で笑う。


悠里ゆうりを腑抜けにするからどんな女かと思えば、この程度?しかもかなり年上じゃない。期待外れもいいところだわ。どういう趣味なのかしら」


 うわぁー、可愛い顔して可愛い声で毒吐きまくりだわ、このヒト

 しかも、佐内青年の知り合いらしい。嫌な予感がプンプンするわ。

 もしかして佐内青年の彼女?修羅場だけは勘弁されたいんだけどなぁ…。


「失礼ですが、貴女は、彼女の品定めの為にこちらへ?」

「そうよ。いけないかしら?」


 真幸が私の代わりに彼女に訪ねてくれたけど、不遜な態度で相手はそう答える。


「彼女は見世物ではございませんので、お客様でないのなら、大変申し訳ございませんがお帰りください」


 営業モードで真幸がそう言葉を返せば、相手の女性が渋い顔をする。


「あんた、この女の男?」

「そういったことは、名前も知らない他人に申し上げる話ではありませんので」

「ふん。関係も明言できないなら口出しするんじゃないわよ。あたしは、この女と話しているの」

「彼女はうちの店員で、今は就労時間中です。名乗りもしない、お客様でもない不躾な貴女に時間を割くのは、雇用主として時間の無駄と判断しますので、どうぞお帰りください」

「あんたの許可なんて要らないのよ」

「いい年をして、よくそんな無知な我儘を臆面もなく言えますね?」

「…いちいち言う事が悠里みたいでムカつくわ、あんた」


 真幸って基本は“アホっぽい良い人”だけど、実は笑顔で毒を吐ける腹黒系なのよね。今回は警戒心強めで、最初から喧嘩腰だわ。

なのに、その真幸のブリザードが吹く言葉を正面から平然と受け止めたこの女の人、かなりきつい性格してるわ。人のこと言えないけど…。

 しかも、純情の塊みたいな佐内青年とうちの真幸が似てるなんて、どういう意味?

 真幸みたいにひねた台詞、佐内青年が言ったところなんて見たことがないんだけど…。

 どちらにしても、彼女が佐内青年と関わり合いがあるのは確かだから、直球で聞いたほうが良いわね。


「サネ、話がこじれそうだから少しだけ黙っていてくれない?」

「良いのか?例のストーカーもどきの知り合いだろ?」

「あのバカ、そんな変態まがいの真似したの!?」


 私と真幸のひそひそ話が聞こえたのか、ゴスロリ美女が悲壮な顔をして驚く。


「毎日、深夜にもう一つのバイト先に来ては、お前に執拗に絡んで迷惑してたよな?」


 彼女のショックに追い打ちをかけるように、真幸が畳み掛ける。まあ、間違っていは居ないので、頷いて同意する。


「あんたのどこに、あいつにそんなことさせる魅力があるわけっ!?」


 歯に衣着せない直球の返答に、思わず苦笑いが出た。

 確かに、佐内青年はイケメンでモテるでしょうよ。

 彼女みたいな美人な子のほうが、並んでいても遜色も違和感もない。

 私みたいな普通のオバサンは釣り合わないわよ。自分の魅力のなさは、自分が一番自覚してるって言うの。

 でもね、思っていても普通口にする?大人なら嗜みとして、オブラートに包むか、こっそり腹の底で思っていてほしいわ。


「そう言う事は、佐内青年本人に確認してよ…それから文句言いに来るくらいなら、佐内青年の事、しっかり繋いでおいて」


 よくよく考えれば、彼女がいるのに私を好きだなんていえるなんて、佐内青年ってばどういう神経なのかしら。


「どうしてあたしが」

「貴女、佐内青年の彼女なんでしょ?」

「はぁ!?なんであたしが悠里の彼女なんてしなきゃいけないのよ!」

「…違うの?」


 心底いやそうな表情になった相手は、左手の甲を私のほうに向けてズイと向ける。

 左手の薬指には、きらりと結婚指輪が光る。


「あたしは佐内松子さないしょうこ!ジローちゃんの妻よ!」

「…ジローちゃん?」

佐内二朗さないじろう、悠里の父親があたしのダーリンよ」


 どう見ても、佐内青年と同い年くらいなのに…彼女、佐内青年の母親?いや、顔は似てないし…まさか、美魔女で若作りなの?…それとも、継母ってこと?それだと随分若いお母さんだけど。


「あのバカ、しばらく浮かれてたと思ったら、突然、ボーっとして仕事にも全然身が入ってなくなって、ジローちゃんが困ってたのよ。調べたら、女に振られたって。だから、悠里を使い物にならなくした女を見に来たのよ」

「苦情でも言いに?」

「そうね、経営者の妻としては文句を言いたいけど、母親としてはグッジョブってあんたを褒めたいわね」


 よくわからないことを言う松子という女性は、うっすら笑った。


「あたし、悠里って感情がない子って思ってたのよ。初めて会った頃から無表情で、感情もほとんど表に出さないから、ものすごく扱いにくかったのよ。あたしだけじゃなくて、父親のジローちゃんにも友達にもそんな風だから恋愛も全然奥手で…。愛想笑一つ出来ないのに、顔が良いせいか『氷の王子』なんて綽名あだなを付けられて変な人気がでちゃって…中学生の時に痴女に遭うわ、ストーカーされるわで、女の子を避けるし性格が歪んじゃうし…まともな恋愛なんてできないんじゃないかって、ジローちゃんとホントに心配してたのよ」


 そんなことを言われたけど、私には俄かに信じられなかった。

 私が知っているのは、初めて会った時から、わんこみたいに人懐っこくて笑顔の眩しいイケメンな佐内青年。

 ふてくされたり、喜んだり、凹んだり、とにかく表情の良く変わる子だと思ってた。だから、松子と名乗った彼女が、私の知っている佐内悠里の事を言っているとは、どうしても思えない。


「…えっと、同姓同名の別人の話?」

「違うわよ!あたしだって、最初にれいから聞いた時は『その悠里はどこの家の悠里よ!』って、思ったけどね!」


 ええそうでしょうとも。今まさに、私がその心境です。

 そして、その礼って言うのは、私が知っている礼?


「…礼って、香山かやま礼のこと?」

「そうよ。礼はあたしの甥っ子。あたしの旧姓、香山だもの」


 あぁ、そういわれると佐内青年と親子と言われるより、礼と血縁があるって言われたほうがしっくりくる。性格も顔のパーツもどことなく似てるわ、礼とこの松子って言う人。


「あんたが、彼女がどうので悠里にキレたって言うから、一応、訂正もしておこうと思って。あのバカに、二股かける甲斐性なんてないし、父親のジローちゃんですら悠里はホモじゃないかって真剣に疑惑持つくらい、女の影がないのよ」

「そ、そう…」


 礼の奴、あの時、仕事もしないで私たちのやり取りを観察してたのね。今度会ったら締め上げとかないと。


「たかが一回、告白を断られたくらいでヘタレるバカだけど、性格ちょっと歪んじゃったけど、女の事で浮かれた悠里を見たのは初めてなの。そこだけ、あんたに分かっててもらいたかったのよ」

「…どうして?」

「さあね。あ、そうそう。あんたを痛めつけてくるってジローちゃんに伝言して来たから、そろそろ悠里が飛んでくるわ」

「は?」


 意味が解らず首を傾げた瞬間、店の扉が豪快に開け放たれた。

 木製の扉が壊れるんじゃないかっていう大きな音に入り口を見れば、白のワイシャツと細身の黒のパンツ姿の佐内悠里が大きく肩で息をしながら、そこに立っている。

 慌てて走ってきたのか、上衣も着ない薄着姿の佐内悠里は、荒い息のまま額に汗をにじませている。いつもの可愛い感じの消えた、不機嫌で怒ったような表情は、ワイルドな印象で目が離せない。息を整えながらゆっくりと近づいてくる彼をじっと見ていたら、突然、抱きしめられた。


「!!!?」





 松子の結婚指輪表記がスコンと抜けていたので、加筆しました<(_ _*)>

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