第21色
数歩後退りして、足早にその場を離れる。その要因はわからないままだったが、メリヴァは直感的にその場にいてはいけないと感じ取っていた。その場に一人残されたセラータは、肩をすくめながら「どうも警戒されてしまうな……」と呟く。そして何事も無かったように、元来た道を戻って行った。
司令官室へ向かうまでの間、遠い記憶が頭の中で巡っていた。それは仄暗い海の底。自分の生まれ故郷で起きた後ろめたい記憶。ぽつり、ぽつりと湧き上がる水泡のように、浮かんでは消え、浮かんでは消えの繰り返し。自責の念に駆られながら、一族から投げられた言葉を飲み込んだ。
『守人に、なった……? 貴女、それ本気で言ってるの!?』
『長としての責任を放棄するつもり!?』
『地上の二柱に仕えるということは、海を捨てたも同然じゃない!』
違う。違うわ。御二方は私たちの海のことも大切に想ってくださる、慈悲深い方々よ。種族が違うからと、世界を切り離して視るような方々ではないわ。そもそも、あの方々がいらっしゃらなければ、私たち人魚の一族もこの花鏡にはいないのに、何故皆は地上を嫌っているの? 海底の珊瑚や貝の彩りも好きだけれど、数多の花が咲き誇る地上も美しいのよ。
そう、だから、だから私はこの地上が、いいえ、この地上に──……
「メリヴァ?」
「っ! 司令官……」
ふと顔を上げると、目的の人物が心配そうに目の前に立っていた。気付けば、司令官室まであと数メートルといった距離まで来ていたようだ。自分の考えている以上に思い詰めた顔をしていたのか、只事ではないと思われているようだった。もちろん、急を要する事態でもあるのだが。
「何か緊急事態かしら? 顔色も悪いわ、とにかく部屋に入って」
「あ、いえ、今のは……いや緊急と言えば緊急ですね。ご心配おかけしました。大したことではないので、私のことはお気になさらず。司令官に一つご報告とご相談があります」
「そう……? 無理はしないでちょうだいね。ひとまず部屋で報告を聞こうかしら」
「はい、失礼します」
来客用のソファに促され、やっと落ち着けたと一息吐くメリヴァ。先程のセラータとの会話からここに来るまで、否応なしに気が張っていたのだと自覚する。向かいのソファにセラヴィも腰掛けると、庭園でアンジュと話し合ったことを伝えた。その後のセラータとの会話についても念の為話しておく。メリヴァが話している間、セラヴィは真剣に相槌を打ちながら聞いていた。
一通り話し終えれば、入室時よりもだいぶ肩の力が抜けていた。前に座っているセラヴィは、報告内容を手早く書き留めまとめている。




