第19色
庭園の奥、ガラス張りの温室のような小屋がある。そこでアールとの思念を切ったアンジュもまた、困ったようにため息を吐いていた。そこへメリヴァが訪ねて来ては、不服そうな顔を見せた。
「……相変わらず話さないまま過ごすつもりかしらね」
「いえ、お二人の間で約束されているようですから、それは無いと思います。ただ、すぐにお話しされるかどうかは……」
「そうでしょうね。それに、シャンベリー様の意思が伴っているなら尚更よ。あの方、一度決めたことは曲げられない頑固者なのは変わってないし……だとしても、もう少し私たち守人のことも考えて欲しいものだけど」
「……どうします? あまり時間はかけられないですよ」
「そうね……約束されているなら、彼も話さざるを得ないでしょうし、そこまで心配しなくてもいい気もするわね。ただ……」
メリヴァは、何かを探るように言い淀む。その様子を見たアンジュも察したのか、不安そうに彼女を見つめた。
「この数日の間に、何かが起き始めていそうなのよね……さっきから胸騒ぎがする」
「グラッツが関係しているのでしょうか……司令官にも伝えておきます?」
「そうね……司令官へは私から報告しておくわ。貴女はお二人の行動を見張っていて。特にエレン様。あの方も責任感が強いから、何かの拍子に単独で行動しかねない」
「わかりました。そしたら、しばらく私はここから動けませんので、他の行動はあなたにお任せします」
そう言ってアンジュは、小屋の奥に鎮座している巨大な水晶玉の前へ移動する。水晶玉の中には、乳白色の硝花の薔薇が清らかに咲いている。目の前に立ち止まり、その場に座り込む一人の天使。圧倒的な存在感を放つ白薔薇に向かって手を組み、祈るように瞑想を始める。直後、穏やかな光の波が、地を伝ってゆらりと拡がっていった。
その様子を見ていたメリヴァは、彼女に一言「頼んだわよ」と残し、足早に庭園を去って行った。庭園を出てから、先程感じた胸騒ぎについて思案していた。広い廊下に、彼女のヒールの音だけが心地良い程に響き渡る。あまりにも静かで、ほんの少し不安が膨らんでいく感覚に見舞われる。
「この胸騒ぎ……何なのかしら。グラッツが関係しているのなら、司令官に報告しておいて損は無いでしょうし……その前に私たちでできることは……」
「随分とお困りのようだけど、相談乗りましょうか? 人魚のお姉さん」
「!! セラータ……」
ふと視線を上げると、前から青年が歩み寄り、声をかけてきていた。メリヴァは彼を見るなり、警戒の眼差しを向けた。




