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風花フラグ 4-3


『目的地周辺です。案内を終了致します』


 自動音声も斯くやといった無機質な物が背負ったモジュールから響く。

 築山の大袈裟な物言いに、実はビビってはいたんだけど、道中は思っていたよりも快適な空の旅だった。

 おいおい。何が服が燃えるだよ。そんな素振り全くなかったわ。


 ……ところで、そろそろ降ろして貰えませんか? なんだかんだ高くて怖いんだよね。地上を歩く人に下着姿で空を飛んでいるのが見つかりたくなったから、結構な高度で飛行してたんだよな。

 別に高所恐怖症じゃないし、飛んでいる間は鳥になるってこんな感じなんだなあとか呑気に考えてたけど、こう空中で停止しちゃうと周囲を見る余裕が出来て無理だわ。

 落下したら死ぬ高さってのは本能的に恐怖感を覚える。下を見れないし、はしゃぐ余裕なんてマジでない。なんなら、ちょっと手汗かいてきた。


『試作機001、飛行モードから突入モードへ移行。海鷹サマを現地に送り届けると同時、全ての証拠を隠滅します』


「……うん?」


 淡々と。不穏すぎる単語が聞こえてきた事に首を傾げた瞬間、ぐるりと俺の姿勢が上下入れ替わる。


「は?」


『全防護システム起動。最終的に海鷹サマの身体さえ無事に届ければ支障なしと判断』


 支障しかないが?

 このAI、もう人類に反逆してねえ?


『海鷹サマは衝撃に備えていてください。ここまでご一緒出来て光栄でした』


 なんか戦場で散っていく大事な仲間みたいな雰囲気出しているんだが。

 俺と貴女(?)はまだ出会って30分も経ってませんよ? そのノリをするには年季が足りないよ?


『それでは、当座標への突撃を敢行致します。グッドラック』


 途端、ジェットパックの噴射口が比喩なしに火を噴く。本当に火炎が出ている。冗談じゃねえぞ。

 その勢いは凄まじく、その余波でジェットパック自体も炎に包まれた。おい、燃えるってそういう……!


「ぁぁぁあああおぉぉおおおぉぉあああッッッ!!!」


 そして、俺はほんの一瞬ではあるのだが、音の世界を垣間見た。

 あれだね。パラシュートなしのスカイダイビングってこんな感じなんだろうね。

 頭が理解を拒みすぎて、一周まわって冷静になるわ。

 いやまあ、現在進行形で地面に叩きつけられた反動で錐揉み大回転しているんですけど。


『舌を噛むので口を閉じた方が宜しいかと』


 こいつもこいつで燃え尽きる直前なのに変なアドバイスしてくるし、しかも手遅れなんよな。噛まなかったのは多分奇跡。こんな所で運を使いとうなかった。

 けれど、確かに衝撃自体はあったのだが、防護機能とやらのお陰か身体の色んな部位があらぬ方向へ曲がっていたりとかはなく、壁への激突で勢いが止まるとすんなりと立ち上がれた。若い身体だからか、三半規管も強かったぜ。うーん、ご都合主義。


「あち、あちちっ!」


 ただ、身体は炎から護れても衣服は対象外なのか、やはり下着は尻の部分が着火していて。

 仕方がないので、履いていたトランクスを脱ぎ捨てつつ、内部に仕込んでいた障害物競走で手に入れた下着を即座に顔面に装着する。


「あー、あー。聞こえるかい、海鷹少尉。まずは突入成功おめでとう」


 しかし、パンツの方はあくまでもフェイク。本命は顔の輪郭をなぞるようにつけたブラの方で。その耳元付近から築山の声が聞こえる。ここに小型のイヤホン仕込むとか、普通は考えないよな。色んな意味で変態です。

 後、死んでもないのに軍曹から三階級特進していた。縁起でもない。


「ふむ。返事はしなくても構わない。そちらの状況は追従させた隠密型ドローンに搭載したカメラで全て把握しているし、下手に喋ると我らの存在が感知されてしまうのでな」


 なるほどな。……なるほどな?

 という事はあれか。今も何処からか撮られてる訳か。俺の全裸が。


「勿論、ドローンもカメラも我らの才能が如実に活かされている。市販品とは性能が段違いな事を約束しよう」


 それはいいんだけど、その場に居るのはお前だけじゃないよね? 年下の女子三人にもレンズ越しに俺の愚息が見られているって事だよね?

 正直、好きでもない男のイチモツなんて、気持ち悪いだけだと思うんだけど。


「女子達もその鮮明さに釘付けなようだし、我らの技能はやはり確かだな」


 きっと風花ちゃんが心配だから、映像に齧り付いているだけなんだろうな。うんうん。そうに違いない。

 そして、その風花ちゃんはなんとも言えない表情で俺を見ていた。

 俺の登場は嬉しいけど、格好があまりにもエキセントリックで困惑しているって感じか。まあ、気持ちは分かる。


「これはこれは海鷹先輩。空からのご登場とは型破りこの上ないですね」


 とりあえず、風花ちゃんの方に向かおうとしたら、阿久野君が行く手を遮る様に立ちはだかった。


「私は変態露出狂のMだ」


「どうしてここが分かったんですか、海鷹先輩?」


「Mだ」


「頑なに認めないのはなんでですか……」


 いやだって、知らん人に名前バレしたくないし。

 なんかチャラそうというか浮ついた雰囲気の人が何人も居るし、風花ちゃんの近くではデブが血を流しながら倒れてるし。……つーか、死んでないよな、あれ?


「その人は大丈夫なのか?」


 だから、聞いてみた。誰も慌ててないし、何故か女性服や下着が身体の上に乗っているから、案外余裕そうに見えるけど、念の為にね。

 優先順位は風花ちゃんのが高いけど、人命を蔑ろにして良い訳じゃない。


「兄の心配なら無用ですよ。重要な血管は外してますので」


「海鷹少尉、そいつが持っている銃は玩具じゃない。気をつけたまえ」


 どうやって? 実銃を見るのも初めてなんだけど?

 接近戦ならナイフの方が早い。とか言えば良いのかな。

 どこのサバイバルホラーゲームだよ。


「おや。海鷹先輩もこれが気になりますか? やっぱり、先輩も男ですねえ」


 阿久野君の持つ拳銃に視線を向けたからか、彼が愉快そうな表情を浮かべる。

 見たいって言ったら渡してくれたりしないかな? しないよね。


「良いか、海鷹少尉。君がやるのは時間稼ぎだ。警察には既に連絡してある。彼らの倉庫への到着が我らの勝利条件だ」


 お。なんだ。無策だと思っていたけど、ちゃんと考えたんだな。

 良かった良かった。しかも、そこまで難しくなさそうなのも助かる。


「ちなみに、彼らの出動を促す為に今の君の姿を画像として送っておいた」


 ……なんて?


「つまり、警察の標的は露出狂である君だ。これも文野風花を助けるため。心置き無く犠牲になるが良い」


 俺の人権も尊重して欲しい。

 風花ちゃんが弁明してくれるだろうけど、実際にモロ出ししちゃってるからなあ。

 まあ、そこら辺は実際に警察がやって来た時に考えるか。


「それで? 先輩は何しに来たんですか?」


「……混ぜて貰いに?」


「えっ!?」


 驚愕の声は風花ちゃんから。

 そりゃそうなるよな。助けに来たと思っていた俺が、正反対の事を言ったんだから。

 ただ、考えて欲しい。こちとら無手だぞ。馬鹿正直に突っ込んでも返り討ち不可避だろ。しかも、阿久野君は拳銃まで持ってるし。腕前がどんな物か分からないけど、こういうのは下手に刺激しないのが得策だろう。


「へぇ? その為に態々(わざわざ)空から?」


「間に合わせる為に必死だったんだ」


「この場所が分かったのは?」


「阿久野君なら分かるんじゃないか?」


「……まさか、内通者」


 正直に言う必要性もないから、それっぽく肩を竦めたら、なんか盛大に勘違いしていらっしゃいますが。

 阿久野君が疑心に満ちた目で男達に顔を向ける。全員が全員、必死に首を横に振っているのが少し滑稽だった。


「まあ、今はそんなのどうでもいいだろ。俺も風花ちゃんとイケナイ事をさせてくれ」


「いえ、駄目ですね。先輩は信用出来ません」


 一歩、阿久野君の方へ踏み出すと拳銃を突きつけられた。

 そ、そいつは脅しの道具じゃねえってんだ……。


「……お、俺のどこが信用出来ないって言うんだ?」


 思わずキョドりかけたから、まるで小物みたいな聞き方になった。


「そうやって爪を隠す所ですよ」


「…………」


 どうしよう。身に覚えがない。しかも、今は裸だから本当に何も隠していない。


「風花もそうですが、先輩は多数の人から一目置かれている。警戒するに値する人物かと」


「過大評価なんだよな」


「逆に聞きますけど、先輩は期待も出来ない人に空を飛べる道具を渡しますか? この場所にたった一人で送り出しますか?」


「それは……」


 阿久野君の言い分にも一理あると思ったけど、俺以外の面子は女子かフィジカルクソザコナメクジな築山だったわ。

 こうなったのは必然じゃね? 誰だってそうするでしょ。


「僕には圧倒的な資金力と相応の権力がある。だから、僕の周囲には人が集まるんです。分かりますよね?」


「おう」


「でも、こちらで調べた所によると先輩は顔が平凡だし、資産も権力もルックスも大して持ち合わせていない」


「おい」


 なんで容姿に二回言及した?

 そら君に比べると目付きが悪いだけで普通ですけど。……普通だよね?

 ゴホン。いいじゃないか、人並みで。こういうのが好きな人も居るんだぞ!


「だと言うのに、貴方の周りはいつも賑やかだ。それが僕にとっては、不思議で不可思議で──妬ましい」


 阿久野君の指に力が籠るのが見える。

 え? 撃たれちゃう展開? それは聞いてないぞ。どうしようどうしよう。


「だから、僕と勝負しましょうか、先輩」


「ほぇ?」


 胸中でめちゃくちゃ焦っていると、あっさりと銃を下ろした阿久野君が小さく笑った。

次回、決着(なお、間に合うか微妙なライン)

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