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桜になった勇者

作者: 永進
掲載日:2026/04/05

ひねくれ魔法使いと平和が好きだった勇者。

「さて、何を言って死のうか」

「好きなことを遺しなよ。

勇者のキミが変わったら、魔王は倒れて、この世界は平和になるんだから」


「…参ったな、言うことがない」

「それもアリなんじゃない? 無理にひねり出した言葉よりも」

「世界が平和になるから、ワクワクしかない」

「キミは何かに変わって、いなくなるけどね」

「てか、俺、何になるん?」

「…平和の象徴?」


そして、


「いや、ただの木じゃん。

救いようがない。葉っぱすらないし。寒いのに見てたら余計に寒くなる」




―数百年後。


「さっさと起きな、ちょっと歩くよ」


「先生、ちょっとって言ったじゃないですかー」

僕は、呆れながら先生に言う。


先生は、伝説のコンビだったらしい。

異世界人の勇者と、この世界のヒトの先生。

2人で冒険をし、魔王を倒した、らしい。

らしい。

魔王を倒した辺りの話が、なんかうやむやで、そもそも本当に倒したのかすら、危うい。僕は、何かあったんじゃないかって疑っているけど。


僕は、先生の弟子。

たった1人の弟子。


大魔法使いの先生に憧れて、だって?

いやいや、全く違うよ。

両親に学校に行けって言われて、だるかったから、「大魔法使いの弟子になる」て言って家出、現実逃避した、それだけ。


世界が平和になり、何百年経っているのか。

本当に生きているとは思っていなかったよ。


「エルフじゃなく、超超高難度の魔法による不老不死。お姉さんの姿だけど、何歳なのか、このババアは」

「…やるか?」

「ははは、一方的にやられるだけでしょう、もちろん僕が。

で、この粉と、コップは、何ですか? まいていいですか? 適当に」

「まいたら本当にやるからね」

淡々と、先生は殺害宣告をしてくる。


黒い粉の入った瓶。

そして、1つのコップ。

あと小さな、さじ。


何なんだ? ピクニックか?

街に向かってる感じじゃないし、ひたすら森を歩き、一体何が何やら。

暖かいし、虫が出たら嫌だな。


まあ、いいけどさ。虫も無視すればいいし、プッ。


そして、先生は歩くのをやめる。

「せ、先生、このピンク色の木は。

こんな木、ありましたっけ」

仰ぎながら、驚く僕。


先生はため息を吐き、首をふるふる横に振ると僕に向かって、

「サクラ、だよ」

愛おしいヒトを紹介するみたいだ、表情と口調で僕は、そう感じた。


ピンク色いっぱいに咲いている木。

綺麗さと儚さが混じっているような、そんな不思議な木が、そこにはあった。




「私と、異世界人の勇者が、魔王を倒した。

それは、知っているよね」

いきなり、先生は言ってくる。

「は、はあ。まあ、あやふやですけど」

正確な話は、この大魔法使いしか知らない。


「魔王は、道連れで、勇者に魔法をかけたの」

「ま、魔法?」

「そう。その魔法をかけたら、魔王は倒れ、勇者は変わった」

「凶暴化とか?」

「違う。

彼の心を象徴する物に変わったの。

これは、サクラと言うらしい。1年の中の、ある時期にしか咲かない、サクラ。勇者は異世界人だからね、コレは異世界のものなんだろう。私は、勇者から少し聞いただけで、詳しいことは分からない」


…。


「てか、つまり、このサクラ、もしかして、勇者?」

「そう。サクラになった勇者」

「マジかー」

てことは、ここに魔王のお城があったのか。

すごい場所じゃん。

ま、今は森で、跡形もないけど。

「いやいや、私もビックリしたよ。あのときは、ただの木になったってガッカリもしたけど。

まさか、暖かいときに来たら咲いてただなんて。

本当に、迷惑な勇者だ。

復活の方法は、分からない。

まあ、勝手に復活するんじゃない?」

「そこは頑張って復活させましょうよ…」

大魔法使いなのに。


「じゃ、そのコップの中に、その黒い粉を適当に入れて。お湯は私が魔法で出すから」

そう言うと、先生は適当に岩に座った。

「何ですか、この粉は。お湯?」

「このサクラになった勇者が教えてくれた、コーヒーだよ。カフェインで、眠気がなくなる。今は、街でも普通に売られているらしい。たまには街に出なよ、屋台とか面白いからさ」

「両親にバレたくないんで。学校に行きたくないし」

「勇者は、平和が好きだった。ニホンっていう平和な国にいたらしいけど、この世界も平和にするんだって言っていたな。

平和はいいよ。コイツも、今のこの世界を見たら、嬉しくなるだろうね」

穏やかな表情を、先生はする。

「でも、バレたくないんで。今はやめておきます」

「そ」


そして、先生は無言で僕を見てくる。

若干、ウキウキとして。


これ、多分試されてるな。

何だ? 粉の量で味が変わったり?

初めて見るからな。両親も飲んでなかったし。


どうすれば。

さじは、小さいけど。

少なかったからダメかもな、5杯くらい入れよう。


1、2、3、4、5。

そして、差し出す。


「いや、入れすぎじゃない?」

「だったら自分で作って下さいよ!?」

つい叫んでしまう。

試したくせに困惑して、何杯が正解だったんだ!?


「えー、飲まないといけないの?」

困惑しながら、コップの中を覗く先生。

その呟きには、何か僕に対する責めも入ってるようで。

「この弟子はこの量か…」

と呟き、一気に飲む。


「苦い…」

「苦いのに飲んだんですか」

「いや、この濃さはキミの責任だからね?」

「だから自分で作って下さいって!?」


「まあ、いいけど。コレはコレで」

「けど、先生って意外とロマンチストなんですね」

「何が?」

「だって、勇者がヒトに復活するまで待つために、不老不死になったんでしょう? 超超高難度の魔法を。復活するか分からないのに。

恋してるんですね、この勇者に」


やっぱり、一緒に魔王を倒したからか。

もしかしたら、罪悪感もあるのかもしれない、この勇者に。


先生はキョトンとして、

「いや? 死ぬのが面倒臭いだけだよ?」

「台無しじゃないっすか」


ありがとうございました!

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