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幻想フラグ 0-3

読み返すとちょろちょろ誤字脱字が……。じいや、校正をしてちょうだい


「あ、ユメちゃん!」


 パッと表情を輝かせ、風花ちゃんが走っていく。

 初登校から三日目。今日も今日とて通学路で注目の的となっている彼女が駆けると、群衆の視線も釣られるようにして共に動く。

 傍から見てると面白いな、これ。


「うぇぇ!? ちょ、文野さん!? こんな目立つ所で話し掛けないで欲しいんスけど!」


「え? ダメだった……?」


 風花ちゃんの心細げな表情から放たれる上目遣いがユメと呼ばれた黒髪の少女に襲いかかる。

 凄い。容貌が容貌だから、本当に幼気(いたいけ)な子供に見える。

 まともな感性を持っているのなら、罪悪感が湧き出て来るだろう。


「うぐっ……! い、いやダメって事はない……です、けど」


 案の定、効いている。明らかに困っていた彼女だが、やがて諦めた様に肩を落とした。

 気持ちはとてもよく分かる。あんなのされたら、俺も強く出られない。

 まあ、だからこそこうやって風花ちゃんと一緒に登校する事になっているんだが。

 俺はちゃんと距離を置くつもりだったのに、風花ちゃんが一人で登校となると色々心配であると颯斗さんが言って、秀秋さんも賛同していた。

 故に、俺が水夏の朝練がある月曜と水曜。水夏が火曜と木曜に同伴。金曜と土曜は三人でという話に纏まった。というか、勝手に纏められた。何故か俺は蚊帳の外にされた。おかしいね? 張本人なんだけどね?


 保護者達からの考案とは言え、一応は俺の“週に二日は一人でのんびりしたい”という意見も取り入れられた為、それ以上の強い反対も出来ず。

 更には風花ちゃんに、せめて一日くらいダメですか? とあの顔で言われしまえば折れる以外の選択肢なんてなくて。

 いや、無理でしょ。女の子の耐性がない俺に泣き落としなんて、防御も回避も不可能だよ。

 本当に人生ってままならない。そう思いながら二人に近づくと黒髪ショートの子が俺の方へ顔を向けた。


「えーと……」


「あ、紹介するね! この人はルミお兄ちゃん。アタシの……と、特別な人っ」


「……ああ。まあちゃんねるで見たッスね」


 両目を覆う髪の向こうから無遠慮な視線を感じる。

 ……目隠れ系女子か。中二の時にちょっと憧れて俺もやったなあ。

 友人に目が悪くなるし乱視にもなるからやめとけと忠告されてすぐに止めたけど。

 ゲームの世界だと素顔は美人な事が多かったりするんだが、何か見られたくない(きず)や何かしらの理由を抱えて隠してるんだよな。

 ま、風花ちゃんの友達なら俺とそこまで深く関わる事もないだろうし、その秘密を俺が知る事はないな。ないと思う。多分。


「こっちはユメちゃん。アタシの同学年で初めての友達です」


「どうも。海鷹 夜景です。風花ちゃんがお世話になってます」


「無花果 ユメッス。いつも文野さんをお世話しています」


「ユメちゃん!?」


 おっと? 初見の相手にしては珍しい反応だ。

 風花ちゃんの驚きの声と共に無花果さんを見やると、彼女は何食わぬ顔をしていた。いや、目が隠れているからはっきりとは見えないんだけど。


「無花果さんは俺が怖くないんだな」


「怖い……? あ、その猟奇殺人犯みたいな目付きの事ッスね」


 それは言い過ぎではなかろうか。後輩にそんな印象を持たれているのかと気に病む。

 だが、この物怖じしない言い様、本当に何も感じていないみたいだ。


「まあちゃんねるで知っていたってのもあるッスけど、自分は人の見かけや経歴に興味がないんで」


 三人横並びで通学路を歩きながら、無花果さんは淡々と言う。


「俺が実際に猟奇的な存在でも?」


「や、それはさすがに距離を取りたいッスけど、文野さんの懐き方から悪い人じゃないのは分かるので」


「ユメちゃんはアタシに対しても、飾らずに真っ直ぐ付き合ってくれるんだよ」


「人によって態度変えるの面倒じゃないスか? 別に良く思われたいとか思わないですし」


 我が道を行く系女子。なるほど。そう言うのもあるのか。

 ふーん。カッコイイじゃん。流されてばかりの俺には少し憧れちゃうね。


「……まあ、それで心にも無い事を言って、他人を傷つける事が多々あるんスけど」


 いや、単に人付き合いが苦手なだけかもしれない。

 顔も隠しているし、目立つ事も嫌がってたみたいだし、細々と日々を送りたいタイプなのかな?

 ならどうして、真逆の存在である風花ちゃんの友達なんかしているんだろう。


「クソ担任に文野さんの面倒を見る様に言われたからッスよ」


 聞くとあっさりと教えて貰えた。

 クラス委員だからと押し付けられたらしい。なんだかシンパシーを感じちゃうね。


「アタシはユメちゃんが請け負ってくれて嬉しかったよ」


「あれ? クラス委員って二人居たよな? じゃあ、もう一人も風花ちゃんの面倒を?」


 うちのクラスが俺と愛園さんの二人だったし、去年も確か二人だった事を思い出す。

 異性である事は差し置いて、クラス委員ならば無花果さんと同じように頼まれていても不思議ではない。


「あー、阿久野(あくの)君は……」


「アタシがお断りしました」


 俺の素朴な疑問は間髪入れずに風花ちゃんが答える。

 取り付く島もないとはこの事か。


「来る者拒まずな風花ちゃんにしては珍しい」


「クラス委員とは言え、特定の男子と一緒に行動して噂になると困るので」


 なるほど。一理ある。

 ……ん?


「自分的には、阿久野君の文野さんを見る目が気になったッスね。あれは断っていて正解だったかと」


「だよねだよね。アタシの危機感にこうビビっと来たんだよねえ。あまり関わらない方が良いって直感が」


 んんん?


「へえ。芸能界で培った勘か何かッスか? 便利そうで羨ましいッス」


「あはっ。場数を踏んだから、単に人を見る目が肥えただけだよ」


「それでも、そうやって自己防衛に活かせるなら良いじゃないッスか。海鷹先輩もそう思いますよね?」


「んえ?」


 風花ちゃんの言葉に不可解な点があって、その違和感の正体を考えていたから、すっかり二人の話を聞き逃していた。


「ルミお兄ちゃん?」


 呆けた俺を風花ちゃんが覗き込む。

 男子と噂されるのを都合が悪いと言った割に、間近に迫るあどけない顔。正しく不適切な距離感。

 あっれ? 言動に矛盾があるんだが?


「風花ちゃん」


「? なんですか?」


 小首を傾げる風花ちゃんに追従してツインテールが揺れる。

 くそぅ。可愛いな。


「噂になると不味いんだよな?」


「そうですね。今は学園内だけだとしても、人の口に戸は立てられないですから、いずれ外にも広まるでしょう。そうなると男性ファンが多い自分としては、復帰した後に活動がしにくくなるかなって」


 真剣に語るその口調に嘘らしき部分は見受けられない。

 だからこそ、なんか自意識過剰っぽくて、口にするのも照れやらなんやらあって躊躇うのだが、俺は腹を括る。


「……俺との噂は良いの?」


「ルミお兄ちゃんが相手なら活動に支障をきたしても、認知させてみせますっ」


 トゥンク。

 やだ、カッコイイ。

 こんな真正面から好意をぶつけられて靡かない奴、おる?

 この世界の縛りがなければ、すぐにでも抱き締めて想いに応えてあげたくなる。だが、それは出来ない。まだ死にたくないから。

 故に、俺は風花ちゃんから目を逸らす。けれど、


「そ、そうか」


「……先輩、意外とシャイッスね」


「うるせえやい!」


「あ、ルミお兄ちゃん!?」


 射抜かれた胸はうるさいくらいに鼓動を刻む。

 それを誤魔化すように、俺は二人より歩く速度を上げた。


「ふーん。思っていたよりも面白い人」


 だから、後ろで呟かれた無花果さんの言葉が俺の耳に届く事はなかった。

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