桜になった勇者
ひねくれ魔法使いと平和が好きだった勇者。
「さて、何を言って死のうか」
「好きなことを遺しなよ。
勇者のキミが変わったら、魔王は倒れて、この世界は平和になるんだから」
「…参ったな、言うことがない」
「それもアリなんじゃない? 無理にひねり出した言葉よりも」
「世界が平和になるから、ワクワクしかない」
「キミは何かに変わって、いなくなるけどね」
「てか、俺、何になるん?」
「…平和の象徴?」
そして、
「いや、ただの木じゃん。
救いようがない。葉っぱすらないし。寒いのに見てたら余計に寒くなる」
―数百年後。
「さっさと起きな、ちょっと歩くよ」
「先生、ちょっとって言ったじゃないですかー」
僕は、呆れながら先生に言う。
先生は、伝説のコンビだったらしい。
異世界人の勇者と、この世界のヒトの先生。
2人で冒険をし、魔王を倒した、らしい。
らしい。
魔王を倒した辺りの話が、なんかうやむやで、そもそも本当に倒したのかすら、危うい。僕は、何かあったんじゃないかって疑っているけど。
僕は、先生の弟子。
たった1人の弟子。
大魔法使いの先生に憧れて、だって?
いやいや、全く違うよ。
両親に学校に行けって言われて、だるかったから、「大魔法使いの弟子になる」て言って家出、現実逃避した、それだけ。
世界が平和になり、何百年経っているのか。
本当に生きているとは思っていなかったよ。
「エルフじゃなく、超超高難度の魔法による不老不死。お姉さんの姿だけど、何歳なのか、このババアは」
「…やるか?」
「ははは、一方的にやられるだけでしょう、もちろん僕が。
で、この粉と、コップは、何ですか? まいていいですか? 適当に」
「まいたら本当にやるからね」
淡々と、先生は殺害宣告をしてくる。
黒い粉の入った瓶。
そして、1つのコップ。
あと小さな、さじ。
何なんだ? ピクニックか?
街に向かってる感じじゃないし、ひたすら森を歩き、一体何が何やら。
暖かいし、虫が出たら嫌だな。
まあ、いいけどさ。虫も無視すればいいし、プッ。
そして、先生は歩くのをやめる。
「せ、先生、このピンク色の木は。
こんな木、ありましたっけ」
仰ぎながら、驚く僕。
先生はため息を吐き、首をふるふる横に振ると僕に向かって、
「サクラ、だよ」
愛おしいヒトを紹介するみたいだ、表情と口調で僕は、そう感じた。
ピンク色いっぱいに咲いている木。
綺麗さと儚さが混じっているような、そんな不思議な木が、そこにはあった。
「私と、異世界人の勇者が、魔王を倒した。
それは、知っているよね」
いきなり、先生は言ってくる。
「は、はあ。まあ、あやふやですけど」
正確な話は、この大魔法使いしか知らない。
「魔王は、道連れで、勇者に魔法をかけたの」
「ま、魔法?」
「そう。その魔法をかけたら、魔王は倒れ、勇者は変わった」
「凶暴化とか?」
「違う。
彼の心を象徴する物に変わったの。
これは、サクラと言うらしい。1年の中の、ある時期にしか咲かない、サクラ。勇者は異世界人だからね、コレは異世界のものなんだろう。私は、勇者から少し聞いただけで、詳しいことは分からない」
…。
「てか、つまり、このサクラ、もしかして、勇者?」
「そう。サクラになった勇者」
「マジかー」
てことは、ここに魔王のお城があったのか。
すごい場所じゃん。
ま、今は森で、跡形もないけど。
「いやいや、私もビックリしたよ。あのときは、ただの木になったってガッカリもしたけど。
まさか、暖かいときに来たら咲いてただなんて。
本当に、迷惑な勇者だ。
復活の方法は、分からない。
まあ、勝手に復活するんじゃない?」
「そこは頑張って復活させましょうよ…」
大魔法使いなのに。
「じゃ、そのコップの中に、その黒い粉を適当に入れて。お湯は私が魔法で出すから」
そう言うと、先生は適当に岩に座った。
「何ですか、この粉は。お湯?」
「このサクラになった勇者が教えてくれた、コーヒーだよ。カフェインで、眠気がなくなる。今は、街でも普通に売られているらしい。たまには街に出なよ、屋台とか面白いからさ」
「両親にバレたくないんで。学校に行きたくないし」
「勇者は、平和が好きだった。ニホンっていう平和な国にいたらしいけど、この世界も平和にするんだって言っていたな。
平和はいいよ。コイツも、今のこの世界を見たら、嬉しくなるだろうね」
穏やかな表情を、先生はする。
「でも、バレたくないんで。今はやめておきます」
「そ」
そして、先生は無言で僕を見てくる。
若干、ウキウキとして。
これ、多分試されてるな。
何だ? 粉の量で味が変わったり?
初めて見るからな。両親も飲んでなかったし。
どうすれば。
さじは、小さいけど。
少なかったからダメかもな、5杯くらい入れよう。
1、2、3、4、5。
そして、差し出す。
「いや、入れすぎじゃない?」
「だったら自分で作って下さいよ!?」
つい叫んでしまう。
試したくせに困惑して、何杯が正解だったんだ!?
「えー、飲まないといけないの?」
困惑しながら、コップの中を覗く先生。
その呟きには、何か僕に対する責めも入ってるようで。
「この弟子はこの量か…」
と呟き、一気に飲む。
「苦い…」
「苦いのに飲んだんですか」
「いや、この濃さはキミの責任だからね?」
「だから自分で作って下さいって!?」
「まあ、いいけど。コレはコレで」
「けど、先生って意外とロマンチストなんですね」
「何が?」
「だって、勇者がヒトに復活するまで待つために、不老不死になったんでしょう? 超超高難度の魔法を。復活するか分からないのに。
恋してるんですね、この勇者に」
やっぱり、一緒に魔王を倒したからか。
もしかしたら、罪悪感もあるのかもしれない、この勇者に。
先生はキョトンとして、
「いや? 死ぬのが面倒臭いだけだよ?」
「台無しじゃないっすか」
ありがとうございました!




