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16 シエルさん、ヤキモチで寝室を焼く

 ――何かが自分を包み込んでいる気がしている。


 温かく、それでいて妙に熱い。あまり弾力は感じられないが、何とも滑らかな手触りが感じられる。


「――うーん……」


 どういう状況でどこに眠っているのか、まるで覚えが無い。


 だが直前にシエルさんの顔を見た気がするので、もしかしたら彼女が寝落ちした俺を布団に寝かせてくれた可能性が高い。


 そんなことを思いながら寝返りを打とうとすると――


「ひゃああっ!?」


 ――などと、明らかにシエルさんとはまるで異なる声が耳元に響く。声の質でいうと、成熟したというよりまだ未熟な感じの声だ。


(だからといってシエルさんが……という意味でも無いが)


 寝返りを打とうとしたが、どうやら体半分しか動かせないというより、そこに何かが寝ていたようだ。


「フゥーフゥゥー……ハヒィハヒィ~」


 しかも何かからの荒い息遣いが、間近に感じられる。相当興奮状態になっているか、あるいは突然のことで息を乱したかのどちらかだろう。


 しかし眠気はすでに無く、体を今すぐ起こしたくてたまらないので()()に構わず、勢いをつけて寝返りを打つことにした。


「ふぇっ!? な、なななななな……!!!」

「あれ、君は……萌えない魔女の……」


 すぐ目の前に寝ていたのは、アパートでゴミを燃やそうとしていた自称魔女だった。魔女はかろうじて素っ裸ではなかったが、胸の部分だけ露わにしている。


 そして俺はというと、見事に裸にされていて左手だけがすっぽりと谷間に挟まっている。意味が分からないが、身ぐるみでもはがされただろうか。


 いい方に考えれば、左手に何らかの傷があってさっきまでずっと看病か何かをしてくれていたと思われる。だが、何故こんなことになっているのか。


 全身に熱を感じるという時点で俺に対し、何らかの魔法を使ったのだろう。それでも訳が分からない。


「ち、違う違う~!! 回復疲れて眠っていただけでででで……!」

「落ち着いてくれ。ここはどこで、どうして君が俺と一緒に眠っていたん――だわぁっ!?」


 寝返りを打ち、目線を下にするとそこには胸だけを露わにした魔女っ娘。そしてふと気付いた先から感じるすさまじい殺気。


 いつからそこにいたのかなんて、恐ろしくて口を開けない。


「リリアナ!! そこで……何を?」


 シエルさんの声が響き渡っている。静かな怒りのような、そんな感じだ。それに気付いたのか、魔女っ娘はすぐに起き上がってシエルさんの下に跪いている。


 さっきまで顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた魔女っ娘は、一気に青ざめた表情でガクガクと震え出した。


 状況が良く呑み込めていないものの、気付いたら横にいた魔女っ娘に罪は無いということで、シーツで全身を隠しながらシエルさんに近付いた。


「シエルさん。ここはどこかな?」

「ケンセイさんっ! ご無事で何よりですわっ!! ここはお城の、わたくしたちの寝室ですのよ。で、ですけれど……ですけれどっ!!」


 どうやら魔王城の再建は終えていたようだ。しかし何故寝室に寝かされていたうえ、魔女っ娘が添い寝をしていたのか。


「ボ、ボクは、あの人間を――」

「人間……? そうではなくて、ケンセイさまですわ!!」

「ひっはい! ケ、ケンセイさまの左手に少しだけやけどのようなものがありましたので、谷間治療を施していたです……け、決してそのようなことをしたわけじゃなく……」


 左手にやけどを負っていたとは気付かなかった。しかし谷間治療って何だ。


「――ですわ!!」

「えっ? シエル様、今なんて……」

「谷間治療をするなら、わたくしも呼んで欲しかったですわ!! リリアナだけで、ズルイですわ! ケンセイさんの様子を見る限り、もう治ったということじゃない!!」

「ごっごめんなさぁぁぁぁい!! それならもう一度やけどをさせ――!」


 もう一度やけどとか冗談じゃないと言うつもりだったが、時すでに遅し。シエルさんのヤキモチでシーツはもちろん、寝室そのものが炎に包まれている。


「シエルさん、落ち着いてーー!! またお城が大変なことになりますよ!」


 魔女っ娘リリアナをも上回る火力なせいか、リリアナではどうにも出来ない。しかし俺の必死な訴えが効いたのか、何となく炎が弱くなった気がする。


 この火力なら、せいぜい寝室を燃やすだけに留まるはずだ。


「ひええええーーシエル様、落ち着いてくださぁぁぁ」


 リリアナの叫びを最後に、またしても俺は炎に包まれながら意識を落とした。


「――はっ……! どうしましょどうしましょ……で、でもこれで今度こそ――あ、次に目覚めた時には、エプロンを着けてお待ちしていますわ。ケンセイさん……」

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