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風花フラグ 3-5(otherview)


「付き合ってくれてありがとう、ユメちゃん」


「別に平気ッスよ」


 昼休憩も半ば過ぎ去った時間。アタシとユメちゃんは若干の急ぎ足で自分たちのクラスに向かっていた。

 阿久野君が負担になりすぎない程度にと配慮してくれたお陰で、午後からは他の人が応援係の主軸を担ってくれる為、晴れて自由の身となったんだよね。

 そもそもの話、二年や三年の人を差し置いてアタシが中心に居た事がおかしいのだけれど、今更言っても意味はないし、周囲から不平不満も出てなかったから、アタシも気にしない事にした。


「午後からはどうするんスか?」


「んー。朝からずっと動きっ放しだったし、ゆっくり落ち着ける場所で観戦したいかなあ」


 交代してくれる人は昼食を済ましてからやってきた為、引き継ぎ自体は簡単に終わっても気づいたらこんな時間。

 だから、アタシもアタシと一緒に居てくれたユメちゃんもお昼ごはんはまだだった。そのついでだからと太陽照りつける外ではなく、人気のない静かな教室で済ましてから更衣室でチア服から体操服に着替えようと思っていて。


「文野さんはお弁当でしたっけ」


「そうなの! 心春さんがわざわざ作ってくれたんだぁ」


「ふむ。そこまで喜色満面となると、さぞや美味しいんでしょう」


「じゃあ、幾つかおかずを交換しようよ。アタシ、やってみたかったんだよね」


「……まあ、自分の拙作で良いのなら。お口に合うかは保証しかねますけど」


 アタシの提案にユメちゃんの口がモゴモゴと動く。なんだかんだ一緒に居る時間も増えてきたからか、彼女が照れているのが分かった。

 それに穏やかな気持ちを抱きつつ、自分の所属するクラスに辿り着くと扉を開ける。


「やあ。待っていたよ」


 教室の中心に阿久野君が立っていた。


「……どうしてここに?」


「おや、どうかしたのかい? 僕もこのクラスの一員だ。居ても不思議じゃないだろう?」


「なんで私服なんスか?」


「障害物競走で盛大に水を被ったからね、体操服は干しているんだよ。けれど、乾くまで裸で居る訳にもいかないから緊急措置さ。……そんな事より教室に用があるんだろ? 入ってきたらどうだい?」


 それらしく語っているか、男女別となった為に彼が出場した障害物競走があったのは最初の方だ。

 他でもないルミお兄ちゃんを一生懸命応援したから覚えている。

 確かに着替えた名目としては納得のいく理由だが、では今まで何をしていたのかと疑問が残る。


「……文野さん」


「うん」


 その白々しさに脳内が警鐘を鳴らす。それとなくユメちゃんと視線を合わせて頷き合う。

 これ以上、ここに居てはいけないと本能が訴えていた。


「その危機管理能力は驚嘆に値するけど、事ここに至ってしまえば無意味だよ」


「……っ!?」


「え、なに!? なんスか、コイツら!」


 けれど、遅かった。

 突然、隣のクラスの扉が開くとそこから数人の男が現れる。アタシ達はそれに逃げ道を塞ぐように追いやられてしまい、教室の中に入らざるを得なかった。

 その際に視線を巡らせて軽く人相を見て回ったけど、誰一人として見覚えがない。


「この人達、学園の生徒じゃないよね?」


「さすがに気づくか。お察しの通り、外部の人間だよ。そして、僕の提案に乗った協力者達でもある」


「協力者……?」


「端的に言えば君のファンだよ、文野さん」


「なっ……! 警備の人らは何してるんスか!」


「今日は楽しい体育祭だからね。関係者と言い張れば簡単に侵入出来るのさ」


 ざ、ザル警備……。

 大らかな校風が裏目に出てるよ。


「隣の教室を間借りしてたみたいだけど、誰かが戻ってきてたらどうしてたの?」


「そりゃあ、巻き込むさ。こんな風にね?」


「ちょ、何するんスか! 離し……離して!」


 アタシの疑問に彼は愉しそうに笑うと顎でユメちゃんを指す。

 すると待機していた男が二人がかりで彼女を抑えた。


「おっと、無駄な抵抗はしない方がいい。それとも、少しばかり痛い目に遭った方が素直になるのかな?」


「やめて! ユメちゃんに乱暴しないで!」


「それなら、賢い文野さんはどうしたらいいのか分かるよね?」


「……何が望みなの?」


「ここではなんとも。場所を変えようか」


 薄々気づいてはいたけど、やっぱり目的はアタシなんだ。

 正直、怖い。阿久野君の言う通りに場所を移したら、助けが来るのも期待出来ないし、何をされるのかも分かった物じゃない。


「ダメです! 文野さんだけでも逃げ──がはっ!?」


 それが理解出来ているからか、ユメちゃんが果敢に声をあげるも、そんな彼女のお腹に阿久野君の爪先が容赦なく突き刺さった。


「ユメちゃん!」


「うるさいよ、無花果さん」


「そ、そうやって、ごほっ……暴力をっ、振りかざしても、自分は折れないッスよ……っ!」


 突然振るわれた暴行。体格で劣り、抵抗も出来ない状態のユメちゃんが恐怖に支配されても不思議ではない。

 それでも、怒りでそれらを押し殺したのか、痛々しくも気丈に振る舞う彼女は揺れる前髪の奥から阿久野君を睨みつける。


「それはそれは立派な心意気で。果たしていつまで耐えられるか見物だよ。おい、やれ」


 だが、それすらも何処吹く風と。彼は周囲の男に指示を出す。


「良いんですかい、大将?」


「その女とは反りが合わなくてね。一度、徹底的に壊してみたかったんだ」


 まるで新しい玩具を手にした子供のように、どこまでも無邪気な表情が逆に(おぞ)ましい。


「は? ちょ、何を……」


 その危うさにユメちゃんがたじろいだ瞬間、彼女の着ている体操服の下──ハーフパンツが下着ごと下ろされた。


「え……? い、いやあぁぁぁぁっ!」


「ははっ! 君も女の子らしい声を出せるんだね! もっと聞かせてくれよ! その悲鳴で誰か来てくれるかもだからさァ!」


「いやぁ! きゃあぁぁっ! や、やめ……っ、やめてぇっ!」


「今でこうなら、実際に犯された時はどうなるんだろうね?」


「ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ゆ、許し、許してぇッ!」


「あはははは! 何を言っているんだい。愉しい時間はこれからだろう? 僕達をもっと満足させてみなよ!」


「──もうやめて!」


 見ていられなくて叫ぶ。

 羞恥と混乱のせいで取り乱し暴れていたユメちゃんと対照的に表情を消した阿久野君、周囲の男たちから視線が集まるのを感じる。


「これ以上、ユメちゃんに酷い事をするならアタシは貴方達の言うことを絶対に聞かない」


 その中から阿久野君だけを見据えて、アタシは言う。


「おかしな事を言うね。現状、文野さんが何かを要求出来る立場じゃないと思うんだけど」


「逆に、もうユメちゃんに何もしないと誓うなら、アタシから色々な人に口添えしてあげる。体調不良で早退するからクラス委員に付き添って貰うと」


「おっと、良いのかい? 君と僕が居なくなっても不自然じゃない状態が何を示すのか、文野さんなら分かりきっていると思うんだけど」


 そんなの言われなくても存分に認識している。けれど、そんな事よりもアタシにはとても大事な譲れない物がある。

 だから、悄然としているユメちゃんに近づくと、彼女の目元から零れ落ちていた涙を指で拭った。


「ごめんね、ユメちゃん。アタシの事情に巻き込んで」


「文野さん……自分は……」


「うん。でも、嬉しかったよ。怖いのを我慢して啖呵を切ってくれて。だから、ね? これはアタシの紛れもない本心」


 拘束されている彼女を抱き締める事は難しいので、そっと身を寄せる。


「友達になってくれて、ありがとう」


「……っ!」


「無事に戻れたらユメちゃんの素顔をちゃんと見せてね?」


「……きっと、お見苦しいッスよ?」


「んー、アタシは可愛いと信じてるけどなあ」


 意識的に笑顔を浮かべるとユメちゃんも仄かに口角をあげた。

 良かった。今日の事は彼女の心の傷になりかねないだろうけど、今のやり取りで少しでも和らいでくれたらいいな。


「うんうん。素晴らしい友情だ。お涙頂戴と言えるね。さて、文野さん。こちらも段取りというのがあってね。もう良いかな?」


 パンパンと。柏手を打つ阿久野君に水を差され、ユメちゃんから身を離す。


「……大丈夫だよ」


「そうかいそうかい。では、ここでお別れだ、無花果さん。文野さんの優しさに免じて、大人しく眠るがいい」


「づぅっ……!」


 無骨な輝きがユメちゃんの首に押し付けられた瞬間、彼女の身体がビクッと跳ねて弛緩したように頭が垂れる。

 今のはスタンガン……!?


「ユメちゃん!? 阿久野君! 約束が違う!」


「勘違いしないで欲しいな。こうでもしないとコイツはずっと噛み付いてくるだろう? なに。約束通りこれ以上、誰からも手は出さないさ」


 そこで阿久野君は床に寝かされたユメちゃんを見下ろすと厭らしい笑みを象る。


「もっとも、最初に見つけた人が善意や良識のある人物とは限らないけどね?」


「っ! 貴方は、どこまで……!」


「問答の続きなら移動してからいくらでも聞く。こっちは要求を呑んだんだ。文野さんも僕に従って貰うよ」


 本音を言えばユメちゃんの着衣を直してあげたい。けれど、阿久野君の雰囲気が有無を言わせない。

 そもそも、未だ優位性は圧倒的に彼側にある。更なる駄々をこねた事で、勝ち取ったユメちゃんの無事を失うような事態はあってはならない。


「……分かった」


 そうして言いたいことを呑み込んだアタシは、彼らと連れ立って学園から離れた。

ここだけの話、プロット段階ではヒロイン一人につき15話使ってプロローグ含めても140話くらいで終えるつもりでした(初期はヒロインも八人)

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