第8色
三人はその光景に驚きを隠せなかった。デルフィノの持つ光の箱の中で、黒い液体が揺らめいている。
「え、えぇええ!? 兄さ……っ魔珠が溶けて!!」
「そうだ、核は無事か!?」
魔珠は、一つ一つが菱形のクリスタルを核として有しており、そのクリスタルこそが、この世界における魔力回路の要なのだ。魔珠自体が破損しても、核が無事であれば修復は可能である。しかし……
「……あ、ありません。魔珠の魔力すら感じられない……その代わり、誰かの意志のような……」
「! デルフィノ、貸せ!」
「は、はいっ!」
デルフィノの手から半ば奪うように、魔珠だったものを受け取ると、手早く強固な結界を張り直していくアール。その間、中の黒い液体が微かにさざめいたように感じていた。
(あいつ……! これでガーデンに侵入するつもりだったのか……!)
「……すまない、デルフィノ。これを今すぐ司令官に渡してきてくれ。グラッツが侵入を試みていた、と伝えてな」
「わ、わかりました……その、先輩は大丈夫ですか……?」
「あぁ、問題ない。それより早く!」
「はい! アマレット、行くぞ!」
「お、おう!!」
デルフィノたち兄弟が大花盤に乗り、急いで鍛練場を後にする。二人を見送り、アールは微かな焦りを感じていた。
(何で司令官から受け取った時に気付かなかった! いつもなら、デルフィノと同じように気付けたはずだろ……!)
自問自答しながら大花盤を展開しつつ、安否確認のために通信を入れる。その相手はもちろんエレンだ。
『……アール? どうしたの?』
「エレン、今どこにいる? 自室にいるのか?」
『え? えーっと……いつもの場所だけど……』
「っ! わかった、ひとまず今そこから出るな。これからそっちに向かう」
『え、なんで……どういうこと?』
「着いてから説明する! とにかく絶対動くな!」
『……っ、わ、わかったわ……』
状況がわからず動揺するエレンにさえ、苛立ちを隠せず語気を荒げてしまうほど、アールが焦っていた。通信を切るなり、大花盤に飛び乗り全速力で広大なガーデン施設内を駆けていく。
(グラッツは直接ガーデンに潜り込む為に、わざわざブローカーを使って魔珠盗難を偽装していた……! あの偽の魔珠が簡易的な花門に近い術式だとすれば、この施設内で展開されたら……!)
アールは速度を落とすことなく、施設の中心部へ向かって飛んでいく。そして目の前に、荘厳な金装飾が施された大きな扉が現れる。大花盤から飛び降り、重い扉を押し開け駆け込んでいく。その扉の先には、ガーデンが誇る中庭、フルール・ミロワールで最も美しいと云われる空中庭園が広がっている。木々や草花が生い茂る庭の更に中心へ彼は走っていく。庭園の中央には、メインと言える大樹が聳えていた。




