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風花フラグ 3-3

お待たせしました


「もう! ルミお兄ちゃんってばデレデレしすぎだよっ!」


「まあまあ。先輩も男ですから。……やっぱ包容力ある方が好きなんスか?」


「ええと……」


 ぷりぷりと可愛らしく怒る風花ちゃんとそれを宥めつつも切り込む所は遠慮しない無花果さん。

 柔軟を終えて晴れて自由の身になった俺は、さてこれから何をしようかと思った矢先、この二人に早々に捕まった。一難去ってまた一難とはこの事だろうね。

 ちなみに、エレちゃん先生は俺の説得──監督の役割をいつまでも一人に押し付けるのは責任ある教師としてどうかと思う的発言──の甲斐あって名残惜しそうにしながらもグラウンドの見回りに向かった。

 ふぅ……。危なかったぜ。教師の癖に無防備が過ぎるんだよな。外国人特有のフランクさは思春期真っ盛りな学生には刺激が強すぎる。


「二人は何かやる事はないの?」


「露骨に話題を逸らしましたね……」


「まだ話は終わってないよっ!」


「風花ちゃんのメスガキの方が好きだよ」


「ええー、そんなぁ……んふふ、えっへへ」


「ちょろい。ちょろすぎますよ、文野さん……」


 あっさりと矛を収めた風花ちゃんに再度同じ質問をすると彼女はしょんぼりと眉根を下げた。


「アタシは衣装が出来上がるまで暇なんです。かと言って、他の現場を手伝おうとしても逆に皆の集中力を削いじゃうみたいで」


 さもありなん。

 風花ちゃんの前で良いとこ見せようとして本気になり過ぎた結果、身体壊したら元も子もないからね。あくまでも今の時間は本番に備えた練習だから。


「無花果さんも?」


「自分は文野さんの暇潰し相手なだけッス。まあ、出る競技も無難な物だから態々(わざわざ)練習する必要もないですし」


「なるほど?」


「それに、谷町先輩も言ってたじゃないですか」


「何を?」


「身体能力なんて一朝一夕ではどうにもならないって。自分、勝てない試合の為に努力はしたくないんスよ」


 うーん。言いたいことは分からないでもない。確かに無花果さんはこう……なんというか、お世辞にも運動が出来る様には見えない。

 体操服から伸びる手足も病的に白いし、そもそも視界の確保も出来てるか謎だし、完全なインドア派という印象を受ける。


「ちなみに100メートル走のタイムは?」


「22秒ッスね」


 小学生かな?

 そら努力も諦めるか。好きな事じゃないならモチベーションの維持も難しいだろうし。


「風花ちゃんは?」


「前に運動系のテレビ番組で計った時は17秒くらいだったよー」


 良かった。普通だ。


「そう言う先輩は?」


「15秒後半」


「男子で見るなら遅いよりでは?」


「俺は瞬発力より持久力にパラメーターを振ってるんだよ」


 なお、両者の差異は五十歩百歩とする。

 前世は足が速ければモテると信じて頑張ろうとはしたんだけどな。フラれて失意の渦に沈んでいる間に鍛えることを辞めちゃったんよね。

 その際、告白した相手に言われた「走っている時の顔が怖すぎて無理」は運動する度にフラッシュバックしてきて、暫くトラウマになった。

 あの頃はまだ学生だったけど、ほんと若い年代の子は容易く心を抉ってくれるぜ……!


「それはどうして?」


「何かやる度に『鬼桐原』から逃げ続けてたから……」


 でも、この世界には俺よりも恐ろしい存在が居る。放任主義が多い教師陣と違って、何かやらかす度にフラリと現れては地の果てまで追いかけてくる聖まあち学園最強のター〇ネーター。

 一度ターゲットと認定されてしまえば、どんな企画物よりも臨場感溢れる追いかけっこが経験出来る事、間違いなしである。


「さすが、まあちゃんねるに要注意人物筆頭として挙げられる方ッスね」


 なにそれ。聞いてないんだけど。

 あの掲示板、俺ももっと見るべきなんだろうか。というか、この学園では名指しされるくらい有名なの、俺って。風評被害だろ。


「ちなみになんですけど、桐原先輩から逃げ切れる物なんですか?」


 純粋に気になったのか、風花ちゃんが首を傾げる。


「時と場合によりけりだな。基本的には逃げられないし、仮にその場は上手く逃げ果せたとしても実行犯としてバレてたら後日呼び出しされる」


 割合としては現行犯逮捕が七で、執行猶予が付くも後に実刑判決が三みたいなとこだ。ええ。完全犯罪なんてした事がありませんとも。

 ぶっちゃけ、運動能力は全て先輩のが高いからな。上記の事もあって万年運動不足の帰宅部員だし、俺。

 そもそも、体力があるなら水夏に振り回されて死にかけないよ。ええい、聖まあち学園の体育会系は化け物か!


「それなら最初から謝った方が良いのでは……」


「何に対して?」


「えっ?」


 その返しは予想だにしてなかったのか、無花果さんが素で驚いた声を出した。


「謝るというのはこちらに非がある事を認めて、相手に詫びるという意味合いなんだよな」


「……自分をバカにしてるんスか?」


 俺のあんまりにもあんまりな言葉に無花果さんの声のトーンが低くなり、露骨にムッとした雰囲気が伝わってくる。

 髪で目が遮られてても結構分かるもんだな。というか、意外と素直に感情表現するんだね。もっと無気力無関心系女子かと思ってたわ。


「気を悪くしたのなら、それこそ謝るよ」


「つまり、ルミお兄ちゃんは風紀委員に追われる様な事を起こしながらも、それを悪いと思ってないって事ですよね?」


 さすが風花ちゃん。理解が早い。

 この世界の海鷹夜景は中々にお調子者らしくて……いや、元々か。現実の俺を同期した時点で、それが基盤になっているだろうし。

 まあ、何が言いたいのかというと、面白い事や楽しい事が大好きなんだわ、俺。前世でも散々落ち着きがないと指摘されたけど、お祭りがあれば率先してはしゃぎたいタイプなんよ。

 そして、その能力が存分に発揮されたのが、この学園に入学した去年、らしい。伝聞系なのは俺の記憶の欠落が目立ちすぎて、自信があまりないからだけど、なんか色々とやっていたっぽいなってのは朧気ながらも分かる。

 それによると結構な人数を俺のエゴに巻き込んでいるみたいだけど、転生前の俺も現在の俺と同じ信念に基づいて行動しているみたいだし、反省や後悔は微塵もありはしない。


「え、なんスかそれ。傍若無人にも程がありますよ」


「無花果さんは手厳しいな」


「いや、まあ……自分が被害受けた訳じゃないから、とやかく言うつもりはないッスけど」


 ドライでもあったわ。

 対岸の火事には興味を抱かないタイプなのね。


「無花果さんも何かあれば相談してくれて良いんだよ?」


「や、自分は風紀委員に目をつけられたくは無いんで」


 賢明である。

 君子危うきに近寄らずじゃん。

 その誰にも流されない高潔な姿勢、見習いたいね。


「弟子とか募集してない?」


「してませんけど?」


「俺に出来る事があるなら手伝うよ?」


「え、なんスか急に。怖いんですけど……」


 なんとかお近付きになろうとしたけど、普通に不気味がられた。

 悲しいね。こっちは後ろめたい事なんて何もないのに。


「ルミお兄ちゃんは」


「うん?」


 猫にそっぽ向かれた様な気分を味わっていると風花ちゃんが俺を見上げていた。


「そうまでして何を得たかったの?」


「無花果さんじゃないが、それも隼が言ってただろ」


 俺の言葉に二人がポカンとした様子を見せる。

 おっと。本当に分かってないみたいだな、これは。……まあ、これを言うとあいつに感化されているのを認めている様で癪ではあるのだが、仕方あるまい。


「この限られた学生生活を華やかに彩って、忘れない思い出を作るためさ」


 この理念だけは、俺も限りなく賛成なのだから。

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