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11 初代魔王嬢の熱い思い出語り


「――ったく、ルコシエルがこうも人間を愛するとはな~」

「あら、それはどういう意味かしら? 愛に種族なんて関係ないことですのよ? 昔のことを言っているのなら、そんなものはとっくの昔に……ふぅ」

「昔はそれどころじゃなかったとはいえ、こいつはただの人間だぜ? そんなに愛だのなんだのと……あたしにはさっぱり理解出来ねえな」


 ロッテさんの言うことはもっともなことだ。

 どうして彼女は、ただの人間である自分に最初から好意を保ち続けているのか。


 魔王であることが分かられてから、さらにその愛情が強まった気がする。

 それでもそうなっているのには、何か理由がありそうな気がしてならない。


 シエルさんの好意は見れば分かるだけに、スルーして来た。

 しかしこれから一緒に店をやって行くには、お互いのことを知る必要がある。


 お城も再建途中だし、ここは彼女のことをよく知っておかなければ。


「シエルに聞いてもいいかな?」

「はい、何なりとお申し付けくださいませ!」

「えーと、ロッテが言ったことなんだけど、何か人間に特別な思い入れでもあるのかな?」


 もしかして、シエルさんにとって忘れられない思い出があるのか。

 そう思って聞いてみた。

 

「ケンセイさんにとってはあまり面白いお話では無いですけれど、話をお聞きになりたいのですね?」

「で、出来ることなら……もちろん、無理にとは……」

「分かりましたわ! 思いきってお話を致しますわ! ですけれど、どうかわたくしのことを――」

「シエルのことを知りたいので、嫌いになんてなりませんよ!」

「まあっ!」


 今の姿を見ている限りでは、とても恐ろしい魔王だったとは思えない。

 しかし人間にとって、脅威となる話という可能性もある。


 それを前置きしてくれた以上、覚悟して聞くしかない。


「おっと、あたしは何度も遭遇してる話だから、他の所に行ってるぜ」

「え、自分の城に?」

「散歩だ、散歩! クマとはすでに契ってんだから、離れるわけねえだろ? じゃあ、またな!」

「あ、はい」


 ロッテさんにとっては、聞き飽きた話ということらしい。

 それともやはり、魔王にとってあまりいい話じゃないのだろうか。


「ケンセイさん。わたくしは初代魔王として、何度も何度も……燃やして燃やし尽くして来ましたの」

「うん」

「その中には人間……この前お店に来た勇者もそうですわ。奴等は性懲りもなく、わたくしを求めては侵入して来ましたわ。その度に、わたくしの火力はどんどん高まって……そして――」


 この話は、やはりそういう話だ。

 人間である勇者と、その味方である人間を燃やして来たという。


「そして?」

「体が火照って、気付いたらあんな勇者に悶えるようになってしまって……それで……」

「はい……? え、人間を燃やして消した話じゃ?」

「ち、違いますわっ! ケンセイさん、人間相手にひどいことをするのは、部下の仕事ですの! 魔王は直接手を下すことなんて……せいぜい、勇者くらいにしか」


 もしやこれは、残酷な魔王の話では無く、別の意味での熱い思い出なのでは。


「そ、その、勇者に何度も城に攻められて、惚れちゃった……とか?」

「はあぁぁぁん!! ごめんなさい、ケンセイさん! 昔のことであって今はただのくそジジ……オホン、当時の話ですの。人間は年を重ねると、ジジイになって……」

「はは、まぁ……そうですね」

「何度も何度も戦っているうちに、そこで出来た傷がずっと残ってしまいますわ。古傷というものは、ずっと残ってしまいますの。それこそジジイになってもですわ」


 もう隠さなくなったけど、案外口悪い。

 それもシエルさんの魅力でもあるか。


「――つまり、俺を愛して慕い……守ってくれるのは、傷をつけない為ですか?」

「は、恥ずかしいですわ! ケンセイさんは、勇者のジジイと違って何の野心も持たずにお城に来てくださいました。そのことだけでも、わたくしはあなたさまをずっと愛して行こうと決めましたの」


 なるほど。興奮すると燃やしまくって、相手にも別の意味で萌えちゃった話だった。

 その場面をロッテさんは、何度も遭遇しているということか。


 野心はあるが、勇者とは次元が違うから黙っておこう。


「そういうことでしたか。てっきり、もっと特別な意味があるのかと思いましたよ」

「で、ですから、ケンセイさま。わたくしは、人間にならって……ご一緒にお店を手伝って、あなたさまのお嫁さんに……」

「そ――それなら、お店修業をたくさん頑張ってもらいますよ?」

「ええ、喜んで!」

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