風花アフター 1
激動の体育祭から三日経った。
あの後、何故か阿久野君を連れ出した少年と同じ服装をした曽根崎が男物の衣服を持ってきてくれたので、それに着替えて風花ちゃんと一緒に倉庫を脱出。当然のように現れた爺やさんに車で拾われ、そのまま学校へと帰還した。
俺が学校から倉庫へ向けて飛び立って、一時間半程度での出戻りである。内訳の半分以上が帰りに要した時間と考えると、やっぱり直線距離でぶち抜ける空路って凄いな。翼をください。
「文野さんっ!」
「わっ……! ユメちゃん?」
そして、会長に用事があるらしい曽根崎と別れ、何事もなかったかの様に続いている体育祭をBGMに風花ちゃんと一緒に向かった機械工学部の部室。
その扉を開くと同時、俺達の帰りを今か今かと待っていた無花果さんが飛び出してきて、風花ちゃんを抱き竦めた。
「ふむ。仲良き事は美しき事だな」
「びぇぇえええんっ! お"っ、おがえ"り"ぃぃぃっ!」
「なんでアンタが泣いてんのよ……」
そんな無花果さんに付き合っていたのか、雨コンビと築山が室内で三者三葉の反応をしている。
何か雰囲気が緩いのだが、ドローンで俺達の無事を確認していたのなら理解も出来る。お通夜みたいにならなくて良かった良かった。
「ただいま、ユメちゃん」
「おかえりなさい、文野さん」
片や安堵感からか思わず漏れた様に、片や罪悪感を払拭するかの様にぎこちなく、お互いに笑う少女達。
やっぱ良いコンビだよな、この二人。そう穏やかな気持ちで彼女達を眺めていたら、時雨さんの矛先が突然俺に向けられる。
「ぜっ、ぜんばいもっ! 色々と立派でじだァッ!」
心意気がかな?
主語はちゃんと話そうね、時雨さん。
「……男って凄いのね」
なんとなく視線を村雨さんに向けると頬を紅くして目を逸らされた。
やっぱ主語要らねえわ。そら一部始終見られているよな! 分かっていたけどね! 年頃の子には刺激が強かったかな!?
「くっくっくっ。安心するが良い、海鷹少尉」
そう言うなら、何も安心出来ない笑みを浮かべるな。
「ドローンで撮った物は我らが大切に保管しておくのでな。金銭的価値がつかない限り手放さん」
それはフラグなんだが。これ、明日か明後日にはもう売られている奴では? こいつらの活動、金がそこそこ掛かるから金積まれたら速攻で売却するんだよな。
やっぱ、機械工学部の連中はろくでもねえわ。今後、何があっても二度と頼らん。
そんなこんなで、身一つで空を飛び、決闘紛いの事をしたとは言え、イベントが終わってしまえば俺の日常はあっさりと平穏を取り戻した。
それでも、全てが全て元通りになった訳ではない。
巻き込まれた無花果さんはスタンガンで気絶させられたので、大事をとって病院で検査をして自宅療養になっていたし、当事者の一人であった阿久野君は体育祭の翌日には学園を中退していた。表向きの理由は家業を継ぐ事に専念したいからという事だったが、はてさて一体どのような処遇を下されたのやら。
その事を曽根崎に聞きたくて何度か図書室へ足を運んだのだが、あの後輩も後輩で忙しいのか全て空振りで終わった。
そして、今回の出来事があって起きた一番の変化。
それは、言わずもがな風花ちゃんと俺の関係性で。
端的に言えば、めちゃくちゃ誘惑してくるようになった。
例えば、朝。
「おはよう、ルミお兄ちゃん」
「……おはよう」
ちょっとした違和感に横を向いて薄目を開くと、風花ちゃんの向日葵の様な笑顔が花開いた。
うん。体育祭の次の日から、当然のようにベッドに潜り込まれているんよね。
元々、朝が弱い俺の為に、一緒に登校しない日であっても扉越しに声を掛けてくれる子ではあったんだけど、それが一足飛びにこうなるとは。
流石に三日も同じ事を繰り返せば、俺も慣れて普通に挨拶を返せる様になったのだが、潜り込まれた初日は衝撃で暫く固まってしまった。
「んー、ちゅっちゅっ」
ただ、平然とキスされる事だけは未だに慣れない。確かに眠り姫を起こすのは接吻であると相場は決まっているし、実際唇を塞がれると驚いて目が覚める。
だがまあ、考えて欲しい。例え啄む様なキスであっても、相手は美少女。更に言うと俺の身体は現役バリバリの男子学生。そして、とある生理現象が起きやすい起き抜け。
ここから導き出される結論なんて、推して知るべしだろう。
「……? あはっ、今日も元気だ」
それとなく腰を引いたら、速攻でバレた。そして、逃がさないとばかりに身体を密着させてくる。
屹立する肉棒が風花ちゃんの柔らかなお腹で圧迫されて、控えめに言っても気持ちがいい。
同衾した経験がなければ俺の理性は即死していたと思う。
「苦しいのなら、アタシがしてあげますよ?」
これ見よがしに小さく口を開けて、舌先をちろちろと覗かせる風花ちゃん。
あどけないのに扇情的な雰囲気もあって、ちゃんとエッチだから困る。
「もうすぐ朝ごはんだし、時間がね」
「休みの日なら良いんですか?」
「そういう訳じゃ、くぅっ、ないんだよなあ」
「でも、んっ、ここは、素直ですよ?」
密着した状態で風花ちゃんは身体を左右に揺する。
これはまずいな。確かにこれはこれで快感はあるのだが、少なくとも我慢は出来る。けれど、もどかしい刺激である事には変わりは無い。続けられるとフラストレーション自体は溜まるんだよね。
ううむ。日に日に押しが強くなっているなあ、風花ちゃん。次に射精したら死ぬって事を伝えるべきなんだろうか。
「……いや」
ないな。荒唐無稽なのは勿論だが、そんな嘘を吐いてまで行為に及びたくないのかと思われそうだ。
風花ちゃんの聡明さなら、何か理由があるかもと考えてくれる可能性もあるが、目の前であれだけ元気に射精したから、“二度出すと死ぬ”はちょっと信憑性に欠ける。
「ぁん、凄いビクビクしてる。それにとっても硬い……」
ふにふにとしたお腹が押し付けられる度に愚息が据え膳を食えと主張する。
このままだといけないと理解しているのに、風花ちゃんを跳ね除ける事が出来ないのは男の性か。
「んふ」
極めつけはこの蠱惑的な笑顔である。
「アタシみたいなちんちくりんでも、こんなになるなんて……お兄ちゃんって変態さんだよね」
「前も……言ったけど、朝の生理現象だって……」
「そうかな? じゃあ、どんどん熱くなっているのも気のせいって事なのかな?」
「そ、そうさ。少なくとも、風花ちゃんより年上の俺が、このくらいでっ……!」
身体を離し、瞳に悪戯気な色を宿しながら俺と目を合わせる。おいおい、メスガキのスイッチが入ってやしませんか、風花さんや。まだ朝だよ?
だがしかし、俺も俺で漸く風花ちゃんの責めから解放されて、ちょっとした余裕が生まれている。
それに、前世できちんとメスガキ物は履修済み。そう簡単に翻弄される童貞じゃねえんだ。
……今にして思えば、この時点で身体を起こしておけば良かった。
「なら、続けても大丈夫ですね?」
「え? ちょっ……!」
瞬間、布団の中へ身体を沈ませる風花ちゃん。
慌てて下を向くのと服越しに彼女の両手が肉棒に添えられるのは同時。
「わぁ……。実物見たから知ってたけど、大きぃ……」
「んんっ!? 風花ちゃん!?」
そのまま上下に軽く撫でられては、思わず風花ちゃんの頭に手を乗せる。
直接は触られてないけど、さっきまでとは明らかに快感の質が違う。竿の両脇を掌で擦りつつ、指で多方向から刺激を与えてくる。
手つき自体は不慣れだから、快楽一辺倒という訳ではないのが唯一の救いくらいで、このまま止めずに学びを得られるとヤバい。
「脱がしていいですか?」
「だめだって」
「アタシに負けるからですか?」
「は?」
負けないが?
「そうですよね。あんな立派にアタシを助けてくれた人が、何もかも未経験な処女に手玉に取られる筈がないですもんね」
果たして本当に立派でしたか……?
セコい手しか使ってなかった気がするんだが。
というか、メスガキに煽られると反射的に反応しちゃうのどうにかした方がいいな。風花ちゃんのペースから抜け出せない。
「ルミ君、起きてる? 朝ごはん出来たよ?」
それとなく行為を止めさせようと四苦八苦していると、扉をノックする音と水夏の声が聞こえた。
これは間違いなく天の助け。さすが幼馴染だ。
「むぅ、時間切れですね」
頬を軽く膨らませながら、名残惜しげに俺の股間から手を退けるとそのまま布団から出ていく風花ちゃん。
そして、皺にならない様にか、予め脱いで置いていた制服を手に取ると俺の部屋で堂々と着替え出す。というか、インナーにショーツだけって、無防備過ぎるでしょ。それが狙いなんだろうけど。
「ルミお兄ちゃんも早く降りてきてね」
制服を身につけ、髪をいつもの二つ縛りにした風花ちゃんは邪気の無い笑顔を浮かべると扉を潜ってリビングへ向かう。
「今日のは本当にヤバかったな……。何か対策を考えないと」
残された俺は身体を起こし、不完全燃焼を訴える股間を見下ろしては小さく溜め息を吐く。
これは収まるまで時間が掛かりそうだわ。




