第18色
ここまで強引に引き止められると、シェリーが頑なに動かない性格であることは、リッチでさえ百も承知のうえだった。急な展開で困惑しているエレンを見かねた彼は、「これは大役を任されてしまいましたね…」と眉を下げながら、観念して席につく。ポットの中では鮮やかな蒼が踊り、香りに華を添えている。まだまだ終わりそうにない女子会が幕を開けた。
そんななんて事のない日常に戻り、特に大きな事件も起きることなく数日が経った。庭園の秘密部屋では、アールが一人長椅子に深く座り、項垂れて考え込んでいた。エレンにちゃんと話すと約束した以上、どこから話すべきか、と未だにかなり悩んでいた。
『まだ悩まれているのですか?』
「……アンジュ。急に思念で話しかけてくるのはやめてくれないか……」
『そう言われましても……眷属とはいえ、私は大樹に入れないんですよ。それに、私が普段から庭園で過ごしているのはご存知でしょう? 庭園に足を踏み入れた主の存在くらい、嫌でも感知できます』
「わかった、わかったから……随分嫌味を言うようになったな……」
彼女の歌うような柔らかい声で、悩んでいたこともすっかり飛んでしまい、軽く溜め息を吐く。思念での会話は、二人の特別な関係故に為し得る事だ。声に反して、彼女の言葉の端々に棘があることに不服そうにするも、アールはすぐに表情を戻す。
「……本当なら、『守人』が揃った時点で伝えようと考えてはいたんだ。グラッツのおかげで前倒しにされたが……」
『そのタイミングでもだいぶ遅いのでは……? いつか気付かれるのはわかっていらっしゃるはずなのに、そこまでして隠さなければならないことですか?』
「それは……」
言い淀んでふと、とある女性の顔と言葉が浮かぶ。エレンと同じ緩やかな淡い金髪の女性が、申し訳なさそうに話しかけてくる。
『エレンを、お願いね……あなたにしか頼めなくて、押し付けるようになってしまうけど……あなたたちなら、きっと大丈夫』
どこか寂しさを浮かべた笑顔で、アールにエレンを託した彼女。娘の幸せを誰よりも願っている、母としての表情。彼女こそ、エレンとセーラの母親その人だった。
彼女の顔を思い出しながら、アンジュからの問いにぽつりと応えた。
「エレンの母親……シャンベリーさんから頼まれてるんだ。できる限り、写し子のことは隠して欲しい……知らない方が、同じことを繰り返すタイミングを遅らせることができるはず、と」
『……シャンベリー様からの言伝でしたか……申し訳ありません、そうとも知らず、出過ぎた発言を……』
「いや、皆に知らせてやれなかったこちらの落ち度だ。気にしないでくれ」
『……』
その後、しばらく待っても言葉が飛んでくることは無かった。アンジュはそのまま口をつぐみ、思念を切ったようだった。再びアールは一人、思い悩む時間に浸った。




