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風花フラグ 4-1


「残念なお知らせですが、文野風花さんの体調が良くないとの事で早退したそうです」


「朝から張り切って自チームを応援していましたからね。少し頑張りすぎたのでしょう」


 昼休みが終わって午後の競技が始まる前にそんな放送がかかる。

 隼に視線を向けると彼は自分のスマホを高速でタップしていた。


「ふむ。今し方オレの方にも情報が回ってきたな。保健室で様子を見るという選択肢も取らず、阿久野健次の付き添いで帰ったらしい」


「無花果さんじゃなくて?」


「ああ。学園の外で車に乗るところまでは確認出来ているな」


 阿久野君もクラス委員だし、障害物競走で一緒になった彼が気配りの出来る優秀な子ってのも分かる。

 だから、阿久野君の付き添いで帰ったという事実に一応納得は出来る。納得は出来るのだが、風花ちゃんが無花果さんを優先しない事に違和感を覚えた。

 それに、あの時は深く聞いてなかったから自信はないのだが、二人は彼に忌避感を持っていなかったか? ううむ。妙な胸騒ぎがするんだよな。


「気を取り直しまして、午後からの競技も頑張っていきましょう。借り物競争に出場する選手は準備をお願いします」


「ルミ君、出番だよ」


「そうだな……」


「気になるならこちらで調べておくが?」


 ここは隼の有り難い申し出に甘えておくか。

 新聞部の皆には申し訳ないけど、存分に扱き使われてくれたまえ。


「宜しくな、海鷹。午後の先陣、華やかに切ってやろうぜ!」


 風花ちゃんの事を気にかけつつ入場ゲートまで歩いていくと、先に向かっていたクラスメイトが居た。


「リンク君……」


「前々から思ってたんだけど、それって俺の名前なのか?」


「……違った?」


「カスリもしてねえけど。あれ? 海鷹って俺の名前ちゃんと分かってるよな?」


「それは勿論」


 分かってないです。


「なら良かった」


 安心したように笑うリンク君。

 後で隼か聖辺りに聞いておこう。ただ、リンクというのがマッチしすぎて、教えて貰った名前を覚えられるかは知らないけど。


「よし。一番手は俺で良いよな?  海鷹は簡単なお題が引けるように祈っててくれ」


「ああ、分かった」


 借り物競争は、スタートして直後にあるテーブルの上に伏せて置かれたカードを引き、そこに書かれたお題通りの物を持ってきて、後はゴールまで走る競技である。


「つまり、どれほど簡単な借り物が出るかに左右される、ほぼ完全な運頼み競争という事ですね」


「一応、発想力と借りた物を持って走る為の体力は必要ですが、選手達もそれは百も承知でしょう。だからこその波乱万丈。身体能力の差だけでは勝敗は分からない。そんな名勝負を期待しましょう!」


「第一走者の準備が整ったようです。では、午後からの体育祭も張り切って参りましょう!」


 俺の見ている前でリンク君含む走者が構えて、スタートの合図と共に走り出す。

 そして、お題が書かれたカードを引いて一喜一憂した後、三々五々に散っていく。

 早い人は近場の生徒から何かを借り受けているが、何人かはグラウンドを全力で横切って遠い保護者席や放送席に向かったりしているし、物ではなく人そのものを借りてきたりする走者も居て、それらの影響か観客達からの笑いも絶えない。


 確かに、今までの単純に競い合う種目に比べてエンタメ性に優れるし、運が絡む都合、勝ち負けにも然程拘らなくて良い為、こぞって各クラスのお笑い担当お披露目みたいな感じになっていて、傍から見ていてもかなり賑やかである。

 俺の胸中が穏やかであれば、俺も笑って楽しんだ事だろう。

 そんなこんなで全員がゴールし、二番手に走る俺の出番が回ってくる。


「位置について、よーい……」


 空砲と同時に飛び出すのは障害物競走の時と同じ。

 他の競争相手と同じ様に机へ辿り着くと、伏せられたカードを一枚手に取って、その内容に目を通した。


『文野風花のクラスへ行け』


「……っ!?」


 そこに書かれていた文言に瞠目する。

 何だこれは。明らかに分かる事は、このカードが借り物を示す物ではないという事だ。

 咄嗟に他の生徒達の顔色を伺うも、彼らの反応は先程の第一走者と同じ感じだった。つまり、これは俺だけに向けられた物。


「……やってくれる」


 一体、どうやって俺が取る場所を把握していたのか、そう言った疑問は置いておく。隼のやる事に突っ込んでいたらキリがないしな。

 それに、少なくともアイツは俺の頼みを聞いてくれた。その結果が今この手にある。

 ならば、俺のやる事は簡潔明瞭。幸いな事に今は借り物競争中。多少の離席は目を瞑って貰えるし、最終的には棄権扱いだろうが、そこは隼が上手くやってくれるだろう。


「うわぁ、マジかよ! 校舎まで行かなきゃじゃん!」


「おぉっと!? 海鷹選手、膝から崩れ落ちたぁ!」


「それ程までに難易度が高い借り物だったんでしょうか。障害物競走の様な快進撃を期待したい所ですが」


 よし。ここまでやればグラウンドから居なくなった事への違和感は持たれまい。

 さて、お題をこなすとしますかね。



「お、着いた着いた」


 そうしてやってきた風花ちゃんの教室。

 開け放たれた扉を不用心だなと思いながら潜り、教壇まで歩くついでに辺りを見渡す。

 すると机の影で俯せに倒れている女の子の姿が見えた。ここからは上半身しか見えないが、間違いなく無花果さんである。


「おいおい。事件の香りしかしねえんだけど」


 その光景に驚いたものの、ここを俺に教えた隼含む新聞部がこの状態のまま放置したとなれば、命に別状はないと思う。

 危機的状況なら、それこそ教師に伝えるだろうしな。

 まあ、何はともあれ、ここまで来てしまったからには、彼女を起こして事情を聞かねばなるまい。


「何か重大なイベントが進んでいる気しかしないな」


 この予感が主人公としての虫の報せであるならば、俺はこれに抗うべきじゃなかろうか。だって、なんだか取り返しつかなくなりそうじゃん。

 いやいや、風花ちゃんは良識ある子だし、そんな無理矢理とかは……いやでも、積極性はあるしなあ。同衾を経験して以来、一緒に登校する日は部屋に入ってまで起こしに来るようになったし。そろそろ、布団の中に入られてもおかしくない。

 目が覚めたら美少女が隣に居る生活。……うん、悪くはないな。そのまま襲われなければ。


「……ッ!?」


 なんて事を考えながら無花果さんに接近していたからか、そのあられも無い姿に気づくのに遅れてしまった。

 彼女は体操服を着用していたのだが、なんとそれは上だけ。下半身には何も身に着けておらず、可愛いお尻が丸出しであった。


「……ごくっ」


 思わず生唾を飲み込み、無花果さんの傍で膝をつく。

 いやね? 分かっているよ? すぐ近くに無花果さんのと思われるハーフパンツがあるから、それを履かせて起こすべきだって。

 それはもう存分に把握してますとも。けれど、一応ね? 一応、確認しとかなきゃダメじゃないですか。

 え? 何をって? そんなもん暴行されたかどうかをですよ。見た目は傷一つなくても、証拠隠滅の為に綺麗にされた後かもしれないじゃん!


「そう。これはあくまでも人助け。医療行為? の一環に過ぎない」


 よし、正論での理論武装も出来たな!

 最早、我が進軍を止める者なし! 武士(もののふ)よ! いざ、進めェッ!


「失礼します!」


 無花果さんの足元に移動すると、彼女の両足首を掴んで軽く広げる。しっかりと意識が落ちてるのか、結構しっかりめに触っても無花果さんは何の反応も示さなかった。

 ヤバいな。無抵抗な女の子にあれこれするのって、そこまで性癖でもなかったんだけど、今なら気持ちが分かる。俺の隠された嗜虐心がこの瞬間、発芽したかもしれない。


「それはさておき」


 次はメインディッシュのお時間です。どんな感じなんだろう。動画や漫画でしか見たことないけど、きっとこう淫靡で淫らで素晴らしい物には違いない。

 そんなワクワクと興奮で胸と股間を膨らませ、未だ知らぬ神秘に手を伸ばし、そっと親指で秘裂に沿って撫であげる。


「……?」


 ……あれ? こんなものか? なんか思ってたよりもあっさりというか、無味乾燥というか。

 無花果さんが何の反応も返してくれないのもあって、触っても虚しくなるだけだったわ。

 でもまあ、これの建前は触診ですからね。性的な気持ちを覚えては彼女に失礼でしょう。いや別にがっかりしてないが?


「一応、もっと間近で見てみるか」


 触った感じだと暴漢に中出しされた形跡は一切ないが、念には念をと無花果さんのお尻に顔を近づける。

 何度も言うが、あくまでも彼女を心配した結果の行動であって、他意はないからな? 本当だぞ?


「無花果さん、帰りが遅いから迎え、に……?」


「あ」


 しかし、そんな言い訳が通用するかどうかは実際に第三者を立ててみなきゃ立証は出来ない。

 そんな声に世界がお応えしたのか、教室に女の子が二人入ってきた。

 俺とした事が、話し声が聞こえない程度には無花果さんのデルタゾーンに夢中になっていたらしい。

 ……これは詰んだか?


「誤解です」


 ひとまず弁解願いましょう。

 顔だけは即座に離したから、下半身が裸の無花果さんの近くに勃起した男が座っているのが現状だな。

 言い逃れ不可避では? いや、まだ俺の息子が勃っているのはバレてはいまい。なら、まだセーフか?


「誤解なんです」


 相手が何も言ってこないうちに畳み掛ける。

 聞く耳を持っている間になんとかするしかない。パニックを起こされると終わる。俺の人生が。それならせめて腹上死してえわ。


「……話を聞きましょう」


「へ?」


 だから、思っていた以上に冷静に返されて、マヌケ過ぎるアホ面を晒した。


「蘭!? こんなのどう見ても現行犯でしょ!? 何を聞く必要があるって言うの!?」


 だが、もう一人の子は当然のようにヒートアップする。

 分かる。俺も状況だけ見たら君と同じ考えをするよ。


「……が……んだよ」


「なに!? 今はこの男を取り押さえるのが先よ!」


「だから! 風花ちゃんが! 居ないんだよ!」


「アンタもさっき聞いてたでしょ、文野さんは体調不良で帰ったの!」


「風花ちゃんがこの状態の無花果さんを放置するなんて有り得ないって、叶ちゃんも分かってるでしょ!」


「それはコイツが……!」


「それに、この人は風花ちゃんの“お兄ちゃん”なんだよ。そんな人が風花ちゃんの友達である無花果さんに酷い真似はしないと思うんだ」


 うぐ。心が痛い。

 無花果さんをさっさと起こしていたら、スムーズに現況を説明出来て、この二人がこんな言い争う事もなかっただろう。そう考えるととてつもない罪悪感が襲ってくる。

 いやほんと申し訳ありませんでした。


「……分かった。蘭がそこまで言うなら、無花果さんを起こして真相を確かめる。だから、そこのアンタは逃げないように」


「了解した」


 釘を刺されるが、元より無花果さんの語る事情については無罪なので大人しく従っておく。

 余罪の追求をされると有罪は免れないが、多分誰にもバレてないから平気だと思う。多分。


「それと、無花果さんに下を履かせるまであっち向いてて」


「はい」


 丁度いいから、俺も自分自身をなんとか鎮めないとね。ここからは真面目な話になるだろうから。

これが主人公のやることか

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