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現実恋愛

本音ダダ漏れの世界で幼馴染は私に優しい

作者: めみあ

頭を空っぽににして読んでください。



 パラレルワールドっていったっけ? もしかしたらの世界とか、そういうの。ドラマで観たことがある。


 パターンだけど、私はいまパラレルワールドにいるみたい。


 美醜ではなく、性格が真逆の世界に1日ご招待! っていうツアー?に勝手に連れてこられた。ツアー主催者は女神とか名乗っていたけど、もう帰りたい。


 だって……


「会社行きたくない。仕事いやだ。朝は米がいい」

 と父が言えば

「さっさと仕事行って。文句言うなら食べないで」

 と母が答える。


  

 本当の世界なら仕事人間の父がこんなこと言わないし、母が父に文句を言うのも初めて見た。


 パラレルワールドは性格は変わっていても、本音は変わらないそうだ。ということは、2人の言葉には嘘がないということ。

 

 ちなみに私はここの世界でも変わらない仕様になっているらしい。とことんご都合主義。


「もうギブアップなんですけど」

 1日経たないと帰れず、途中退場はできないと聞いたが、声にだして言ってみた。どこかで聞いているかもしれないし。


 少し待ったが返事はない。しかしきっとどこかで見ているはず。幼馴染萌えがなんだとか騒いでたし。遊ばれているようで腹が立つ。

 

 ――やっぱりだめか。仮病つかって1日外に出ない作戦も考えたけど、きっとお見舞いイベントとか作り出して無理矢理会わせるんだろうなー



「ナオ! そんなとこでいつまで突っ立ってるの? 寝癖も直してないじゃない! 女の子なんだから身なりはちゃんとしなきゃ。そんなんじゃ好きな男の子ができても嫌われるわよ!」

 母が私の存在に気がつき声をかけてくる。いつもならおはよう早く顔を洗ってらっしゃい、なんて優しく言う母と同一人物だとは思えない。


「奈緒はずっとここにいればいい」

 父が小声で娘バカ発言。

 

 いや、ほんとにもうこれで充分。帰りたいよー


 もうすぐケンちゃん来る時間だし。



 そう、仮病を使ってでも会いたくない人物こそケンちゃんこと酒井健斗。人前では酒井君って他人行儀に呼ぶようになった隣に住む幼馴染だ。近所に同年代の子がいなくて遊び相手はお互いしかおらず、ずっと一緒に育った。



 今は無表情で無愛想でいつもつまらなそうにしてるけど、昔はもっと――――

 

 

 

「おはよう奈緒。」 


 ――そう、こんな感じ。言葉は少ないけど優しくて、たまに見せる笑顔が……


「……え?」

 

 ありえないことが起こり、一瞬フリーズしてしまった。

 ケンちゃんがいつのまにか家に上がりこみ、わたしの真横にいる。うちに来るのも久しぶりで驚いたのもあるけど、なにより数年ぶりにみる笑顔! 


 普段は眉間に皺を寄せて怖い顔してるから怖がられているけど、私は彼の笑顔を知っている。

 笑うと目が三日月みたいになってかわいいの。


 ほら、やっぱり笑顔がいい。そんな顔したらモテモテになっちゃうんだけど!?


 じゃなくて、なんで笑顔?


「あ、そっか」

 変だと思ったらパラレルワールドだった。なんで忘れてたんだろう。

「どうした?」  

 優しい声色。これもありえない。小首なんてかしげてるけど、そんな仕草も見たことない。

「なんでもない。どうしたの? わざわざ家にあがってくるなんて」

 動揺を悟られないよう、ちょっと冷たい言い方になってしまった。

 

「どうしたって、いつものお迎えだけど?」 

 ケンちゃんは当たり前のように言う。


 ありえない……確かに毎日迎えには来るけど家の前に立っているだけで、挨拶はいつも私からしかしないし、返事も「おう」とか「ん…」しか言わないのに。


「ま、まだ用意できてないから、今日は先に行っててくれる?」 

 これはケンちゃんの顔をした別人だ。こんなのと一緒にいたら心臓がもたない。

 

 ――女神様!もういいですから! これで充分良い思い出になりましたので元の世界に戻してください!


「奈緒を一人で歩かせるとか冗談だろ。待ってるから用意しなよ」

「……だれ?」

 思わず本音が漏れる。

「誰って何の話?」

「……なんでもない」


 ケンちゃんは「変な奈緒」とか言って笑った。だから誰?

  

 高校までは電車通学だ。通う高校が違うし方向も正反対だから、上りと下りで別れる。

 健斗とは、徒歩15分かかる駅までの道を毎朝一緒に歩いて行く。2人は付き合ってるの? と聞かれることもあるけれど、残念ながら違う。 


 

 一時期近所で若い女性を狙う痴漢やひったくりの被害が相次ぎ、心配した父がケンちゃんにボディガードを頼んだ。

 

 それが高一の冬。それから1年経って痴漢の話は聞かなくなったけど、犯人が捕まっていないから、お迎えをやめるきっかけがなくなってズルズルと続いている。


 ――面倒くさがってると思ってたけど、そうでもないのかな。

 

 ケンちゃんの言葉を思い出して、三つ編みをしながらニンマリしてしまう。好きな人にあんなこと言われて嬉しくないわけがない。

 ――義務感だとしても嬉しい。


 ケンちゃんは頼りになるし、かっこいいし、背も高いし、時々優しいし、笑顔もかわいい。

 平凡な顔に155センチの身長の私とは釣り合わないから告白なんてしようとも思わないけど――

 


「奈緒?」

 洗面所の壁をコンコンと鳴らして、ケンちゃんが声をかけてきた。急に顔を覗かせないとかさすが紳士。

「もう用意できるから!」

 慌ててリップクリームを塗り、ザッと全身をチェック。特に問題なし。


 そのままケンちゃんの前に立てば、「三つ編みかわいいね」とサラッと褒められた。


 ――このケンちゃんは軽いけどイイ!


 パラケンちゃん(パラレルワールドのケンちゃんの略)にようやく慣れてきて、こんな風に言葉に出してくれる人もアリかなぁと思う。


「奈緒、朝ごはんは?」 

「う、うん。朝は食欲ないから食べないんだ」

 嘘。ちょっと正月太りしたからダイエット中。

「待ってるから少しだけでもたべてきなよ。食べないと倒れるぞ?」

「大丈夫だから」 

「大丈夫じゃないって」 

 ケンちゃんが私の顔を覗きこんできた。


 そういえばこんな至近距離でケンちゃんを見るのは久しぶりだ。意識してしまって目が泳いでしまう。


「顔色もよくないし」  

「そんなことないよ」


「2人とも邪魔だからどいてくれないか」

 父がいつのまに後ろにいた。


「あ、すみません」父が通れるよう、ケンちゃんが私の腰に軽く手を触れ彼の方へと引き寄せる。

    

 大きな手の感触。息がかかるくらいの距離。

 ――パラケンちゃんは、心臓に悪い!


「も、もう学校行こ」 

「今日はいいけど、明日からはちゃんと食べるように」

 忘れていなかったのか小言を言われる。

「わかったから」


 

 駅までのケンちゃんも優しかった。いつもはほぼ無言で私の少し後ろを歩くのに、今日は横並びだ。なんだか居心地が悪い。

 さらにケンちゃんと会話しながら歩いていることも信じられない。いつもは「そこ段差」とか「端に寄れ」くらいしか言わないのに。


「もうすぐバレンタインだけど、奈緒は誰かに渡すの?」

「え? 特に考えてないけどっ」

 ――ケンちゃんにそんなこと聞かれるなんて!


 チョコは、いつも用意するけど渡せない。今まで用意した3つは全部お父さんにあげた。

「お父さんは? 毎年あげてるらしいって母さんから聞いたけど」

「そ、そうっ! お父さんにあげるかな、今年も」

「ふうん」

 見上げるとケンちゃんはつまらなそうな顔をしている。いつものケンちゃんみたいだ。


「ケンちゃんは――」

 ケンちゃんはどうなの、と聞こうとしてやめた。このケンちゃんはケンちゃんじゃない。


「ん?」 

「なんでもない! じゃあ、また明日!」

 

 ちょうど改札前に到着したので、先に駆け出す。

帰りは母が車で迎えに来てくれるので、ケンちゃんと歩くのは朝だけ。だからまた明日。

 


 学校でも友人たちの性格も正反対で驚いたけど基本は変わらなかった。

 嫌われてなくて良かったと思ったり、おとなしい子が過激なこと考えていてビックリしたり。


 あっという間に帰宅する時間になり、私は息を吐く。

 

 ――もう家に帰って寝るだけ。起きたら元の世界。パラレルワールド、楽しかったな。


 そんなことを考えながら電車を降りて改札を出た。

 改札前のベンチに見慣れた顔がいて驚く。


 ――ケンちゃんだ…


 ケンちゃんのまわりには女の子が2、3人いてケンちゃんと話している。


 ツキン、と心臓が痛んだ。 

 ――気づかれないように帰ろ


 私は足早に前を横切ろうとして、「奈緒!」と呼び止められた。普通バレるよね。目の前を通るわけだし。

 

「あ、酒井くん」  

 私は今気がついたように立ち止まって振り返る。

「今日は部活がなくて早かったんだ。奈緒と帰ろうと思って待ってた」 

 と、朝と同じ笑顔を向けてきた。キャー、と女の子たちが騒ぐ。ほら、その笑顔ダメだって。


「でも」

 私は彼の横にいる女の子に目を向ける。ケンちゃんと同じ高校の制服。みんな可愛い。

 ――普段、こんな子たちに囲まれてるんだ……


「えーー! 健斗くん、せっかく会ったんだから遊ぼうよ!」

 女の子の中の1人が私をチラリと見たあとに勝ち誇ったように、ケンちゃんの腕をとる。

「だから遊ばないって言ってるだろ。俺は奈緒と帰るから」

「なおちゃんだって子どもじゃないんだから、1人で帰れるよねー?」

 もう1人が馴れ馴れしく話しかけてきた。


 この子たちはパラレルワールドでこんな感じなら、元の世界ではきっとおとなしい子だろう。


 彼女らはケンちゃんのことが好きなんだな、と思ったらまた心臓が痛んだ。好きにならないでよと彼女らに言える理由がないから。



「私は大丈夫だから。お母さんが迎えに来るし。じゃあまたね!」

 私はその場にいられなくて、ひきつった笑みを向けて駆け出した。

「奈緒!」

 名前は呼ばれたが、ケンちゃんが追いかけてくることはなかった。

 一度振り返ったら、彼女らに手を引かれて反対方向へと歩いていた。


 私は涙がこぼれそうなのを我慢しながら早足で歩き続ける。


 ――違う。あんなのケンちゃんじゃない!! ケンちゃんは自分で決めたことは守るもん。私と一緒に帰るつもりで待ってて、他の子とどこかに行くなんてありえない!! いつものケンちゃんに会いたい。いつものケンちゃんがいい!


 

 カッカしながら歩いていたので、母への電話を忘れていた。いつも車を停車している場所に車がなかったのを見てようやく気がついた。

 

 『子どもじゃないんだから一人で帰れるよねー』

 先ほど言われた言葉を思い出し、ちょっとムカッとする。

 ――ムカつく! 自分がケンちゃんと遊びたいだけじゃん! 別に一人でも帰れるし!


 今日は歩いて帰ろう、そう思い再び歩き出そうとして、急にうしろから腕をつかまれた。 

「へ?」

 少しだけ、ケンちゃんかと思ったから、咄嗟に振りほどけなかった。

「ねえ」

 知らない声が続いたと同時に腕を強く引かれ、強引に男の方へと体を向けられる。20代くらいの細身で眼鏡の男。知らない顔だ。


 身体が強張る。視線を周囲に向ければ、いつもは人通りがあるのに、今日に限って近くに誰もいなかった。

 大声を出せば――

 と思うのに、恐怖で声が出ない。 


「可愛いから声かけたんだけど、そんなに怖がらないでよ。ちょっとお兄さんの家で遊ぼうよ。家はそこだから」

 男が指をさしたのは、駅前のマンション。

 ――住んでるとこバラすとか、逆に怖い! 


 監禁という言葉が頭によぎる。


 ――ケンちゃん助けて!!! ケンちゃんケンちゃんケンちゃんーー!!


 身体が震えてきて、祈るようにケンちゃんの名を呼ぶも、ヒーローのように助けに来る気配はない。


 腕をグイッと引かれたところで


 《帰還!!》 と慌てたような女の声が聞こえたけれど、私は目をつぶったままだったから、何が起きたかはわからなかった。


 男の手は離れたし、フワッと浮いた感じがしたから、女神とやらが助けてくれたのだろう。


 帰還というのだから元の世界に帰れるに違いない。

 

 謝罪のようなものが聞こえ、女が誰かに叱責されている声も聞こえたが、私は何も答えなかった。


 

 

 ただ、ケンちゃんに会いたかった。

 

 

  

 目覚めたら、今朝に戻っていた。

 

「ナオ、おはよう。顔を洗っておいで」

 いつもの母。


「いただきます」 

 いつもの父

 

「うん」 

 いつもの私。


 今朝はご飯を食べた。


 玄関のドアを開けるといつものケンちゃん。不機嫌そうに立っている。

「お待たせ!寒いねー!」

「……ん」

 ケンちゃんがいつものように、私のすぐ後ろを歩く。

 

「そこ、水たまり凍ってるから」

 ボソリとケンちゃん。

「あ、ほんとだ!」

 私はすぐ反応ができなくて、足を滑らせる。

 あ! と思った時には、ケンちゃんが後ろから私の身体を支えてくれていた。

「あ、ありがとう」

「ん」


 上を見上げたら、ケンちゃんの口角が少し上がっていた。なんだろ。機嫌がいい?

 

 なんとなく、パラケンちゃんを思い出した。彼は私に優しかった。

 そして、ケンちゃんを好いている女の子も思い出す。黙ってたら、ケンちゃんの笑顔があの子たちのものになっちゃう。


「あのさ、ケンちゃん」

「……なに」


「わたし、ケンちゃんのこと好きだよ?」


「……そうか」


「うん」


 私だけ素直な気持ちを出さないなんてフェアじゃない。そんな気持ちだったから、自然に好きと言えた。


 ――ケンちゃんは私のこと、なんとも思ってないみたいだけど。


 それでも私はやっとスッキリしてケンちゃんに笑いかける。




「遅れるから行こっか」

 

「奈緒」


 

「んー?」


(本物のケンちゃんに名前を呼ばれたのは久しぶりだー!)



「今日は学校休め」


「は!? 何言ってるの?」


(やっぱりわかんないわこの人)


 

「そんな顔をさせたまま行かせられない」


「どんな顔よ」


「いいから」


「変なケンちゃん」


「お前……」




 

 


 バレンタインデーにハッピーエンドになる、ちょっと前のお話。


 あと、例の痴漢と引ったくり犯、パラレルワールドで私を連れて行こうとした男だったんだよ!


 自分から出頭したらしい。


 女神の力なのかな。


 

 解決しても、毎朝のお迎えは続いてる。

 あいかわらず彼はちょっと後ろ。


 でも今までとは全然違うよ?


 今日は別れ際に

「帰りも待ってる」

 なんて言うようになった。


 そろそろ彼の口から「好きだ」と言ってもらえたら嬉しいのだけれど、いつになるのかな。



 


 

 

 



とにかく甘いのを書きたかっただけです。

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