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風花フラグ 1-3


「さすがに目立ってるな」


「そうだね」


 分かっていた事だが、やはり風花ちゃんはどこに居ても注目の的。

 電車に乗る時、車内をざわめきが駆け抜けたのにはちょっとビビった。

 出勤中に少しでも睡眠時間を確保する為だろうけど

、去年から見かける度に眠っているサラリーマンの人ですら刮目してたし。あの人の目を広げた姿、初めて見た。

 そうして学園の最寄り駅で降りて、通学路を進む今も生徒や通り行く人達の視線を風花ちゃんはガンガンに集めていて。


「いつも応援ありがとうございます!」


 同じ学園の制服を着ている為か、先程から風花ちゃんは幾人かに話しかけられている。

 その度に彼女は笑顔を振り撒いて、差し出された手を躊躇なく握る。相手の性別問わず、平等に。

 女の子はよく分からないが、男なら嬉しいだろうな、あの対応。俺も前世で経験あるから分かる。さすがに一生洗いません! とまではいかなかったけど、普通に感動するんよな。

 ま、まあ? 俺はさっきまで風花ちゃんに抱きつかれてたから羨ましくもなんともないけどね?


「ルミ君? 目が怖いよ?」


 Oh……shit。

 好きって言われただけで簡単に心を許し、他の男に嫉妬してしまうとか、我ながら童貞が過ぎる。

 気づけばオタサーの姫に貢いでそうだ。気を引き締めねば。


「……俺ってそんなに分かりやすい?」


「そんな事は……ないかな?」


 露骨に変な間があったんだが?

 目付きの悪さは元々だから、パッと見で睨んでいるのかどうかなんて分からない筈なのに。これが幼馴染みパワーか。侮れない。


「もしかして、遠巻きに眺めるだけで人がそれ程寄ってこないのは」


「…………どちらかと言えばそう、かな?」


 なんてこったい。

 本物の風花ちゃんを前にして、話し掛けるなんて恐れ多いと。きっとそんな感じのシャイなファン心理なんだろうなと思っていたのに。

 人が寄ってこないのは俺のせいかよ。じゃあ、風花ちゃんに話し掛けてきた数人は俺の圧を跳ね除けた訳か。現代の勇者じゃん。他意はないけど顔を覚えておこう。よくぞ我の妨害を跳ね除けたなあ!


「けど、そのお陰で時間も取られてないから。ねっ?」


 水夏のフォローが涙ぐましい。

 だが、実際その通りで。俺の想定では、もっとファンに揉みくちゃにされるか、風花ちゃんのファンサが無限に終わらないかで、学園に着くのはもっと遅くなると思っていた。

 一応、それを見越して早めに家を出たのだが、その甲斐もあって登校中の学生はさほど多くもなく。その上、俺の眼光によって道を阻まれる事もない。


「風花ちゃんの魅力を上回る眼力ってなんだよ……」


「あはは……」


 苦笑する水夏。遂にフォローの言葉を失ったらしい。本格的に泣けてくるね。


「ルミお兄ちゃん」


「すまん。風花ちゃんの邪魔をする気は──」


「ほんっっっとうに凄いですねっ!」


「はい?」


 だが、当事者の考えは違っているみたいで、風花ちゃんは目を輝かせながら困惑する俺の手を握る。

 水夏が驚いて目を見開き、周囲の人々にも衝撃が走った。


 ……ヤバいな。あまり多くないとは言え、衆人環視の中でこの行動はあまりにも目立つ。

 風花ちゃんの傍で睨みを利かしているだけならまだなんとでも言い訳がつくが……つくか? ……仮につくとして、ここまで親しげな雰囲気を風花ちゃんから出されるともうどうしようもない。


「さすがアタシのボディガードですっ」


「What?」


 何それは。


「……あれ? お兄ちゃんが秀秋さんに伝えた筈ですけど」


「俺は困ったことがあったら助けてあげてと言われただけ、だ……な」


 途中で察する。

 思い返してみると、家を出る前に見た秀秋さんは意味深にニヤニヤしていたな、と。


「……っ!」


 瞬時にその考えを理解する。

 わざとかあんにゃろ!

 敢えて伏せやがったな! 俺の反応を見るためだけに!


「ルミ君、お父さんがごめん……」


「水夏は何一つ悪くねえだろ」


 事情を理解した水夏がしょぼくれている。さすが幼馴染み。俺の反応から以心伝心したか。

 娘の父に対する好感度は確実に落ちた訳だが、それすら秀秋さんは考慮済みだろう。

 どうせ帰って来る際に、ご機嫌取り用の甘いものでも買うに違いない。ちなみに、今日の俺はエクレアの気分です。


「ダメ……ですか?」


 潤んだ瞳で上目遣いの風花ちゃん。

 ぐふぅっ……効くなあ、これ。いきなりの事で心の準備とかしてなかったし、凄く断りにくい。

 いやいや待て待て。断る以前に疑問が一つ。


「そもそも、ボディガードってなんだ」


「自分で言うのもなんですけど、アタシって結構人気があるんですよ」


 それはそう。というか、結構どころの騒ぎではないと思う。

 少なくとも、俺が居なければ風花ちゃんはファンに囲まれて、もっと登校に時間が掛かった筈である。

 ……ああ、なるほど。そういう事か。


「ルミ君と一緒に居る事で、近寄ってくる人達を牽制したいって事?」


「端的に言えばそうですね。せっかくの学園生活ですから、平穏に過ごしてみたいんです」


「俺の平穏はどこ? ここ?」


「学年が違うから四六時中は無理じゃないかな?」


「勿論、ルミお兄ちゃんにも用事があると思いますし、ずっと甘える訳にもいかないので、登下校……いや、登校時だけでも良いんです」


「うーん……そのくらいなら。ルミ君、朝弱いから風花ちゃんが一緒に行ってくれるなら安心だし」


「あれ? 俺を中心にした話なのに無視されてるよ?」


 おかしくない?

 なんか水夏も納得しかけているし、このままでは風花ちゃんと毎朝同伴で登校してしまう。

 どんなイベントが起こるか分からない現状、油断は大敵。死に繋がるフラグなんて物を立たせる訳にはいかないので、どうにかして避けたい。


「風花ちゃんと毎日一緒は俺の精神的安寧がなあ……」


 我ながらBAD COMMUNICATION。数多のエロゲーをプレイしてきた俺にとって、ヒロインの好感度下げなんて御茶の子さいさいよ。

 ふふっ。この立ち回りの上手さ、我ながら惚れ惚れしちゃうね。


「水夏先輩って毎日朝練があるんですか?」


「毎日ではないよー」


「じゃあ、週に何回かは一緒に登校出来るんですねっ!」


「えへ。そうなるね」


「…………あの」


 俺の声が小さくて二人に聞こえてないって事を除けばな!

 くぅ、陰キャここに極まれりじゃん。ゲームだと平然と選べても、現実で反感買いそうなセリフって口にしづれぇ……。根っからの日本人だから仕方ないね。


「ルミ君もそれでいいよね?」


「え、何が?」


 やっべ、何も聞いてなかった。

 そもそも、いきなり会話の中に混ぜられて聞いてるも何もないけど。


「これから宜しくお願いします、ルミお兄ちゃん」


「ん? ああ、はい」


 曖昧に頷いてから、はたと気づく。

 あれ? これ生徒会長相手にした時と同じ流れの奴では?


「いや、ちょっと待って!」


 慌てて止める。危ねぇ、学ばない男になる所だったぜ……。

 だが、不肖海鷹 夜景。同じ失敗は繰り返さないのである。


「どうかした?」


 水夏が不思議そうに首を傾げる。

 どうもこうもないよ、本当に。


「週に二回くらいは一人でのんびりしたいなー……なんて、思ったり思わなかったり……いや、一回でも全然良いんですけど、はい」


「……し、仕方ないですよね! ルミお兄ちゃんにも予定があるでしょうし!」


 露骨に意気消沈していく風花ちゃんを見て、俺の言葉尻が萎んでいく。

 しかも、気まで遣われて。前世で無駄に歳を食っていただけの俺なんかより余っ程大人じゃん……。

 でも、どれほど即時撤回したくとも、こればかりは譲れない。心を鬼にしてでも、三人登校だけは出来ない。

 遠慮がちな水夏が、積極的な風花ちゃんに引っ張られてしまって仲の深まり方が明らかに不味い。相乗効果ってやつか? 何にせよ不都合なことには変わりない。転ばぬ先の杖と言われようと俺は用心に用心を重ねて行きたいんだ。


「ごめんな……」


「いえっ。よくよく考えなくても図々しいお願いでしたし、甘えすぎるのもダメですよね。こちらこそ、話を勝手に進めてごめんなさい。まずはアタシ一人でやれるだけやってみますっ!」


 そう言ってウィンクする風花ちゃんは、どう見ても無理をしていた。

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