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愛するより愛される方が幸せって言うけれど…(4)



     ◆




 カットが終わり、ドライヤーでブローされ、ワックスでスタイリングをしてもらった後、ケープを外された私は、出来上がった髪型を鏡でチェックして感動していた。

 Aラインボブになって、短くすっきりしたのは当然なんだけど、自画自賛的に言うと自分の可愛さ三割増しで、小顔効果も発揮してるし、実年齢より四歳ぐらい若返った感じ。

 しかも、お手入れ簡単、お金も節約、なんて私好み!

 嬉しくなって、ナルシストでもないのに五分くらいいろんなアングルから自分を確認しちゃったよ!

 佐内青年、若いけど美容師としての腕はかなりいいかも。将来有望だわ。


「すごいね、君!こんなに良い感じに仕上げてもらったの初めて!」

「気に入ってもらえましたか?」

「もちろん!ありがとう!」

「その…喜んでもらえてうれしいです」


 床に散らばった髪を箒と塵取りで片付けていた佐内青年は、手を止めて私を見てからそう言って照れながらはにかむ様に笑う。

 その笑顔に、ぐっと胸が締め付けられる。

 どうしよう、本当に彼の事が好きだって改めて認識させられる。

 かといって、何時もみたいに「好きだー」って押していきたい感じはなのよね。十近くも年下だって言うのもあるかもしれないけど、佐内青年にはもれなく魔王な父親がついて来るのが一番の理由かも。

 知り合いってだけであの恐ろしさだから、好きだって絡んだから人知れず始末されそうな気がして仕方ない。

 でも、佐内青年とは友達くらいにはなれるかな…。とか、考えている時点で、自分もかなり命知らずなのかもって思ったら、自分の表情が苦笑いっぽくなった。


「出来ればこれからも君に切ってもらいたいかなって思うんだけど…」


 先立つお金の問題と、佐内青年の背後に控えている魔王が怖いのでやっぱ無理です。って、続けようとしたのに、突然迫ってきた佐内青年に両手を掴まれ、ぎゅっと握りしめられて言葉が途切れた。


「な、なに!?」

「お姉さんが呼んでくれるなら、僕、どこにでも飛んで行って、お姉さんの髪を切ります!」


 目をキラキラさせて、佐内青年は嬉々としてそう言う。

 え?なに?出張美容師する気、満々なの!?


「え、いや、だって君、お店でお仕事してるでしょ?そんなの無茶だし無理よ」


 こそこそして、それが魔王に見つかったら、血祭りにあげられる!主に私が!

 だから気付いて!察して青年!

 必死にそう言えば、佐内青年はすっと目を細めて淫靡に笑った。

 ひぃっ!また魔王ジュニアが降りてきた!エロフェロモンのオプション付きで!

 だから君の純情っぷりは何処に行ったんだ!?むしろ、魔王っぷりは何処から来た!?


「お姉さんを侮辱するような真似、二度と父さんにはさせませんよ」


 目が笑ってないっ!笑ってないよ!それ、殺っちゃう眼でしょ!?


「…それに言ったでしょう?『逃がさない』って」


 佐内青年の指先が私の頬をゆっくりと撫でれば、ゾワゾワっとしたものが背筋に走った。

 やばい、色気と恐怖に思いっきり流されそう!いや、ダメダメ!此処で逃げ切らないと、人生至上最悪の男運の悪さを発揮する気がする!

 女は根性!気張るのよ、御堂円!ハッタリでもなんでもかまして逃げ切るわよ!

 って、自分を奮起させて、不敵に笑って見せる。

 ほんのわずかに表情が変わったその隙を見逃さず、私は佐内青年に近付いて彼の頬に軽く口づける。

 無言のまま、大きな目が零れ落ちそうなくらい見開いていた佐内青年が突然、真っ赤に染まる。

 よし!やっぱりこの手の事はまだまだ初心だ!たたみ掛けちゃえ。


「私を捕まえたいの?それは、君のベッドテク次第だけど…お試ししちゃう?」


 大胆に、人生初の台詞をちょっと上目遣いに挑発的に言えば、佐内青年は眼どころか口まであんぐり開けて、耳や首まで真っ赤になった。

 いや、自分も恥ずかしくて死にそうなんだけど、魔王のままの彼の手に堕ちるくらいなら恥をかいた方がましっ!

 もうひと押しで、何時もの佐内青年に戻りそうって思った瞬間、突如、佐内青年がうずくまった。鼻から下を手で押えて下向いて…。指の隙間から床に何か落ちて…って、赤い液体?

 …血!?


「だ、大丈夫!?」

「…お、お姉さん、さっきの顔…エロすぎます…そ、それに、そんな破廉恥なこと、結婚してからじゃないと出来ませんっ!」


 何処の箱入り純真息子だ、君は!!

 だいたい、エロいのは君の方じゃないの。君のエロフェロモンの方がよっぽど鼻血でるでしょ!?私程度でこの有様って、どれだけ女性に免疫がないわけ?

 でもまあ、良かったかな。佐内青年が百戦錬磨の魔王じゃなくて。純情さをがっつり残してくれたおかげで、彼の父親の時みたいにやり込められなくて済んだ訳だし…。

 とりあえず、何時もの感じに戻った佐内青年に、紙おしぼりとティッシュを持って来て渡した。


「そんなへなちょこぶりで私を捕まえるなんて、十年早いわよー。ってことで、次のバイトがあるから、私行くわね?」


 また魔王化されても困るから、とりあえずダメージが回復しないうちに撤収しないとね!

 立ち上がって回れ右しようとしたら、紙おしぼりで顔を拭いていた佐内青年にぎゅっと手を掴まれた。


「円さん!僕が貴女にキス出来たら、僕と結婚してください!」

「はいぃぃぃっ!?」


 突然、人の名前を呼んだかと思えば、何を言い出すの、この鼻血美青年は!って思った瞬間、体を引っ張られて思いっきり頭から相手の顔にぶつかった。

 もう、おでこやら鼻も痛いし、重なった唇も歯がぶつかって痛い。

 何この捨て身のキスは。というか、これキス?事故的な衝突の方が正解なんじゃないの?


「出来ましたよ…僕、ちゃんと勉強して、お姉さんを満足させますから…約束ですから…ね…」


 ずるずると、佐内青年が私に抱き着くように倒れた。私の手をしっかり握ったまま。


「ちょ、佐内君!?な、何で気絶してるのよー!しかも、約束してないしー!」


 飛び過ぎ!話飛び過ぎだから!しかも、やり逃げ!幸せそうな顔で寝るなーっ!


「うわぁー。俺、この面白いプロポーズの証人?」


 気づいたら、すぐそばで私を覗き込む真幸の姿がある。どこか嬉しそうに言う従兄に、イラッとする。


「こんなの無効よ、無効!恋愛すっ飛ばして結婚するバカどこにいるのよー!」

「…しようとしている奴なら、其処にいるだろ。しかも自分で挑発したんだから、自業自得だろ…まったく。お前の人生、ホント楽しそうだよな」


 佐内青年を指差しながら、真幸が不敵に笑う。

 他人事だと思って好き放題な従兄弟が恨めしい。


「あと三年、お前に結婚されるわけにもいかないしな…」

「…は?」


 呟いた真幸の声がはっきり聞きとれなくて、思わず首をかしげた私の視界が不意に暗くなって、柔らかな感触が軽く唇を撫でていく。

 すぐに視界は明るくなって、酷くまじめな顔した真幸の表情が見える。

 …あれ?私、真幸に今、キス…され…た?


「喜べ。お前の恋路は全力で邪魔してやるから。それから、髪、似合ってるぞ」


 何事もなかったかのように、真幸は私の頭を軽くポンポンと叩いてその場を去っていく。


「はぁ?邪魔されて喜ぶ性癖なんてないわよ!?いったい何なのよーっ!?」


 何でサネにキスされてそんなことを言われたのかも、佐内青年にプロポーズされたのかも訳がわからなくて、私は思わず叫んでいた。

 もう、最近こんなのばっかり!




 恋の神様、私に何か恨みでも?

 私はもっと、フツーの恋愛がしたいだけなのに。

 気づいたら、自分の人生至上最大にして最凶のモテキがこの後に到来するなんて、私聞いてませんよーっ!





 -VS悠里篇 END-



 此処までお読みくださって、ありがとうございました。


 実際は続くのですが、一応、『ゆる恋』としての本編はここでENDです。

 作者sideの事情ですが、詳しい事は後日、活動報告に載せたいと思います。

 この後、『ゆる恋』の本編に入れる事が出来なかった、お話をキャラ視点を変えて数話UPする予定です。

 そちらも楽しんで頂けたら幸いです。


 感謝をこめて。


 響かほり



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