彼女のノートに落書きする
よくわからない作品です。
誰もいない教室の中、ひとつの机の上に花瓶が置いてある。そこは、ついこないだまでとある女子生徒の席だった。今では供え物置き場となっており花やらお菓子やらとたくさんの貢物が置かれている。
「もう・・・置くところがありませんね」
物思いにふけていると、一人の女子生徒が私に話しかけてきた。彼女の言う通り、品物は机だけでなく周りの床にまで散乱していた。
「本当に・・・色んな人から愛されてたんですね」
彼女は涙を流しながら途切れ途切れに話し出した。
「あなたも・・・彼女とは仲が良かったんですか?」
うるわせた瞳をこちらに向ける。
「まあ・・・私は彼女とは古い仲だったんで・・・」
「・・・そうなん・・・ですね」
品物で埋め尽くされた机に目を向けながら答える。
「なんで・・・こんなことに・・・」
彼女は大粒の涙を流し始めた。
「なんででしょうね・・・ほんとに・・・」
「彼女はよく・・・あなたの話をしていました・・・まさか・・・幼馴染だったんですね」
そう私と彼女は乳をしゃぶってる時からの中だった。幼稚園も小学校も中学校も高校もずっと一緒に二人仲良くで登校していた。
「私は・・・彼女とは高校で出会って・・・すっごく優しくしてくれたんです」
彼女は本当に善良な心を持つ人だった。将来は人助けのできる仕事に就きたいと言っていた。勉強ができたから医者にでもなりたかったのかな?
「高校生活・・・彼女と一緒にいた時間が・・・一番幸せでした」
もうあの坂道を通ることはない、もうあの本屋さんに立ち寄ることはない、もうだれかと一緒に勉強することはない、もう彼女の声を聴くことはない。
「それで・・・彼女は最後に何と言っていましたか?」
彼女は涙を流したまま私に問いかける。
「彼女は最後・・・あなたに何か言いましたか?」
彼女の途切れ途切れの声が徐々に聞き取りやすくなる。
「彼女は殺される直前、あなたに何を言っていましたか?」
怒りの籠った声が教室に響き渡る。彼女が何故怒っているのか私には手に取るように分かる。
私は黙って彼女の言葉に耳を傾ける。
「あなたが彼女を殺したんですよね?」
私はこの女とは初対面だ、でもこいつは私と死んだ彼女の関係を知っている。この女は私が何をしたのか分かっているうえで私に話かけてきたのだ。
「私・・・見てたんです・・・あなたが彼女を階段から突き落とすところを・・・」
そう彼女は私が殺人に手を染めた瞬間を見た目撃者である。
「なんで・・・殺したんですか?」
彼女は俯いている私のもとへ近づいてくる。
「彼女はあなたのことを信頼していました・・・彼女はいつもあなたのことを話していました・・・彼女は本当にあなたのことが好きでした・・・なのに・・・どうして?」
私はゆっくり顔を上げ、白く汚れた黒板を見る。
「飽きたんですよ・・・幼馴染という関係に」
彼女は黙り込み私の穏やかな顔を見つめている。
「付き合いが長くなると何も感じなくなるんですよね・・・だから殺したんです」
私はゆっくり教卓へ足を進める。
「それが・・・動機ですか?」
私の後ろで動揺した声が鳴り響いている。
「いらなくなったんです」
白いチョークを手に取り、黒板をなぞり始める。
「もう・・・用済みになったんですよ・・・」
次の瞬間、背後からけたたましい足音が聞こえた。私は思わず振り返る、すると銀色鋭い物が私の腹部に突き刺さった。赤い液体と激しい痛みが少しずつ腹部から全身へ染み渡る。
「・・・許せない・・・そんな理由で彼女の命を奪ったあなたを許せない」
次第に体の力が抜けてくる。
「これ以上・・・他の人に危害を加えさせない・・・だからあなたを・・・ここで殺す」
私は最後の力を振り絞り隠し持っていた刃物を手に取って、彼女の首元へ振りかぶった。
血しぶきが吹き出て、私の目の前を赤色で埋め尽くす。
「殺す度胸があるぐらいなら・・・死ぬ度胸ぐらいあるよね?」
私がそう言うと、彼女は虚ろな目をしたまま刃物から手を離し床に倒れた。それを確認するやいなや私も同時に倒れる。
血の味がする息を吸いながら、彼女の死に顔を横目で眺める。
よかった・・・ちゃんと殺せて・・・。
唯一の証拠の目撃者を消した、これで事件は未解決のまま事なきを終える。
私と彼女の友情は誰にも渡さない。
今日から高校生になる一人の女の子がいる。その子はもの静かな子で中学の時は誰とも話さず、いつも教室の隅で本を読んでいるような奴だった。女子高生としてやっていけるのか心配だ。
入学してひと月が経っても彼女は友達を一人も作れておらず中学の時と何も変わっていなかった。相変わらず教室の隅で読書をしている彼女だったがそんな奴に一人仲良く付きまとってくる者がいた。
「おーい、元気にしてますかー?」
一人の女子生徒が大きな声を上げ彼女に近寄って来た。
「相変わらず自分の世界に入ってますなー」
彼女は気にせず黙々と読書を続ける。
「何読んでるの?」
女子生徒が覗き込むように彼女の読んでいる本に目線を向ける。
「見ないで・・・」
彼女は少し引っ込み事案に話始めた。
「えー気になるー」
「・・・今面白い所なの」
「いいじゃん別にー古い仲なんだから少し読ませてよー」
すると彼女は本を閉じ立ち上がった。
「関係が長いから何・・・そんな理由で親しくしないで」
彼女は少し顔をしかめていた。そんな姿を見て女子生徒は心配そうに話し始める。
「・・・また中学の時みたいに私としか話さないんじゃだめだよ・・・」
「・・・いつもあなたが勝手に話しかけてくるんでしょ・・・私は最初からあなたと仲良くするつもりなんてないのに・・・」
それを聞くと女子生徒は何故だか笑い始めた。その光景を彼女は不気味そうに眺める。
「やっぱり飽きないねーあんたといると」
「は?」
女子生徒は彼女の机に持たれこむ。
「これから三年間、私があんたの悪いところ全部直してあげる、ダメなところを指摘してあなたを更生させる」
彼女は座り込み、ゆっくり本を開く。
「友情っていうのはその気になれば簡単に引き裂くことができるらしいの・・・私は怖いわ・・・大事な人が何でもない人になってしまうのが・・・」
すると突然、女子生徒が彼女の本を取り上げた。
「ファンタジーを現実にしたらいけないんだよ!」
彼女は思わず女子生徒の言葉に耳を傾ける。
「この本の物語はダークなことしか書いてないの?」
パラパラとページをめくりながら彼女に問いかける。
「あんたはダークなところしか読んでない、どんなお話にも明るい言葉があるはずだよ」
女子生徒は本を彼女に差し出す。
「これはこういうお話なの・・・」
彼女は読んでいた元のページを開き読書を再開した。
「・・・じゃあこうすればいいじゃん」
すると女子生徒はいきなり彼女の机に置いてあったシャーペンを手に取り、彼女の開いているページに何かを書き出した。
「ちょっと!」
彼女は抵抗して本を閉じようとするが、女子生徒が力強く本を抑えていて閉じることができない。
「これでオッケー」
彼女は何かを書かれてしまったページに目を向ける。
「・・・何これ」
ページの一部に斜線が引かれていた。
「何してるのよ・・・」
「この部分は物語の内容を左右するきっかけの場所になってたから削除致しました!」
女子生徒は再びシャーペンで本をなぞる。
「ここをうまく書き換えたらこの物語はきっと明るい終わり方になると思うよ」
女子生徒が本から手を離すと彼女は勢いよく本を閉じた。
「物語は変えられるのよ」
女子生徒はそう言い、ゆっくりシャーペンを机に置く。
「ねぇ、一緒に書いてみようよ!」
突然の叫び声に彼女は驚き肩をひそめる。
「一緒に小説書いてみない?」
「・・・小説?」
彼女は閉じていた本をゆっくり開く。
「この本のオチを変えてみない?」
彼女はしばらく本を眺めた後、机の中からルーズリーフを取り出し女子生徒に差し出した。
「じゃあこの紙に書いて・・・メモでいいから・・・とにかく案をたくさん書いてくれる?」
すると女子生徒は漫勉の笑みを浮かべた。
「やっぱりあんた、こういうの好きなんだねー!」
「・・・もう休み時間が終わるわよ・・・早く自分の教室に戻りなさい」
校内に休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響き女子生徒は慌て始めた。
「あ、えっと・・・じゃあまたね!」
女子生徒は彼女に手を振りながら教室を後にした。
「・・・飽きさせちゃ・・・だめなのね」
彼女は本を閉じ机に突っ伏した。