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R18に抵触するかどうか程度のギリギリラインを攻める小説です。削除されたらごめんなさい。宜しくお願いします


「あひゃ……あっひゃひゃひゃひゃひゃっ!」


 見渡す限りの白い空間。

 俺の哄笑が響き渡る。


「きた? きたきたきたきた? ひゃひゃっ! ひゃひゃひゃひゃひゃっ!」


 覚えている。

 身代わりで死んだ事を。

 明確に。


「やったやったやった……っ! ついに……ついについについについについにィッ!」


 転がるボールを追いかけて、公園から公道に飛び出た少年。

 耳に(つんざ)くトラックのクラクション。

 無我夢中で伸ばした腕は、少年を間一髪の所で車体が接触する前に向こう側へ弾き出して。

 代わりにトラックの前面に飛び出した俺。ひしゃげる身体から骨が砕ける音をフィナーレと聴きつつ、一瞬にして意識を失った。


 おそらく問答無用の即死。運転手と目撃者には精神的なトラウマを与えただろうし、運転手に至っては人生設計を滅茶苦茶にしたと思うが、俺の野望の前にはそれも仕方ない。大事の前の小事である。

 願わくば優秀な弁護士がついて、実刑にはならないで貰いたい。どうせこの身は天涯孤独。家族への慰謝料や賠償金などは何も必要ない。言わば、虫けらを踏み潰すのと同じこと。

 いや、虫の方が生きる事に執着している時点で、俺より何万倍も生というのを謳歌していると言えるだろう。


「えぇ……。儂、アレの望みを叶えないといかんの? ホントに?」


 ぐるり、と。声が聞こえた方へ顔を向ける。

 そこは相も変わらず白い空間が広がっているだけ。

 でも、分かる。というか、そうでないと困る。


「うわ、こっち見とるし……。こわ……」


「初めましてだなあ、神様」


「え? あれ? もしかして、儂の姿が見えておる? なんで?」


 目の前の空間が揺らぐ。

 見えてないけど感覚として視える事に『ちゃんと実体あるんだ』なんて場違いな事を考えた。


「俺は確かに死んだ。その記憶もある。なのに、目が覚めたらこんなよく分からない所に居て、しかも目の前に神が居るときたもんだ」


 実際にはまだ見えてないけど。

 なんとなく見えてる体でやった手前、今更見えてないから姿を見せて下さいとも言い難い。

 念願の異世界転生が叶いそうで、ちょっとテンション上がって変な感じになったのは反省しよう。


「むむむ」


「…………」


 唸る神様に対して悠然と微笑む。

 いや、別に余裕をかましている訳じゃない。見えないからどうしたら良いか分からなくて、笑って誤魔化しているだけだ。

 うーん。なんか(もや)みたいなのは見えるんだけどな。


「仕方ない、か」


 こうなったら、俺が死ぬまでに培った“七つの性技(セブンス・ツール)”、その内の一つを用いるとするか。

 その名を“空想(ビジョンド)補完(アイ)”。言ってしまえば妄想。その力で神様を勝手に幼女の容姿に置き換えてみた。


「ところで、神様。これは小説とかでよくある転生の前触れって事で良いのか?」


「……どこを見ておる?」


 視線が下すぎたらしい。身長を10cmほど脳内で修正。


「ところで、神様。これは小説とかでよくある転生の前触れって事で良いのか?」


「こいつ、今のをなかった事に……。はぁ。まあ、良かろう。お主の言う通り、その命を賭して他者を救った事に敬意を表し、望みを叶えて進ぜよう」


 その言葉に俺は小さくガッツポーズをする。

 異世界転生。当たり前だが、ガキの頃はそんな物を信じてはなかった。

 幼い時は何もかもが楽しかったから。

 考えが変わったのは高校生の時。と言っても、まだ根本的な変革ではなかったのだが。まあ、俺の自分語りを聞いてくれ。

 高校生だった当時、俺はとある女の子に恋心を抱いていた……そうだな、ここではA子としよう。

 俺はA子の事が好きだった。だから、勇気を出して告白をした。その結果、普通にフラれた。ショックで三日くらい寝込んだのを覚えている。


 次は大学生の時だった。その時に好きだったB子先輩に告白した。そして、またフラれた。二日寝込んだ。

 同じく大学生の時にバイト先の後輩だったC子に告白してフラれた。また二日寝込んだ。気まずくなってバイトも辞めた。

 今にして思うとここらで違和感はあったんだ。


 そして、社会に出た俺は次々と告白してはフラれ、ショックで寝込みを繰り返し、やがて一つの結論に至った。

 俺はどうしようもないくらいにモテない、と。

 何がダメなのか自分で研究したし、友人のアドバイスも聞いた。

 それでも何度も何度も玉砕した。フラれた人数が20を越えた辺りで数えるのを止めた為、最終的な人数は俺自身も把握してない。

 実際の数値を目の当たりにすると精神的にもキツいしな。


 そうして辿り着いた境地が“今世でモテる事を諦める”だった。

 つまり、来世に賭けるって事だな。と言っても、何も自殺する訳じゃない。そう。そこで焦点が当たったのが転生だった。

 ……まあ、当初は俺も本気じゃなかったし、唯一の友人に『馬鹿な事を言ってないで現実を見ろ』って言われたのもあって、頭の片隅に留め置く程度だった。望んだ世界にいけるとも限らないしな。

 だが、その友人が忽然と消えてしまった事で考えが変わった。


 行方不明? そんなちゃちなもんじゃない。出不精のあいつが事件に巻き込まれる事なんて滅多にない。それなのに、跡形もなく──まるで最初から存在しなかったかのように、痕跡すら残さず消えたんだ。尋常ならざる事が起きたのは明確だろう。


 何より、何故か誰も彼もがその友人の事を知らないという。そいつには唯一の肉親に妹が居るのだが、気づけばその妹が一人暮らししている事になっていた。おかしいだろ。違和感しかなかったので、家の名義を調べて貰ったんだが、いつの間にか友人から妹に変わっている。まだ未成年だぞ、妹は。親権者も居ないのにどうやってなったんだよ。


 本当に頭がおかしくなりそうだった。幸いな事に肉親補正か妹にも記憶が残っていたお陰で発狂する事はなかったけど。あの時は死ぬほど安心したな。俺と友人の過ごした日々はちゃんと現実だったんだと確認出来たから。

 しかし、その記憶も長くはもたなかった。ふとした時に友人の事を忘れてしまう。しかも、思い出すまでに徐々に時間が掛かるようにもなった。対策としてメモに残したりもしたんだが、そのメモの内容も記憶の欠落と共に何故か白紙になっていた。今にして思えばそれが世界の修正力ってやつなんだろう。勝手に人の記憶を消すなんて、はた迷惑な事だわ。兄の記憶をなくしたくないから助けてくれと泣きつかれたのも精神的に来たな。一回りも年下の女の子に泣かれてみろ、罪悪感が凄いんだぞ。


 だから、調べる事にした。この奇妙な現象について。元々、惰性で続けていただけの仕事はその時に辞めた。本腰を入れなければ、何も得られない気がしたから。

 その結果、紆余曲折を経て、これは恐らく異世界転生若しくは転移したが故に起きたものだと結論づけた。主に俺が。神隠しとか他の超常現象も候補に上がったが、異世界系が一番夢がありそうだったんだよな。妹は兄と再会出来る可能性があるなら何でも良さそうだったけど。


 そこからは転生について来る日も来る日も調べた。全てが白紙に戻る輪廻転生ではなく、記憶を持ったままの転生を。友人の妹はその友人と同じ世界に行く為に、更に色々と調べていたようだ。果たしてその願いは通じたのか、今の俺には妹の行先を知る術はないが、きっと大丈夫だろう。狂愛とも呼べるレベルのブラコンの愛は世界を越えるさ。

 幸いな事に時間だけは無限にあったから、色々なパターンを想定する事は出来た。実際に転生出来るかもしれないというのもモチベーションを高めたな。転生について考えている限り、友人の事も忘れなかったし。

 後はそれとなく善行を積みつつ、機会を待つだけ。

 失敗した時の事は考えなかった。友人の他に親しき人間が居ない世界だ。未練の一つもありやしない。


「それで、海鷹 夜景。お主の望みとは?」


 その結果、俺は勝者になった。

 諦めなければ欲しいものは掴み取れるのだと。そう実感した。友人の事を考えたら、世界の修正力とやらで俺が轢かれたという事実も無くなっているかもしれない。ならば、後ろめたさとかも一切ないな。

 だから、堂々と。胸を張って宣言しよう。チートや俺TUEEEEなんて興味はない。

 俺が成し遂げたいのは唯一にして無二の願い以外存在せず、そしてそれは──


「ハーレムエロゲの主人公になって酒池肉林を築きたい」


 モテたいという一心に尽きるのだから。


「ええ……。清々しい程、欲望に正直すぎる……。一応、紛いなりにも神の御前なんじゃが」


 神はドン引きしていた。なんでだよ。

 だがまあ、神の言葉も一理ある。もし、ここで機嫌を損なって望みが叶わないとなれば、きっと俺は死んでも死にきれない。

 世界への恨みつらみと混じり気のない呪詛を吐きながら失意に呑み込まれていくだろう。


「うっ、なんじゃこの悪寒は……。ほ、本当にその願いで良いのか?」


「くふっ」


「ひぃ……!」


 久々にここまで上がったテンションのせいで、変な笑い声が出た。

 なんか神様が露骨に距離を取った気がする。多分。雰囲気で。実体が見えないから分からないけど。


「……失礼。良いも何も俺にはこれしかないんだ」


「そ、そんな事はあるまい。異世界や現実世界でもチートを駆使すればハーレムは作れるじゃろう?」


「うるせえッ!」


「っ!? え? えっ!? なんで、儂キレられたの!?」


 想像上の神様が怯えた顔をする。ちょっと可愛い。

 ……ごほん。そうじゃなくて。

 この神様は何も分かっていない。

 神と言えば全知全能だと勝手に思い込んでいたのだが、どうも違うらしい。そもそも、全知全能なら俺たちに友人の記憶が残っていたのもおかしいか。明らかに不始末だろうし。


「良いか? 異世界転生って事は産まれる所からやり直す訳だろ?」


「そ、そうなりますかね?」


 何故か神が敬語になった。


「そこからハーレムを築くとなると一体何年掛かるんだよ!」


「ならば、異世界転移なら──」


「バカ野郎ッ! 誰が身元不明で冴えない馬の骨を好きになるんだ!」


 自分で言ってて悲しくなってきた。

 伊達に現世でフラれ続けていない。俺の自己評価はとてつもなく低い。

 卑屈を舐めるな。


「そ、それは儂が与えるチートで」


「──それにな。結局、ハーレムを作る為には転移先で出会った女の子達と仲を深める必要があるだろう?」


「それは……そうじゃな」


 仮に奇跡的な確率で転移先の世界で女性から好意を向けられたとしよう。

 俺はそんな子に対して、ハーレムの一員になってくれと頼むことになる。

 どうだ? 百年の恋も冷めないか?

 というか、それでも良いって言われる方が逆に怖い。何か裏があるのではと勘繰ってしまう。

 何より、


「まどろっこしいんだよ!」


「おいぃっ!? なんて事を言うんじゃあぁっ!?」


「キャッキャウフフの仲良しこよしなんて食傷気味なの! 俺が求めてるのは出会って3クリックで合体するようなビバ肉欲の世界なの! だから、最初からモテモテのエロゲ主人公になりたいの!」


「うわぁ……」


 またドン引かれた。

 だが、良いさ。なんとでも思うが良い。最早失う物など何も無い俺は無敵だ。


「酒っ池、にっく林! 酒っ池、にっく林!」


 リズムに合わせて手を叩く。

 空想上の神様から放たれる冷ややかな視線を一切合切無視する。


「……はぁ。分かった分かった。お主の気持ちは痛い程伝わったわい。それにお主を地球から消し去らんといつまでも世界が正常にならん」


 やがて、根負けしたように。神様は盛大な溜め息を吐く。

 態度や言動の無礼さについてのお咎めはないらしい。さすが神様、懐が広い。


「ぐふっ……!」


 念願叶いそうでまた笑い声が漏れた。そのせいで後半の言葉を聞きそびれていたけど、大した事はないだろう。多分。


「……願いはハーレムエロゲの主人公になりたい、で間違いないな?」


「ああ」


「容姿や身体能力はどうする?」


「うん?」


 よく分からない事を聞かれた。


「ゲームの主人公に転生という事なら、その主人公と外見含めて全く同じパラメーターに出来るんじゃよ」


「なるほど。……それは絶対に必要なのか?」


「絶対ではないが、こういうキワモノの場合は推奨しとるな。どんな初期不良が起こるか儂にも想定出来んし」


「ん……? 初期不良?」


 首を傾げる。

 言葉の意味合いは購入した製品に起きる不具合。だいたいが製造側のミスなので、これが起きた場合は無償で新品と交換してもらえたりする。


「主人公の設定をお主に置換する際、不都合な事象が発生する可能性があってな。まあ、一年もすればそう言った違和感はなくなるんじゃが」


 ふむふむ。

 とりあえず、一年経てば完全にモテモテエロゲ主人公になれるという事は分かった。

 結局、これからはそっちの世界が俺にとっての現実。ならば、多少のバグがあっても一年程度なら大丈夫だろう。


「なら、別にこのまま……いや、年齢だけゲーム世界の主人公と同期して貰えればそれで」


「良いのか?」


「借り物の身体でモテても、自己肯定感がないからな!」


「前向きなのか後ろ向きなのか分からん発言じゃな……。まあ、お主が問題ないと言うなら構わんのだが」


「ああ! 宜しく頼む!」


 否が応でも気分が上がる。

 そんな俺を神は何するまでもなく少しだけ眺めていた。多分。雰囲気で。


「──ここに」


 そして、僅かな沈黙の後で周囲の雰囲気が変化する。

 それは厳かで重々しく。威厳溢れる神の御言葉。


「汝の願いは叶った。新しき生を存分に謳歌せよ」


 気付いた時には俺の身体は眩い光に包まれていた。

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