第一話 ― 惑星テルシア。
紅い……紅い月の姿がある。それは空間を覗く”眼”である。
”眼”は星々の眩耀に紛れ、妙に肥大化した小惑星帯の隙間から、ある存在をじ…っと見つめているのだ。
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―――それは繁栄の代償か、それとも必然たる破滅の現出か。
テルシア共和国首都、〈惑星テルシア〉。
永遠なる都。テルシア文明の揺り籠。世界に冠たる完全都市惑星―――。
―――またの名を、〈永遠なる廃墟〉。
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――今日、伽藍洞の世界首都は、酷い静寂に包まれていた。嘗ての歓楽は露知らず、ただ、滔々と流るる水の流れや、空間に吹き通る風の音だけが、かつて惑星全体を整然と覆い尽くした建造物群の廃墟に、寂しく響き渡るのみである。
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ふと、晦冥の中に姿を見る。原始的なランタンの淡い灯火が――街道を歩む二人の存在を映し出したのだ。そう、街道である。そこで木霊する跫音を鑑みるに、この暗闇には大規模な一団の存在がある――。
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「……――質問しても良いか?」
「構わないが……何かね?――……」
……声が……二人の会話が……辺りの思考空間に染み渡る。
それは…上手く言語化出来ない――効率性と抽象性の融合体であり、極度に進化した意思疎通方法の形態であった――。
「……人身の販売は暗黒時代の象徴たる行為だ。
共和国時代の自主賦役のそれとは訳が違う――」
「分かってくれ。いや……分かるだろう?――……」
……その…心中より零れ落ちた感情の露出――視覚的には揺れ動く粒子の集合体に思える。…彼は――多角的な方向に対する不安を――決意で覆い隠した。ただ、先を見据えんと目を凝らすような、曖昧な決意で。それで良かった。そうする他に――
「……――術など無いのだから――…」
すると突然――黄色味の塵霧が――彼等の世界を包みこんだ。その流れは幾重にも渦を巻いて、登り来る龍が如く畝り狂い――。
「……――私達は、ただ今を生きる存在に過ぎない…。
過去の栄光は過去の話。ならば我々は――今日の栄光を掴まんとするのみ――……!」
――その瞬間、砂塵の雲が晴れたかと思えば、途端に――茫洋とした大盆地の姿が、彼らの前に現れたのだ――。
「……――テラトン市へようこそ。歓迎するよ――…放浪者さん?」
惑星テルシア ― 機械人形たちの最終指令。
第Ⅰ章 ― 鉱業都市テラトン。
◇ ― 放浪者。
テラトン市を訪れた謎の人物。




