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怪しいバイトに応募してしまった。

―――ピコン


 Xから通知が来たようだ。画面上部に表示されるのは、見るからに怪しいポスト。


『誰でもできる簡単なお仕事です!日給5万円!面接あります!詳しくはこちら→http…………』


 恐らくは闇バイトというやつだろう。普通の人間なら、まず食いつくことはない文面。


 しかし、俺は少しだけ心を惹かれていた。


 指先は吸い付くように画面のリンクをタッチする。


 繋がったのは見たことのない個人のサイトのような場所だった。


 『〜尾道(おのみち)村の七不思議探検隊〜かつて存在した廃村の噂を究明しよう!応募はこちらまで→https:wmw.instagram…………』


 尾道村。もうずっと名前を聞くことのなかった俺の故郷だ。


 その文字を見たときから心臓がやけに煩い。汗ばむ額を拭い、その指示通りリンクを開いた。


 表示されたアカウントはどうやら女性のもののようであった。


 安心させるためなのかもしれないが、かつての記憶が脳をよぎり、瞳孔が開いてしまう。

 

 この投稿に興味関心を抱いてしまったことに既に後悔している。知らずに思い出さずに過ごせたならどれだけ良かっただろうか。


 こんな怪しいポストに食いついたのは、ただのヤケだった。


 過去のトラウマから立ち直れず、社会にも馴染めない。当然、人とのつながりもほとんどない。


 今までは貯金と親の遺産を食い潰して引きこもっていたが、そろそろそれも底を尽きそうになっていた。


 本当にもう死のうと思ってたんだ。生きる気力が湧かない。なら最後に、ただこの社会の片隅にでも生きた証を残したかった。


 すぐに忘れられるような小物としてでも良い。朝のニュース番組にでも載って、馬鹿にされる対象だろうと、人の記憶に残りたかった。


 「馬鹿だよなぁ…。ホント」


 死ぬ気でいたのにあの子の影がチラついてそれすらできない。でも、まぁ。


 「何かやって死ぬんならまだ、許してくれるか?愛唯めい


 机の上の写真立てに目をやる。こんなゴミ部屋の中でも、そこだけはきれいに手入れされていた。


 快活そうな少年と、はにかむ少女。俺の人生で唯一輝いていた瞬間だ。


 「やるか。ただ死ぬくらいなら」


 俺はそのアカウントにDMを送った。


 






























_______________

 平日の昼過ぎ。俺は住宅街を歩いていた。この時間に出歩く人もそう多くないのか、厳かな高級住宅街といった様子のここは人っ子一人見かけることはなかった。


 「ホントにあってんだろうなぁ?」


 あの怪しいアカウントにDMを入れたところ、求められたのは氏名と住所、電話番号。


 送信した後、来るように言われたのはここにある家に、この日、14時にとのことだった。


 スマホを片手に、迷いながら歩くこと十数分。


 「嘘だろ………。マジであってんのか?」


 送られた住所通りに来ると、着いたのは、高そうな家が建ち並ぶこの街ですら、頭一つ抜けた大豪邸。厳つい門と広い庭、屋敷というのがふさわしい程にでかい家。


 「何か御用でしょうか。」


 「うぁっ!」


 突然後ろから声をかけられ情けない声で返してしまった。


 立っていたのはいかにもできる執事通った様相の初老の男性だ。不審者を見る目でこちらを見下ろしている。デカいし怖いなこの人。


 「あ〜。バイトの応募でここが面接会場と聞いてたんですけど、やっぱ間違ってましたかね!すみませんね!こんな時間に!いや〜、申し訳ない!」


 頭を下げながらその場をあとにしようとした。が、


 「合っていますよ。バイトの応募の方でしたか。どうぞお入りください。」


 呼び止められてしまった。くそぅ。


 「いつもはここで門前払いなのですがね、今回はお嬢も心弾んでいられる様子で。お知り合いの方ですかな?」

 

 どうやら雇い主には歓迎されているらしい。しかし、


 「いや〜、こんな大豪邸に住んでる知人には心当たりないっすねぇ」


 碌に人付き合いもできない俺に、こんな家に住んでるような人との人脈はない。


 「ふむ、そうなのですな。お嬢様とは長い付き合いになりますが、あの様にお喜びになられているのは初めて見たもので。何かあるものと思っておりましたが」

 

 そんなはずはない。お嬢様と言っているんだから、雇い主はきっと女性だろう。


 悲しいかな俺に女性の知り合いはいない。


 「そんなわけないですかぁ。たぶん、そのお嬢様って人の何かの勘違いですよ。俺なんて、何も…………」


 そう、俺なんてこれまでもずっと、何も成し遂げちゃいない。


 俺が特別だなんて期待するだけ無駄だ。きっとまた、肩透かしを食らう。


 「勘違い?お嬢様が勘違いとは、それこそありえませんな。あの人は1代で0からここまで成り上がった化け物ですよ。あの人の勘はそれこそ人間のものとは思えないほどのもの。私共もそれに今まで救われてきたのです」

 

 どうやら雇い主の盲目的な信者らしい。熱量が、凄い。


 しかし、そこまで人に思わせるような人なら確かに人間違いなんてしないのかもしれない。ここなら、もしかしたら俺にも何か、俺にしかできないことがあるかもしれない。


 「少し熱くなってしまいましたかな。ここにいるものは皆、お嬢様に救われ、拾われた者達なのです。中に入ってからはお嬢様を貶めるような発言はもちろん、お嬢様を疑うことも表には出さないでいただきたい」


 なるほど、どうやらヤバい場所に来てしまったらしい。新興宗教かな?


 「分かりました。もとより、そんな礼儀に欠いたことするつもりもないですよ」


 執事の人は少し安堵したように肩の力を抜いた。


 「それなら良いのです。立ち話が過ぎましたね。お嬢様の元へ案内しましょう。これ以上遅くなっては私がお嬢様に叱られてしまう」


―――ギキィイ………


 執事さんが、門のインターホンに何かを打ちこむと門が開いた。


 「さぁ、参りましょう。お嬢様がお待ちです」


           

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