捌け口
私は工場で働いている。
その工場ではとある道具を作っていた。
どのような存在にも役割というものがある、なんて誰かが言ったけれどその言葉にそうならば、この道具にも重要な役割はあるしそれによって多くの人が救われている。
救われているというよりは需要があると言うべきか。
いずれにせよ、然るべき目的で造られ、その目的を開発日から今日に至るまでしっかりと果たしている。
しかし、果たしてこれは本当に正しいのだろうか?
その想いと疑問に耐え切れず、私は遂に今日この仕事を辞めることにした。
「工場長」
緊張した面持ちで自らの意志を告げると工場長はあっさりと私の願いを聞き届けてくれた。
「おつかれさん。一年半か。お前は頑張ったよ。よく持った方だ」
ぶっきらぼうな言葉だったが、不思議とそれが嬉しかった。
私は荷物をまとめて二度と訪れないであろう工場を後にした。
晴れ晴れとした気持ちだ。
今日はお祝いに高いお肉でも買おうか。
そんな気持ちで歩いていると聞きたくもない悲鳴が耳に入る。
ちらりと横目で見ると、本日まで私が作り出していた道具が呻き慈悲を乞う姿が見えた。
「次は何をする?」
子供が三人集まって道具を囲んで遊んでいた。
「頭はあまりダメだって母さんが言っていた。すぐに壊れちゃうんだって」
「じゃ、頭はもう止めよう」
胸糞が悪い。
私は速足でその場から去った。
私の造っていた道具とはつまり人の持つ暴力を満たすために造られた命だった。
ストレスの捌け口に好きなだけ暴力を振るって良い……そんなコンセプトで造られたらしいけれど。
「人間が好き勝手にして良い命を作るなんて間違っている」
台所でステーキを焼きながら私はずっと溜め込んでいた気持ちをようやく吐き出せた。
「こんなの間違っている」
叫びたかった気持ちを言葉にする。
なんとも清々しいことか。
焼きあがったステーキをテーブルの上に乗せて呟く。
「今まで良く頑張りました。私」
人間が自分勝手に造り出した命を弄ぶ職場から解放された晴れやかな気持ちのまま。
私は細やかなお祝いであるステーキを堪能した。