波乱に満ちた青春
高校1年の春、僕は「マチ」と出会った。
彼女は特別に華やかなわけでもなく、けれども一緒にいると自然と笑顔になれる、
そんな不思議な存在だった。
授業が終われば、休み時間は必ずと言っていいほど隣に腰を下ろしてきて、くだらない話から真面目な相談まで、あらゆる会話を交わした。
廊下では「お前ら付き合ってるの?」と冷やかされることも多かったけれど、僕は頑なに「いや、そういうんじゃない」と否定し続けていた。
そう、あの卒業の日までは。
僕の青春は、決して一人の相手に純粋に向き合うようなものじゃなかった。
高校生にもなれば、恋愛は身近で熱くて、衝動的だった。僕は3人の彼女と付き合った。
誰もが「その時一番」の存在だったし、夜の甘い時間も、何度も重ねた。
だが不思議なのは、そのすべてを僕はマチに話していたということだ。
デートでどこに行ったとか、彼女との喧嘩、そして、つい話してしまった夜のことまでも。
普通なら嫌がられる話題なのに、マチはいつも興味津々で、時に顔を赤らめながら、時に大笑いしながら聞いてくれた。
それは妙な関係だった。僕の隣にいる彼女たちは、マチの存在を知っていても、なぜか嫉妬することは少なかった。
むしろ「マチちゃんに相談すればいいじゃん」と軽く言われることさえあった。
僕自身も、マチは“恋愛の相手”ではなく“相談相手”。
だけど時折、2人きりで映画を見たり、放課後に何時間も喋ったりすると、ふと心臓が速くなる瞬間があった。
だけどマチはいつも、ふざけた一言や笑顔でその空気を和らげてしまう。
僕もそれに甘えて、気持ちを抑えるふりをしてきたのだ。
卒業式の日。花束と笑顔と別れの涙が入り交じる中で、マチは突然、僕に告白してきた。
「ずっと……好きだった」
その言葉は、笑いながら話す彼女の顔からは想像できないほど、真剣で震えていた。僕は心臓を殴られたように息が止まった。
なぜだ? 僕の本性を誰よりも知っている彼女が。僕が遊び人で、もっと自由に恋愛を楽しみたいと公言してきたことを笑いながら聞いていた彼女が。どうして、そんな僕に「好き」と言える?
正直に言えば、僕の心は揺れた。
特定の彼女がいない今、目の前のかわいいマチに手を伸ばしたい気持ちは強くある。
でも、その先にある未来が鮮明に浮かんでしまう。
マチと付き合ったら、きっと遊び半分では終われない。
きっとそのまま結婚にまでつながってしまう。
それが僕には、窮屈で怖かった。まだまだ他の恋愛も経験したい。
もっと刺激的で、もっと自由な青春を送ってから大人になりたい
そんな欲望が、僕の中には渦巻いていた。
「俺、もっと遊びたいんだよな」
かつてそう言った時、マチは大笑いして、「あんたは本当にどうしようもないね!」と肩を叩いてきた。
その笑顔を思い出すと、なおさらわからない。
なぜ彼女は、そんな僕に告白してきたのか。
春から、僕は東京の大学に進む。マチは地元の大学に進学する。
物理的に距離ができれば、僕は遊ぶことに没頭できるはずだ。
それでもマチが僕に告白した理由が、心に引っかかり続けている。
もしかしたら、マチは僕の欠点も弱さも全部知ったうえで、なお一緒にいたいと考えたのかもしれない。
あるいは、僕が本当は「自由を言い訳にして誰にも本気になれない臆病者」だと見抜いていて、それを受け止めようとしているのかもしれない。
僕はまだ答えを出せない。
けれど、マチの告白は確かに僕の胸に爪痕を残した。
青春は、時に笑い、時に迷い、そして誰かを傷つけながら進んでいく。
僕にとってマチは、その象徴だった。