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人の国の4人王女・後日譚:皇太子の頭痛と愛されすぎた姫君たち

作者: 貴枝 和
掲載日:2026/11/07



## 第1章:白銀の玉座と、若き皇太子の頭痛


前作の激動の事件から、およそ二十年の月日が流れた。


人の国の王宮、その絢爛豪華な執務室で、ひとりの若者が頭を抱えて深々とため息を吐いていた。

彼の名は、ロビン。

人の国の皇太子であり、あの第二王女サファイヤと、巨人族の騎士団長ボルトとの間に生まれた長男である。


母ゆずりのサファイヤブルーの美しい髪と瞳、そして父ゆずりの頑丈な体躯と誠実さを兼ね備えたロビンは、国民からの信望も厚く、次期国王として申し分のない傑物であった。

――そう、内政と外征に関して言えば、だが。


「……はぁ。私はいずれ、お祖父様のように若くして頭頂部が寂しくなってしまうのではないだろうか」


ロビンは鏡に映る自分の豊かな髪を撫でながら、机の上に山積みされた外交書類を見つめて呟いた。

彼がこれほどまでに苦悩している理由はただ一つ。

国交親善と永遠の平和の証として、隣国へと嫁いで行った愛する姉と妹が、相次いで「離婚」**と**「婚約破棄」を叩きつけて自国へ逃げ戻ってきたからである。


「なぜだ……相手国からは『婚約者も側室も愛人も一切おらず、一生一筋の愛を誓う』という条件で合致していたはずなのに、蓋を開けてみればこの有り様とは……」


まず、ロビンの姉である第一皇女**ガーネット**。

彼女はその名の通り、燃え盛るルビーのような赤髪と烈火のごとき情熱的な性格を持つ美姫だ。彼女は西の獣の国へ、新たなライオンの獣人の王子へと嫁いで行った。

しかし、現地に着いてみれば、そのライオン王子は「プライド」という家系に属しており、伝統として数多くの雌を侍らせる文化を持っていたのだ。

『話が違うわよッ! 私は私だけを愛する男じゃなきゃ嫌だって言ったでしょうが!!』

激怒したガーネットは、初夜のベッドを炎の薔薇で爆破し、その足で身一つで自国へと送り返されてきたのだった。


そして、ロビンの妹である第二皇女**ペリドット**。

彼女は姉とは対照的に、若草色の髪を持つ静かで大人しく、儚げな愛らしい少女である。彼女は東の竜の国、その一族である「蛇竜人(サーペント・ドラゴン)」の王子のもとへ婚約者として嫁いで行った。

だが、その蛇竜人の王子は、ペリドットが出会って早々にこう言い放ったという。

『お前を愛するつもりはない。私には心に決めた別の竜人の恋人がいるのだ』

目の前で親しげに寄り添う別の女を見せつけられたペリドットは、ショックのあまり大泣きし、泣き濡れながら逃げるように帰国してしまったのだ。


「うーーん……どう考えても話が違う。我が国に対する侮辱であり、一歩間違えれば全面戦争に発展しかねない大失脚だ……」


ロビンはこめかみを指で押さえた。

両国ともに、事前の打診では「愛人など存在しない」と回答していた。どこかで意図的な横やりが入ったか、あるいは向こうの王子どもが外交の意味を理解していない大馬鹿野郎だったのか。


「……だが、何より恐ろしいのは外交問題などではない」


ロビンはガタガタと背筋を凍らせた。


「この件が、いま『視視・夫婦イチャイチャ旅行』と称して他国を周遊されている母上(サファイヤ)の耳に入ったらどうなる……? 確実に『我が娘たちをコケにした不浄なる獣と蛇どもを、雷の槍で更地にしてやるわ!!』とキレて、国を一つ二つ滅ぼしかねないぞ……!」


母サファイヤの破壊力は、ロビンが一番よく知っている。かつて叔母パールの事件の際、獣の国の城を「物理的に半分吹き飛ばした」伝説は、今なお各国の歴史書に恐怖とともに刻まれているのだ。

しかも、父であるボルトは、母上がキレれば「御意」とだけ答えて大剣を振るう完全なイチャイチャ全肯定マシンである。止められる者が誰もいない。


「お父様とお母様が旅行中で本当に良かった……。いや、だが戻られる前にこの件を穏便に解決しなければ、我が国の外交どころか世界の地形が変わってしまう……!」


ロビンが頭を抱えて唸っていた、まさにその時であった。

卓上の通信用魔導具が青く光り、従兄弟たちからの緊急連絡が入った。


---


## 第2章:叔母様たちの静かなる逆鱗と、トカゲの勘違い


『やあ、ロビン兄様。そっちも大変みたいだね』


魔導具の映像に映し出されたのは、西の獣の国にいる従兄弟――第一王女パールと狼王クロームの間に生まれた、十匹の子狼たちの長男であった。


「ああ、そっちの様子はどうだ? パール叔母様は……無事か?」


ロビンが尋ねると、従兄弟は引きつった笑みを浮かべて背景を指差した。

画面の奥では、あの「黒真珠」と称される穏やかで寛容な第一王女パールが、ゆったりとティーカップを傾けていた。……ただし、その雰囲気が異常であった。


パールの本性は、一度プッツンとキレると、まるで神話のサーペント(毒蛇)やメデューサのように恐ろしい毒気を放つ。

今のパールは、かつて誰も見たことがないほど冷ややかな、絶対零度の瞳をしていた。


『……話が違いますね。我が愛しい姪であるガーネットを泣かせ、多くの雌を侍らせるライオンの男……。ふふ、では、その男は私の毒でドロドロに溶かすか、あるいは全身を石化して庭のオブジェにして差し上げましょう……』


静かに、しかし空間を腐食させるような毒気を漂わせながら微笑むパール。

そして、その隣には――夫である狼王クロームがいた。

クロームは、見たこともないほど冷酷で恐ろしい怒りの頂点に達している妻を見て、なぜか**目を完全なハートマーク**にさせて悶絶していた。


『ああ……! なんという美しさだ、パール! 静かな怒りに満ちた君も最高にゾクゾクするほど素敵だ! ああ、私は今、君に何度目かの恋に落ちてしまったよ……ッ!』

『……クローム、静かにしなさい。今、殺害方法の優先順位を考えているのですから』

『毒かい!? 石化かい!? 君の手にかかるならそのライオンも幸せだろう! だが私の前で他の男に触れないでおくれよ愛しい人!!』


「……ダメだ、叔母様が完全にキレているし、クローム叔父様は相変わらず妻の怒り姿にすらキュンキュンして重度の惚気モードに入っている……!」


ロビンが引きつった顔で通信を切ると、今度は東の竜の国にいる従兄弟から通信が入った。

画面に映ったのは、第三王女アクアと竜の王子青竜の息子である。


『ロビン兄さん、助けてくれ! 母様が……母様が今まで見たこともない包丁を持ち出したんだ!』


「何だと!? あの『水色水晶』と呼ばれる神秘的で大人しいアクア叔母様が!?」


画面の奥では、生まれつき耳が聞こえず、額の『第三の眼』で会話をするアクア叔母様が、砥石に向かってシャリッ……シャリッ……と凄まじい手つきで包丁を研いでいた。

その瞳には一切の光がなく、額の眼からは冷酷な念波が漏れ出している。


(……ツンデレなんて最悪です。ましてや愛を確かめるために恋人のフリをする女を用意するなんて……。そんな愚かな蛇人は、三枚におろして蒲焼きにして差し上げます……)


『ひぃっ!? 蒲焼き!?』


念波を読み取った従兄弟が悲鳴を上げる。

しかし、そのすぐ横にいる夫の青竜(竜の王子)は、涙をポロポロとボロ泣きのように流しながら、感激の面持ちで両手を合わせていた。


『おお……! アクア! 私のために滋養強壮のある蛇料理を自ら作ってくれるというのか……ッ!? 私を案じてわざわざ包丁を研いでくれるなんて、君の愛情が深すぎて私は泣いてしまうぞ!!』

(……青竜さん、貴方の分ではありません。ペリドットを泣かせたあのバカ蛇の肉です)

『なんだと!? 私以外の男のために料理を!? それは許さん! 私がその蛇を捕まえてきて、君の前で自分で裁いてみせる!!』


「……アカン。アクア叔母様は静かにサイコパスな殺意を固めているし、青竜叔父様は斜め上の嫉妬と感激でボロ泣きしている……!」


ロビンは頭を抱えた。

叔母様たちが実家(人の国)へ乗り込んできて、娘たちの敵討ちと称して相手国を滅ぼしに行こうとする勢いなのだ。


八方塞がりとなったロビンは、最後にふと思い出した。

「そうだ……影の国に嫁がれた、第四王女アメジスト叔母様だ! アメジスト叔母様なら、闇の力で静かに解決策を……!」


ロビンは藁にもすがる思いで、影の国へと緊急通信を繋いだ。

画面には、漆黒の外套に包まれた影の王子シャドウと、その胸に甘えるように抱かれているアメジスト叔母様が映し出された。


「アメジスト叔母様! 大変なのです! ガーネットとペリドットが破談になって帰ってきて、パール叔母様たちも激怒していて――」


ロビンが叫ぶと、アメジストは退屈そうに自分の紫色の髪を弄りながら、フッと冷たい笑みを浮かべた。


『……ほっとけ』


「はい!?」


『自分たちの女一人満足に愛せないような愚かな男どもなんて、放置して滅びればいいのよ。シャドウ、私喉が渇いちゃった』

『我が愛しきアメジスト。今、極上の葡萄液を淹れよう。ロビン、我が妻の邪魔をするな』


ブツンッ。

通信は容赦なく切られた。


「頼りにならねぇぇぇーーーっ! 影の国のカップルは相変わらず自分たちの世界に入り込みすぎていて他人に興味がない!!」


絶望したロビンは、ハゲそうな頭を抱えて唸った。

「ダメだ……こうなったら、まずは傷ついた姉上と妹の部屋に行き、叔母様たちの恐ろしい惨状を伝えて落ち着かせよう……」


---


## 第3章:赤と緑の姫君たちと、絶望の来訪者


ロビンは重い足取りで、宮殿の奥にある姫君たちの私室エリアへと向かった。

まず足を踏み入れたのは、第一皇女ガーネットの部屋である。


「姉上、入るぞ――」


ドアを開けた瞬間、熱風がロビンの顔を焼いた。

「あつっ!?」

部屋の中は、まるで灼熱の炉裏であった。

部屋の真ん中で、赤いドレスを纏ったガーネットが、全身から怒りの炎を噴き出させていた。彼女の周囲には、燃え盛る巨大な「炎の薔薇」が何十輪も咲き乱れ、豪華な調度品を次々と炭くずへと変えている。


「許せない……! 許せないわロビン! 『僕の番は君一人だ』なんて言っておきながら、城に着いたら『我がプライド(群れ)の牝たちを紹介しよう』だなんて! 誰が愛人だらけのハーレムになんか入るかぁぁぁっ!!」

「落ち着いて姉上! 部屋が焦げる! 焦げてるから!! 落ち着かないと、またパール叔母様が『ライオンを毒で溶かして石にする』って意気揚々とこちらに向かって来ちゃうから!!」


「溶かせばいいじゃない!! 石にして庭の踏み台にすればいいわ!!」

ガーネットがキーキーと叫ぶたび、炎の薔薇がボッと跳ねて絨毯を焼き払う。

ガーネットは怒りが限界突破すると、周囲を無差別に焼き尽くす危険な体質の持ち主であった。


ロビンは命からがらガーネットの部屋を脱出し、今度は隣にある第二皇女ペリドットの部屋へと駆け込んだ。


「ペリドット! 無事か!?」


ドアを開けると、そこは先ほどの灼熱とは打って変わって、冷たく湿った静寂に包まれていた。

部屋の隅で、膝を抱えて丸まっているペリドットの姿がある。


「うぅ……うぅ……ロビンお兄様……」

「ペリドット! 大丈夫か!?」

「うぅ……『本当の恋人は他にいる』なんて……そんなの酷すぎます……うぁぁぁんっ!」


ペリドットが大泣きした瞬間、ロビンの足元にバシャッと大量の水が押し寄せてきた。

「うわぁっ!? 水!?」

ペリドットは、悲しみが限界突破すると、身体が溶けて水になって消えてしまうという、恐ろしすぎる体質の持ち主であった。現に、彼女の足元はすでに透明な水と化し、ユラユラと溶け始めている。


「泣くなペリドット! 溶けるな! 溶けて消えるんじゃない!! 落ち着け、アクア叔母様が包丁を研いで『蛇人を三枚におろして蒲焼きにする』って準備してるから! 青竜叔父様もノリノリで捕獲に向かってるから!!」

「え……っ? 蒲焼き……? ひぐっ……うぅ……」


ペリドットがしゃくり上げると、溶けかけた体が少しだけ元に戻る。

ロビンは深くため息をついた。

「はぁ……もう嫌だ。怒ると炎の薔薇で城を焼く姉上と、泣くと溶けていなくなる妹。どうして我が家の女性陣はこうも極端なんだ……」


まさにその時であった。

城の外から、凄まじい地響きと、空を切り裂くような悲鳴が響き渡った。


『ヒィィィィィンッ!! 落ちる、落ちるーーーッ!!』

ドカァァァァァンッ!!!!!


「な、なんだ!?」

ロビンと姫君たちが窓から外を覗くと、中庭の美しい花壇に、巨大な何かが墜落していた。

上がる爆煙。散らばる土砂。


「て、敵襲か!?」

ロビンが剣を抜いて中庭へ駆け降ると、そこには信じられない光景が広がっていた。


花壇の真ん中に倒れていたのは、身体中に重傷を負い、翼に穴があき、全身に痛々しい包丁や槍の傷、そして火傷を負った、ボロボロの「蛇竜人の男」であった。


「……がはっ……な、なぜだ……。ただ、愛しいペリドットの居場所を探して、城の上空を旋回していただけなのに……なぜ上空から巨大な岩と、青い雷撃の槍が飛んでくるのだ……っ!?」


蛇竜人が血を吐きながら喘ぐ。


ロビンは額を押さえた。

「あー……。君、知らないのかい? 『この城の上空は、僕の可愛い可愛い弟と妹(サファイヤとボルトの他の子供たち)の投擲と雷槍遊びの対象になるから旋回禁止』という航空法があるのを……」

「知るかそんな物物しいルールーーーッ!!」


蛇竜人は涙目で叫んだ。

そう、彼こそが、ペリドットを「お前を愛するつもりはない」と追い払った、あの婚約者の蛇竜人王子であったのだ。


---


## 第4章:耳を引きちぎるライオンと、ハリセンボンの姫


「ペリドット! ペリドットはどこだぁぁぁっ!?」


全身包帯まみれの痛々しい姿で、這いずるように叫ぶ蛇竜人王子。

するとそこへ、さらにもう一人、王宮の正門を暴力的な力で蹴破って乱入してくる男がいた。


「ガーネットッ! どこだガーネット! 誤解だ、戻ってきてくれぇぇぇっ!!」


黄金の髪を振り乱し、全身に焦げ跡を作った百獣の王――西の獣の国のライオン王子、**プライド**であった。


「な、なんだお前たちは! 皇太子ロビンである! 無礼者ども、控えよ!」

ロビンが剣を構えて遮ると、ライオン王子のプライドと、包帯まみれの蛇竜人王子は、ロビンの前にガバッと膝をついて頭を擦り付けた。


「皇太子殿下! 頼む、ガーネットに会わせてくれ! 私は彼女を連れ戻しに来たのだ!」

「私からも頼みます! ペリドット殿下に会わせてください! 翼が折れても、全身骨折しても、私は彼女に謝らなければならないのです!」


「……はぁ」

ロビンは深くため息をつき、剣を納めた。

「いいだろう。とりあえず話を聞こう。なぜ事前の約束を破り、姉上と妹を傷つけた?」


まず、ライオン王子のプライドが胸を叩いて叫んだ。

「違うんだ! 決して騙したわけではない! 我が『プライド(群れ)』にいた多くの雌たちは、**私の父親からそのまま引き継いだ父の側室や侍女たち**なのだ! 私自身の妻は、後にも先にもガーネット一人だけなのだ!」

「何だと……!?」


ロビンが目を丸くする。

ライオンの獣人社会では、前王が引退した際、その群れ(プライド)の保護権がそのまま若い王子へと譲渡される風習がある。つまり、あの多くの雌たちは「父親の身内や保護対象」であり、プライド王子の愛人などでは一切なかったのだ。


「それを説明しようとした瞬間、ガーネットが『話が違うわよッ!』とキレて部屋を爆破し、逃げ出してしまったのだ! 私は彼女一人しか愛していない!」


そこへ、ドカドカと音を立ててガーネットが姿を現した。周囲に炎の薔薇をメラメラと咲かせながら、ツンと横を向く。

「ふん! 今はそう言っておきながら、いつかは気持ちが変わって、あの雌たちを自分の女にするかもしれないじゃない! 獣の男なんて信じられないわ!」


「そんなことは絶対にない! 誓う! 私は君だけが私の『番(つがい)』だ!」

「口だけなら何とでも言えるわよ!」


ガーネットが叫んだ、その時であった。


**バリッ……ッ!!**


「ぎゃああぁぁぁっ!?」

ロビンとペリドットが悲鳴を上げた。


なんと、ライオン王子のプライドは、自らの手で**自分の左の耳を力任せに引きちぎった**のである!

鮮血が舞うなか、プライド王子は激痛に顔を歪めながらも、引きちぎった自らの耳をガーネットの手の中に強く握らせた。


「くっ……あぁ……っ! これを……これを持っていてくれ、ガーネット!」

「な、何をしているのよあんたバカじゃないの!? 血が! 血が出てるわよ!?」


ガーネットが動転して叫ぶ。プライド王子は血を流しながら、狂おしいほどの情熱的な瞳でガーネットを見つめた。


「ライオンにとって、耳を失うことは群れを率いる王としての尊厳を半分捨てることに等しい……! だが、私にとって尊厳など、君の愛に比べればゴミ同然だ! この耳にかけて誓う! 誇り高きライオンの魂にかけて、私の番は生涯、君一人だけだ!……これで、私の執着と愛を信じてくれるか!?」


「……っ!!」


プライド王子の凄まじすぎる血まみれの執着愛。

耳を引きちぎってまで自分への愛を証明してみせた男の姿に、炎の姫ガーネットの顔はみるみるうちに真っ赤になった。

周囲の炎の薔薇が、瞬時にポッと可愛らしいピンク色の花びらへと変わり、消えていく。


「な……なによ……バカじゃないの……。そんなに血を出して……早く手当てしなさいよ、私のバカな旦那様……っ!」

「ガーネット……! 許してくれるのだな!?」

「当たり前でしょ! 耳のないライオンなんて格好悪いから、一生私が横で面倒見てあげるわよ!」


抱き合う二人。血まみれだが、完璧な解決であった。


「……よし、姉上の方は一件落着だな(やり方はめちゃくちゃだが)」

ロビンが胸を撫で下ろし、次に包帯まみれの蛇竜人王子を睨みつけた。

「さて……問題は君だ。ペリドットに『愛するつもりはない』と言って別の女を見せつけたそうだな? 弁明を聞こうか」


すると、全身包帯の蛇竜人王子は、ポロポロと情けない涙を流し始めた。


「ち、違うのです……! あれは……あれは……っ!」

「何が違うというのですか……っ!」


部屋の影から、静かにペリドットが姿を現した。

普段は大人しく儚げなペリドットであったが、今の彼女は見たこともないほど「ツンツン」としていた。


頬をこれでもかというほどぷくーっと膨らませ、まるでハリセンボンのように全身から「お断り」のトゲトゲしい雰囲気を醸し出している。


「私が見たのです……! あなたが綺麗なお姉さんと親しげに腕を組んで、『私には心に決めた恋人がいる』とおっしゃったのを……! もういいです! 私は別の優しい婚約者を探しますから!」

「ツンツンツンッ!!」とハリセンボンのように怒るペリドット。


蛇竜人王子は、膝をついて**号泣しながら土下座**をした。


「誤解なんだペリドット殿下ぁぁぁっ! あれは、私の『ツンデレな性格』が災いした最悪の自爆だったのだぁぁぁっ!!」

「え……? ツンデレ……?」


ペリドットがパチパチと瞬きをする。


「私は……私は幼い頃から素直になれない性格で……! 憧れの君が嫁んできてくれたのが嬉しすぎて、緊張のあまりパニックになり……『格好いいところを見せたい』『私の愛の深さを試したい』という愚かな欲望に狂ってしまったのだ!」

「は……?」

ロビンが呆れ顔になる。


「あの時隣にいた女性は、私の生き別れの実の実姉(実の姉)なのだ! 姉に頼み込んで『恋人のフリ』をしてもらい、君が嫉妬して焼餅を焼いてくれるのを期待していたのだぁぁぁっ! そうしたら『愛するつもりはない』なんて最悪の暴言が口から滑り出てしまい、君が大泣きして逃げ出してしまったのだぁぁぁっ!!」


「……」

室内が静まり返った。


ロビンは心底軽蔑した目で蛇竜人を見た。

「……君、馬鹿なの? アクア叔母様の旦那様である青竜叔父様並みの愚かなツンデレなの?」


「返す言葉もございませんんんんっ! 私は愚か者です! 翼を折られ、雷に打たれたのも当然の報いです! だからお願いですペリドット殿下、他の方を探すなんて言わないでください! 私は君に一目惚れした瞬間から、君しか見えていないのですぁぁぁっ!」


蛇竜人王子は、床に頭を何度も打ち付けて謝り倒した。


ぷくーっと頬を膨らませていたペリドットは、彼のあまりにも情けない号泣謝罪と、実の姉を使ったという間抜けすぎる真相を聞いて、ぽん、と頬の力を抜いた。


「……本当に、お姉様だったのですか?」

「本当です! 証拠に姉からの手紙もあります! 『あんたみたいなド直球の馬鹿ツンデレに付き合わされた私の身にもなりなさい』と書かれています!」

「……ふふっ」


ペリドットの口元から、小さな笑みが零れた。

彼女の身体から溢れていた悲しみの水滴が、消えていく。


「……もう、本当にバカな方ですね。素直に『好きだ』と言ってくだされば、私はいくらでも貴方の胸に飛び込んだのに……」

「ペリドット殿下……っ! では……!?」

「はい。……でも、今度またそんな嘘をついたら、本当にアクア叔母様に頼んで三枚におろして蒲焼きにしていただきますからね?」

「はい喜んでぇぇぇっ!!」


抱き合って泣き崩れる蛇竜人王子と、それを優しく撫でるペリドット。

こちらも、凄まじい大炎上からの大逆転ハッピーエンドとなったのだった。


---


## エピローグ:ひだまりの王国と、繰り返される愛の遺伝子


数日後。


人の国の王宮の庭園には、青空の下で穏やかなティーパーティーが開かれていた。


耳に包帯を巻きつつも、ガーネットの腰をガッチリと抱きしめて片時も離れようとしないライオン王子のプライド。

全身包帯まみれの重傷でありながら、ペリドットに膝枕をされてデロデロに鼻の下を伸ばしている蛇竜人王子。


二組の若きカップルは、それぞれの国へと戻る準備を進めながら、幸せそうに微笑み合っていた。


そこへ、旅から戻ってきたばかりの**第二王女サファイヤ**と、その夫である**騎士団長ボルト**が姿を現した。


「あら……ロビン。何だか城の東側が少し焦げていて、中庭の花壇に巨大なクレーターができているけれど、何かあったのかしら?」


サファイヤが美しいサファイヤブルーの瞳を輝かせ、首をかしげる。

その背後では、無口なボルトが大剣を肩に担ぎ、静かに妻を見守っている。


ロビンは、胃のあたりを押さえながら爽やかな笑顔を浮かべた。


「いいえ、母上。何もありませんよ。……ただ、姉上と妹が、それぞれの『最高に重くて不器用な愛を持つ旦那様』と仲直りをしただけに過ぎません」


「あら、そうなの? それは良かったわ。私たちの血を引く娘たちだもの、愛されるのは当然ね」

サファイヤは満足そうに微笑むと、夫ボルトの逞しい腕に自ら絡みついた。

「ねえボルト、私たちもまだまだ娘たちには負けていられないわね」

「……御意」

ボルトは短く答え、サファイヤを愛おしそうに抱き寄せた。相変わらずのバカカップルぶりである。


そして、遠く西の国や東の国からは、パール叔母様やアクア叔母様から『なんだ、ライオンを溶かして石にする必要はなくなったのですね』『蒲焼きの準備をキャンセルしました』という、少し残念そうな(?)通信が入ってきたのだった。


ロビンは青空を見上げ、深く、深く息を吐き出した。


「はぁ……何はともあれ、ハゲずに済んで本当に良かった。……だが、我が家の女性陣と、その旦那たちの愛の重さは、世代を超えて受け継がれていくのだな……」


ガーネットの炎のような笑顔。

ペリドットのひだまりのような微笑み。

そして、彼女たちを世界で一番深く、重く愛する不器用な夫たち。


人の国の平和と、愛されすぎる姫君たちの物語は、これからも賑やかに、そしてどこまでも幸せに続いていくのであった。


――『人の国の4人王女・後日譚』・完――

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