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一話 俺が死ぬなんて

 俺は死んじまったみたいだ。仲間と暴走してその果てに橋から落ちちまった。全く恥ずかしい最後だ。最後に仲間と暴走できてよかった。

 どうやら、死ぬとよく分からんが、扉の前に来るようだ。なんとも言えないが、何か閉鎖されていて、薄暗い場所。まあ、洞窟と言えばここがどんな場所かは伝わるな。結構人居るな。こんなに死んでる人がいるのか。ざっと100人くらい居るな。爺婆だけじゃないんだな。

 扉の前で20代くらいの男が何か言ってるな。まあ、断片的には聞こえるな。

 扉?通る?できない人?未練?わかんね。

 話終わった瞬間からその場にいた人が全員扉へ進み始めた。訳がわからんが、扉に入る前に横にズレてる奴もいた。全く何考えてんだかな。

 何分かして、俺の番になった。次の人生があるんだったらこんなミスは絶対しないぞ。

 進もうと歩みを進めるが、一歩も進まない。なぜだ?

「速く横に避けてください。」

 さっき話してた男が話しかけてくる。

「なんなんだよこれ!!」

「それは、先ほども言いました。わからないなら後で説明いたしますので、一旦避けてください。」

 淡々というこの感じすごく苦手だ。関わり合いになりたくないな。

「ああ、わかった。」

 それから何分か経った。俺と同じように待ってる奴が何人かいる。

「では、ここにいる方は、死ぬに死にきれない何らかの未練がある方です。何らかの方法で解決出来そうであれば、こちらにきてください。」

 未練があるだと?この俺に?

「未練なんかあるわけ無いだろ!!」

「しかし、この扉を通れないという事は、そういう事なのです。

もしかしたら、君がしょうもないなんて思っていることが未練だったりしますよ。どうやら、君の体はまだ死んでいないようです。一度見に行ってみてはいかがですか。」

 何言ってるんだか。何でこんな事に。癪だが、当てもないし、見に行くか。

「じゃあな。」

「はい、では待っております。」


 何故だろう。自分の体がどこにあるのか分かる。壁をすり抜けられる事も気持ち悪い。生きていないとうい事を実感する。

 地元の大きな病院に俺の体があるみたいだ。仲間がすぐに呼んでくれたのかな?嬉しいぜ。俺のために暴走を中断してくれるなんてな。やっぱり、持つべきは仲間だぜ。お見舞いも来てくれてるのかな?

「涼!涼!!お願いだから目を覚まして!!」

 聞き覚えのある声だ。いつも口うるさくて、うざい奴のこえだ。

「ねえ、お願いだから死なないで…!」

『おい、ババア。俺はここに居るぞ。』

 まあ、聞こえねぇわな。仲間の姿がないがそれもこれもこいつが原因だろうな。

 自分の体こうやって見る機会はなかったな。改めて見るといい体してるな。でもこうやってまじまじみてると、ナルシストっぽいな。でも、こうやって見ると、結構危ないことしてたんだな。腕は変な方向に曲がってるし、足も折れてるみたい。多分、見えてないだけでもっとヤバかったんだろうな。だが、俺がここに居るってことは、もう助からないんだろうな。

「お母様、息子さんの容態は今は安定しています。安心してください。」

 俺の体の容態は安定している?俺は死なないのか?

「では、息子は目覚めるのですね!?」

「それは…」

「どういうことですか!!」

「息子さんの体は安静にしていれば、三ヶ月もすれば治るでしょう。しかし、脳へのダメージが想定以上に酷く、おそらく、目が覚めるかに関しては五分五分と言ったところです。もしかすると、一生このまま、つまりは、植物人間になってしまうかも知れません。」

「どうにか出来ないんですか?お金は何が何でも支払います。一生をかけてでも!!」

「心中お察しいたします。しかしながら、我々も最善は尽くしております。それでも、意識が戻るかは五分五分なのです。」

 という事は、植物人間確定ってことか。仲間に申し訳ないな。

「そんな…」

 何悲しんでんだよババア。そんなに悲しむこたないだろ、食費だってバカにならないって愚てってたんだから、むしろ喜べや。

 結構時間経ったな、というか朝から晩まで、全然帰らねぇじゃんこのババア。帰れよ。明日も仕事あるんだろ。

「涼…死なないで。目を覚まして。」

 …こんな所にいても辛気クセェだけだ。どっかに行こう。そうだ俺が落ちちまったあそこに行くか。きっと、アイツらは今日もあそこを暴走してるに違いない。


 昨日来たはずなのに、何ヶ月も来てない気がするな。この橋から見える景色好きなんだよな。仲間のみんなで、よく来たな。いや、ほぼ毎日来てたな。どうせ今日も来るんだろうな。

 お、聞こえてきたな、この心地いいエンジン音は。

「やっぱり、何があっても暴走は楽しいな!!アイツは死んじまったのか?」

 俺のことを話しているのか?

「アイツの死体はなかったし、波にでも流されたんじゃねぇの」

「アイツ、ウザかったけど、運転技術は高かっただろ?しかもここは走り慣れてたじゃねぇか。」

「ああ、アイツウザかったから、バイクに細工しといたんだよ。ブレーキが効かないようにしたのと、整備不良に見せかける細工をね。」

「ナイス〜。これで楽しい暴走ができるな。」

 笑いながら話している。嘘だ。きっと悪い夢だ。そうだ。そうだよ。壁を貫通したるとか普通しないもんな。

『はは、ハハハハハハハハ!!』

「何笑ってんだよ。フフ。」

「なあ、何言ってんだ。誰も笑ってないぞ?」

「は?面白くねぇ嘘はやめろよ。冷めるだろ。」

 こんなに、現実離れしたこと起きるはずが無い。起きて良いはずが無い。なのに何でこんなに、現実的なんだ。何でこんなに、妄想でも夢でもないと感じてしまうんだ。

「おい、もう行くぞ。あんな奴のことはもう忘れて暴走するぞ!!」

『おい、待てよ。どういう事か教えろよ!!』

「…もう二度とここは走らないから目に焼き付けとけ‼︎」

『おい。おい!待てよ‼︎』

 いつもの聞き慣れた音。裏切りの音。人を自分の好き嫌いで殺せる奴らの奏でる音。そして、あのババアの嫌いな音。


 結局、未練も何もわからなかったな。ただ、俺に仲間はいなかったのか。悲しい?怒り?呆れ?何だこの気持ちは?とりあえず、癪だがあの男に話を聞いてみるか。それ以外、現状を変える方法はないか。

あの洞窟のような場所に戻ってきたが、先客がいるようだ。屈強な優しそうな男が、あの男と何か話しているな。

「私はどうしても、娘の成長を見たいのです。娘が嫁に行くまでは死ねません。」

「そうですか。あなたの体はまだ生きています。魂が体に戻ることができれば。確実に生きることができます。体に戻る方法は……」

 最後だけよく聞こえなかったな。だが、どうやら生き返ることは出来るみたいだな。あの男に話しかけるの嫌だし、屈強なおっさんの方に話しかけるか。

「なあ、おっさん。」

「何ですか?あと、これでも私は二十代なんですよ。」

「俺も未練を見つけられたんだが、どうやったら生き返れるんだ?」

「彼曰く、自分の体に触りながら、未練となったものを想像し、どうしたいか願う事で体に戻れるようだよ。」

「おっさんはどうして死にかけてるんだ?」

「私はね、消防士をしているんだ。この前ニュースにもなっていた火事なんだけどね。その家の中に娘と同じくらいの 子が取り残されてるって聞いてね。急いで中に入って助けたんだけど、その子を連れ出した後くらいに、家が崩落しちゃったんだ。それに巻き込まれちゃってね。」

「そうか。すまねぇな。そんなこと聞いちまって。」

「大丈夫だよ。それじゃあ行くね。娘たちが待ってる。」

「おう、ありがとな。」

 優しそな奴だな。死に方という言い方は少し違うが、カッコいい死に方だったな。俺も死ぬならあんな死に方をしたいな。

「よっしゃ!生き返るぞ!!」


 もう日を跨いじまったのか。とりあえず、未練は暴走の果てに死んだこと。どうしたいかは、そうだな俺を殺そうとしたアイツらを殺してやる。

『何も起きねぇじゃねぇか!』

「涼‼︎…聞き間違えね。早く起きて。あなたが何やってたかなんてお見通しなのよ。起きたら怒鳴っても良いから早く起きておくれ。」

『……俺はここに居るぞ。クソババア。』

 何でこんな事言ったんだ?クソ!気持ち悪りぃ。

『同じ病院に入院していたんですね。』

『誰だ!!』

 いきなり声が聞こえてそう言ってしまったが、さっき聞いた声というのはすぐにわかった。

『私だよ。先ほどまで、話していただろう。』

『すいません。いきなりで驚いたもんで。』

『いきなり話しかけた私も悪かったね。どうしたんだい。早く起きてあげたほうがいいんじゃない。そこに居るのは、お母さんでしょ。早く起きて安心させてあげないと。』

『確かに母さんだよ。父さんは死んで一人で育ててくれたんだ。いつも家に居なくて、何やっても何言っても、早い時間に帰ってくることはなかった。だからグレてやったんだ。仲間がいて楽しかったんだ。楽しかったはずなんだ。』

『色々あったんだね。でも、家族を悲しませてはいけないよ。少なくとも、君のお母さんは君の為に泣いてくれてる、優しいお母さんだ。』

 おっさんはババアの方を指さしてそういった。

『まあ、色々な人が居るし、アドバイスくらいに思って、くれるとありがたいかな。それじゃあ、私は行くね。私にも、待ってる人が居るんだ。』

 そう言ってさってしまった。何言ってるんだ。大きなお世話だ。……少し見に行くか。


「おとうさん…死な…ないで…」

『待たせてごめんな。絶対に死んでたまるか。』

 おっさんが自分の体に触って目を瞑っていた。やっぱり何も起こらないか。あの男に文句言ってこよう。

『なんだ!?』

 いきなり、おっさんが光り始めた。何が起こってる!

『この子の為にも、もっと頑張るぞ!!』

 そう言うと、おっさんは居なくなった。

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