第20色
右眼が前髪で隠れている、セラータと呼ばれた青年は、メリヴァからの警戒の視線に臆することなく悠々と歩いてくる。固く身構えたまま、彼の次の言葉を待った。
「えーと、何でそんなに警戒されているのかな? 僕はただ通りすがりにキミを見かけて、何やら悩んでそうだったから声をかけただけだよ?」
(セラータ・ミラジェイド……今のアール様とほぼ同格の実力を持っている男……普段からこんな態度だから、全く真意が読めないのよね。警戒するに越したことはないわ)
「お気遣い結構。個人的に少し気になることがあったから、司令官に報告へ向かおうとしていたところよ」
「そうかい? それなら僕の出番は無さそうだ。ちなみに……」
そう言い目を細めながら、セラータはメリヴァに耳打ちをする。
「その予感は、人魚としての能力かい? それとも……守人としての直感かい?」
「!? なっ……」
(なんで守人のことを……!? 司令官たち以外には公にしていないはず……!)
「あれ、『どうして?』って顔してるけど、そんなに驚くことかな? アンジュもそうだけど、あんなに六大樹の力を駆使していたじゃないか」
「……先日のグラッツ襲撃の時、庭園に来ていたの……?」
「それはもちろん、司令官から召集がかかった以上、放棄せずに駆けつけるとも」
メリヴァからの質問に、間髪入れずすらすらと答えていくセラータ。さも当然のように振る舞っている彼だが、その態度がどうも腑に落ちない。
(あの場に駆けつけていた……? 私とアンジュが先行して、グラッツの退去後に司令官たちが到着している……私たちの力を見ていたはずは……)
「……いい、わかったわ、そういうことにしておきましょう。ここで時間取るつもりも無いから、私はもう行くわよ」
疑問も残る中、メリヴァは足早に去ろうと彼の横を通り過ぎる。しかし、すれ違い様に手首を掴まれ引き止められていた。
「っ!? 何を……!」
「いや……そういえば、キミが笑ったところも見たことないな、と思って……」
「は……そんなの、私以外にもいるでしょう。引き止めたのはそれだけ? 早く離して頂戴」
「あ、あぁ、すまない……」
(? なんか急に歯切れが悪くなったわね……)
「……今度近いうちに」
ぽつりと呟きながら、目を伏せるセラータ。片目が前髪で隠れている分、余計に彼の表情が読めず、固唾を飲んで次の言葉を待つしかなかった。僅かに狼狽えていた様子にも驚いたが、再び目を合わせた瞬間、背筋が凍ったのは言うまでもない。
「守人の力をよく見せてほしいな」
「……っ! 貴方は……」
咄嗟に、掴まれていた腕を振り解いていた。少し息を乱しながら、彼を睨みつける。要望の言葉と共に見据えられた瞳は、獲物を捉えた蛇のようだった。




