表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

大学生活2

 春が過ぎ、夏が近づいてきた。

東京での生活にも慣れ、周りの友人たちは次々と恋愛にのめり込んでいった。

サークルの先輩が合コンを企画すれば、そこには必ず魅力的な女の子がいた。

LINEの通知が鳴れば、夜に「会いたい」と誘ってくる子だっていた。


 高校の頃の僕なら、迷わず飛びついていたはずだ。

むしろ、そういうために東京に来たのだと意気込んでいた。

けれど、目の前の女の子がどんなに可愛くても、心の奥で比べてしまうのはマチだった。

笑顔の自然さ、話すときの空気感、気楽さ……結局、誰もマチには届かなかった。


 「おかしいな……俺、もっと遊ぶつもりだったのに」


 鏡の前で呟きながら、無理やり整えた髪をくしゃっと崩した。

外見を飾っても、心は別のところにある。


 夏休み。マチが再び東京に来た。大学での生活の話をお互いにしながら、二人で居酒屋に入った。

学生らしい安い酒とつまみ。それでもマチは楽しそうに笑っていた。


 「サークルで女子にモテてるんでしょ?」

 「……まあ、誘われたりはするけど」

 「ふーん。で、どうしてるの?」

 「……断ってる」

 「えっ、意外」


 マチは驚いた顔をして、次の瞬間、嬉しそうに笑った。

 「なんか、そういうの、ちょっと安心する」


 その笑顔に、僕は胸を突き刺された。なぜ断っているのか、自分でも説明できない。

だけど、マチの顔を曇らせるのが嫌だった。

ただそれだけだった。


 その夜も、マチは泊まっていった。

相変わらず僕の布団の横に寝転び、スマホでくだらない動画を見て笑い合った。

けれど、僕の心臓は早鐘を打っていた。

手を伸ばせば触れられる距離にマチがいる。

彼女は高校時代の無邪気な笑顔のまま、でももう大人の女性になりつつある。

そのギャップに、僕は何度も心を揺さぶられた。


 夜中。僕はとうとう口にしてしまった。


 「マチ……俺さ、遊ぶつもりで東京来たのに、なんかお前のことばっか考えてるんだ」


 マチは驚いた顔をして、それから静かに目を伏せた。


 「……だから言ったでしょ。あんた、そういうとこだって」

 「どういう意味だよ」

 「人を本気にさせといて、自分では気づかないの。昔からそう。だから私、ずっと言わなかったんだよ。好きだって」


 その言葉に、僕の胸の奥が熱くなった。


 「じゃあ、なんで告白したんだよ」

 「だって……離れたら、もう二度と伝えられないと思ったから」


 マチの声は震えていた。

今までふざけ合うだけだった彼女が、初めて見せる弱さ。、、、、僕は心をつかまれた。


 僕は、どうしたいんだろう。


 本当は自由を求めていたはずだ。遊びたくて、束縛なんてまっぴらなはずだった。なのに、今はマチを失うことの方がずっと怖い。


 「俺さ……お前といると、将来のこと考えちまうんだ」


 思わず口から出た言葉に、マチは目を見開いた。


 「結婚とか、そういうの?」

 「……ああ」

 「ふふ、やっぱりあんた、おかしいね」


 マチは泣き笑いのような顔をして、僕の腕を軽く叩いた。


 その夜、僕は一睡もできなかった。

遊びたい気持ちと、マチと未来を歩きたい気持ち。

その二つが頭の中でせめぎ合い、胸を締めつけていた。


 大学生活は自由だと思っていた。

けれど今の僕は、自由よりもマチを選んでしまいそうになっている。

 

どうしよう。本当に、どうすればいい?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ