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お祓い?そんなことせえへんよ

俺は彼についていくことにする。

しかしどう考えても怪しいので、

スマホは握ったままだ。

なにかあったら、通報しよう。


「それで俺は本郷。人材派遣会社霊感0canの所長や。

君は神原八百井。経済学部に通う大学生やな」

と本郷所長は尋ねた。


「俺、名乗ってませんよね。個人情報保護法的に問題がありますよ」

と俺は言った。


「霊視とか、表向き証明できへんからな。

日本の法律上ではないものとして扱われるから、問題はないよ」

と本郷所長は笑った。


「でも、実際……」

と俺は口ごもった。


「たとえば、俺が大企業のCEOの心を読んだとするやろ。その情報はインサイダー情報になるか?どうや経済学部。宗田さんの授業ちゃんと受けとったらわかるはずやで」

と本郷所長は尋ねた。


「なんでそこまでわかるんですか……。まぁいいです。本人から聞いたのであれば問題ですが、心を読むというのは理屈上では推測に近いものですから、インサイダー情報にはなりえません」

と俺は答えた。


「せやろ。

まぁそういうことや。力ってものはな、どんな力を持ってるかっていうのは、さほど重要ではない。まぁ重要やろうけどな。それよりも、大切なんは、どう使うかや」

と本郷所長は言った。


「本郷さんの使い方が、正しいとでも」

と俺は少し挑発的な言い方をしてしまった。


「いいね。いいね。いいよ、いい。

そう、使い方に正しいもクソもないわけよ。

例えば、この俺が霊感をナンパにつかっても別にいいわけよ」

と本郷所長は笑った。


「いや。それはどうかと思いますよ」

と俺は言った。


俺たちは公園から少し離れた駅についた。


午後五時。

住宅街に隣接した小さな駅は、帰宅の人波で満ちていた。


改札へ吸い込まれる流れ。

吐き出される流れ。

人の数だけなら、むしろ活気があるはずだった。


だが、空気はどこか沈んでいる。


夕方の光は弱く、駅前の通りに長い影を落としていた。

その影が、人の足元にまとわりつく。


駅員は、人の流れの中に立っていた。

顔色は悪くない。

だが、その表情は妙に空っぽだった。


疲れのせいか、目の焦点が定まっていない。


周りを見渡す。


スーツ姿の男。

買い物袋を下げた女。

スマートフォンを見ながら歩く若者。


だが、誰の顔にも似たような影があった。


表情が薄い。

目が遠い。


まるで全員が、

どこか別の場所を歩いているようだった。


この駅の中央の大きな時計の脇には、

くるくる頭を回す霊がいた。


時計の針が時間を刻むように、ただくるくると頭を回していた。


「えっと、ここから3駅隣までいくから。ちょっとまってな。切符買ってくるわ」

と本郷所長は切符売り場に走る。


俺はくるくる頭を回す霊をじっと見つめる。

あいつは何がしたいんだろう。


本郷所長は、俺に切符を渡す。

俺は会釈をして

「あの頭くるくるしているのって、何がしたいんでしょうか」

と俺は尋ねた。


「基本的にな。霊を人間の感覚で見たらあかんよ」

と本郷所長は答えた。


「どういうことですか?」

と俺は尋ねた。


所長が、改札の中に入っていくので、

俺も小走りでついていく。


「神原君は、現象には必ず意味があると思っているやろ」

と本郷所長は言った。


「もちろん」

と俺は答えた。


「それはそうかもしれんのだけど、こと霊に関しては、意味がないことも多いんや」

と本郷所長は言った。


「どういうことですか?」

と俺は尋ねた。


「まぁいわゆるバグみたいなものかな」

と本郷所長は答えた。


「霊はバグなんですか?」

と俺は尋ねた。


「基本的には、輪廻の輪に帰るものやろ。それがとどまっているわけやから、バグやろ」

と本郷所長は言った。


「まぁそうでしょうが。でも霊をバグと捉えるのは、なにか抵抗があります」

と俺は答えた。


「そりゃそうや。君の考えのほうがまっとうや。なにか未練があるから残ると、そう思うやろ」

と本郷所長は言った。


「そうです。可哀そうななにかがあるとか」

と俺は答えた。


「でもな。あいつらは基本的にはバグやねん」

と本郷所長は頭をかいた。


俺は本郷所長のいうことが理解できなかった。

そして少し気が付く。

俺は気持ち悪いと思いつつ、

霊に感情移入していなかったかと。


「もしかすると、霊に感情移入していたかもしれません」

と俺は呟いた。


「さすがやね。勘が良いわ。

霊感強い子ってな。

共感能力も高いねん。

でな、

霊にもなんかあると思いすぎるんや。

それで、余計にしんどくなる」

と本郷所長は答えた。


「なるほど」

と俺は言った。


「あの、くるくる頭回す霊おるやろ。

あれな365日。ずっとくり返してんねん。

おかしい思わんか?

意味あると思うか?」

と本郷所長は尋ねた。


「たしかに異常ですし、意味があるとは思えません」

と俺は答えた。


「そうやねん。本人に聞いてもな。わからないとしか言わない」

と本郷所長は言った。


「話すんですか?」

と俺は尋ねた。


「そりゃ仕事やから、話すよ」

と本郷所長は答えた。


「あの……、お仕事ってお祓いをするんじゃないのですか」

と俺は尋ねた。


「お祓いなんかせえへんよ」

と本郷所長は言った。


「でも、霊のお仕事と言ったら、お祓いくらいしか……」

と俺は首をかしげる。


「君はステレオタイプやな。そんなん大昔の話やで」

と本郷所長は笑った。


「いま、どんな仕事があるんですか?」

と俺は尋ねた。


「まぁ色々あるから、まず行ってみよ」

と本郷所長は言った。


俺たちは3つ目の駅を降りた。

午後五時半。

駅前の通りに、こぎれいなファッションビルが立っていた。


ガラス張りの入口。

白い照明が、外の薄暗さを押し返している。


自動ドアが開くたび、

中から暖かい空気と音楽が流れ出てきた。


OLたちが、肩にバッグをかけて足早に入っていく。

学生らしい若い女の子たちは、並んで笑いながら通り過ぎる。


ガラス越しには、整然と並ぶマネキン。

光沢のある床。

明るい売り場。


外の夕方とは、別の世界のようだった。


人々は迷いなく、その入口へ吸い込まれていく。


「ここの地下にある占いの館や」

と本郷所長は言った。


ファッションビルの地下には、怪しげな占いの館があった。

小さいブースに区切られた店内には、多くの女性客が鑑定を待っていた。

本郷所長は受付に向かう。


「まいど。館長おる?」

と本郷所長は尋ねた。


「あぁ本郷ちゃん。ちょっと待ってね。

館長!本郷ちゃん」

とギャルっぽい受付嬢は言った。


店の奥から、

サラリーマン風のオッサンが出てくる。

「館長お元気ですか」

と本郷所長は笑った。


「もちろん。君の所から派遣してもらった先生、評判良くってね。お陰でメディアの取材も多くって」

と館長は笑った。


「それは良かった。こいつ今度うちで働くことになった神原です」

と本郷所長は言った。


「ちょっと待ってください。働くなんて言ってませんよ」

と俺は抗議した。


「まぁ未来予知だ」

と本郷所長は笑った。


「本郷ちゃんの未来予知当たるからね」

と館長は笑った。


俺も絶対働かないとは、言うことができなかった。

なんらかの縁を感じるというか、

この本郷という男をそのまま放置しておいては、

いけないというか。

そんな気がしたからだ。


「あの仕事というのは、占い師の派遣なんですか?」

と俺は尋ねた。


「まぁそれもある。コミュ力のある人は、占い師でやってもらって、神原みたいに、コミュ力の低い子は、サービス系に行ってもらう」

と本郷所長は言った。


ちょっと待ってくれ、

コミュ力が低いってとツッコミたかったが、

できなかった。

俺は本郷という男に、

完全に見透かされていた。


そして、

俺はそれが、腹が立ちもしたし、心地よくもあった。


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