第11色
そして、時はアールが到着した頃の空中庭園へと戻る。エレンを抱き寄せながら、部屋の周囲に、より強固な結界を張り警戒を強めた。
(この感じ……もうここまで迫ってきていたのか……!)
「さて、この辺りのはずなんだけど……あれ、もしかしてアールも一緒にいるのか? なんだ、先越されちゃったなぁ」
グラッツは、アールの危惧した通り大樹のすぐ下まで来ていた。辺りを見回し、二人がいる位置に気が付いたのか、大樹を見上げほくそ笑んでいる。
「まさかキミ、その歳にもなって木登りが趣味なのかい? 大事なお姫様まで連れて?」
「……エレン、あいつの言葉自体が術になってる場合がある。何を言われても、絶対耳を傾けるなよ」
「う、うん……」
樹の上にいる二人へ朗々と語りかけるグラッツに対し、アールは一言も返すことなく、慎重に耐えるようエレンに促す。不安そうにしていたエレンも彼の忠告通り、無闇にグラッツの言葉を聞いてしまわないよう、耳を塞いだ。どんなに語りかけても反応が無いと察したのか、グラッツも痺れを切らし、大樹の幹へ手をかけた。しかし、彼に大樹へ触れる資格も無く、結界によって激しい音と共に強く弾かれてしまう。
「つっ……!! これは……」
(アールが張った結界じゃない。となると、この樹自身の拒絶反応……)
「まさか、この樹は……!!」
「私の大切な庭を、荒らさないでいただけます?」
グラッツが何かに気付いた直後、柔らかく澄んだ声が聞こえ思わず振り返る。そこには、真っ白なワンピースを着た、まさに「天使」と呼ぶに相応しい容姿の女性が立っていた。彼女の腕には、白薔薇の硝花が封じ込められた水晶玉が大事そうに抱えられている。更に丁度そこへ、メリヴァも到着した。
「そこまでよ、侵入者。主には手を出させない」
「良いタイミングね、メリヴァ。他の方は?」
「これくらい、私たちで十分でしょう、アンジュ。彼にはさっさとお帰り願いましょ」
「それもそうですね。では、『光樹』の加護を」
「『水樹』の加護を!」
「!? 六大樹の加護だと……? ははっ……これは参った。ガーデンにこんなとんでもない奴らが潜んでいたなんてなぁ!」
メリヴァは三叉槍、アンジュは抱えていた水晶玉をグラッツに向けて差し出し、短い詠唱を紡ぐ。その言葉に驚いたグラッツは微かに後退する。
「「庭は神の御許の聖なる地。邪な存在は一切の立ち入りを禁ず!」」
「……これはだいぶ誤算だったな……だが、この力も素晴らしい……! 今日のところは退いてあげるよ。もし次に会う時は……」
放たれた光に包まれながら、グラッツは大樹を見上げ呟く。
「僕のいるエデン本部かな!」
吐き捨てるように言い残したグラッツは、再び姿を消した。その場に残ったメリヴァとアンジュは目を閉じ、周囲の魔力を辿り、グラッツが撤退したことを確認する。脅威が無くなったことはアールも感じており、終始エレンを抱き寄せていた手と結界を緩めた。




