女性向け?ホラーなの?
ゲーム開始数分で森で何かに捕まり…〇されてしまった。自分の購入したゲームの裏パケをじっくりと見た。『女性向けシミュレーション』と記載されている。うむ…もう一度プレイした。またも森に逃げて何かに捕まって数分でDEADEND。流石におかしいと思ったが、数回プレイし直した。全て森で捕まり〇された…。もう一度パケ裏を確認した『女性向けシミュレーション』間違いない。ソッと…ゲーム画面を閉じてソフトを棚の奥深くに仕舞った、乙女の皆様宜しくお願いします。
こんなに都合の良い、いわゆるご都合主義な設定あっていいものか?あ、この世界ってゲームの世界だもんね~ご都合主義万歳!
「おどろおどろしいね」
「うん、真夏の廃病院…迫力あるぅ」
シエナと2人でソレを見て絶句している。どうしてなんでしょう?国立公園の宿泊施設のすぐ近くに何故か建っている元病院、今廃墟の建物…。〇士急アイランドじゃあるまいしさ~こんな怪しげな建物あるかっていうの?
*何度も言うがこの世界はゲームの世界である*
先程、転移魔法でどこかへ行っていた、カッフェベルガ王太子殿下付きの近衛のお兄様の1人は、今帰って来てカッフェベルガ王太子殿下を交えて他の近衛のお兄様と今は姿を現しているフォーさん(本名不明)と何やらコソコソと話し込んでいる。
因みにレイファもその輪に加わっているので、後でどんな話をしていたのか教えてもらおう。
そう言えばこんなおどろおどろしい場所で言うのもおかしいが、改めて見るとリヴィエラの護衛のフォーさんって、隻眼だけどびっくりするような銀髪のイケメンなんだよね。さっきからイケメンが固まって輪になってコソコソ話し込んでいるので、周りの女子生徒のはしゃぎっぷりが凄まじい。
あれ、もしかしてもしかすると…隻眼のフォー(仮名)も攻略対象キャラなのか?
先生が集合~と拡声魔法で呼びかけたので廃病院前の空きスペース(多分元、駐馬車場)に集まった。私の隣にすぐレイファがやって来た。
「え~この建物内の奥、霊安室の中に置いてある箱の中の番号札を取って帰ってくるのが肝試しクリアの条件になります」
「アホか!霊安室だって?!強烈に一番怖い部屋じゃないかぁ!」
先生の説明を聞いて、思わず空に向かって(製作者に)罵声を浴びせた。どこの世界に廃病院の霊安室に入る不良がいるんだよぉ!そんなのは地方のイキッたヤンキーだけで十分なんだよ!
「ミルマイア大丈夫だよ、俺と一緒だし」
「嘘つけぇレイファも声が震えてるじゃない!」
ああ…レイファの紺碧色の瞳が恐怖で瞳孔が開きっぱなしになってるよ…。私はレイファの手を握った。レイファが握り返してくる。
「レイファ、生きて帰ろう」
「ああ、死ぬ時は一緒だ」
これはリーナが暗がりから~とか吞気な事を言っている場合ではないね。だって普通の女の子じゃいくら攻略キャラとイベントを起こしたいからといって、こんな廃病院に単身潜り込んでどこかに身を潜めるなんて無理ゲーだろう?
「肝試しの順番は事前にくじ引きで決めてある。SS組がトップだ」
「ちょっとーー誰がくじ引いたのよぉ一番最後も嫌だけど、先頭が一番怖いじゃない!」
「俺が引いた…」
私は小さく手を挙げたレイファのプルプル震える手を見て思い出した。
「うっかりしてた、レイファがSS組のクラス委員長で私が副委員長じゃない!」
お互いに成績で学年トップを争う2人になっていた自分達を恨むよ。レイファが代表して引いたんじゃ文句は言えない…。
しかしだね、たかだか女性向け恋愛シミュレーションゲームの中のイベントの1つで、こんな手の込んだ廃病院作り込む必要あるかな?
だからクソゲーって嫌なんだよな。恋愛シミュレーションゲームのくせに、重きを置かないといけない恋愛イベントのシナリオはサラッとサクッと流す癖に、どーーーーーでもいい日常イベントを事細かに描写するクソっぷり。
こういうシナリオが更にクソゲーっぷりを上げるってことに気が付かないかな?
今この段階で騒いだところで仕方ないか。そうだ、よく考えればこれはゲームの中だ。廃病院だけどあれは全てまやかし、蓄積されたデータだと思えばいいのでは?
「じゃあSS組スタート。まずは委員長と副委員長組から~」
「ひょえっ私達から?!」
「……行くぞ」
死地に赴く兵士の心持ちである。レイファと手を繋ぎながら廃病院の門をくぐり、正面玄関から中に入った。暗い…真っ暗だ。
「そうだ、禁止はされていないから灯りをつけよう」
レイファはそう言うとライトの魔法を頭上に放った。歩く自分達の直径2メートルくらいは光魔法でスポットライトのように明るくなっている。いやでも、これでも5メートル先は暗闇じゃない?これはこれで怖い…。そうだ!
私はレイファと同じ魔法を数メートル先に向かって次々に放った。
えーと、廊下が明るいです。私の光魔法に照らされた廊下が何か汚いです。今、黒っぽい小さな生き物が、ガサガサッ…と私達の前を横切るのが見えました。
レイファが大きなため息をついた。
「ミルマイア…やり過ぎ。もうちょっと情緒を残しとこうよ」
「そうだね、肝試しなのに怖いというよりは汚い…て感想しか浮かんでこないや」
私達は煌々と灯りに照らされた廊下を進んだ。やがて廊下の突き当りに、霊安室こちらの看板が見えてきて、ホッとした。
「よく考えたら貴族の子女達が立ち入る建物に危険なモノなんて無いよな?」
「そ、そうだよねぇ?慌てて損したね」
アハハと笑いながら霊安室の引き戸をガラガラ…と開けて中に入った。やっぱり何も問題ないようだ。
霊安室の室内は椅子と長めのテーブルだけがあって、そのテーブルの上に木箱が置いてあり…木箱にマジックで
『番号札ココ』と書いてあった。何だか先生の手作り感満載だ。
レイファが木箱の中から肝試し大会クリア証と書かれた、これまた手作り感満載の木の札を取り出した。
「よし…じゃあ戻ろうか」
レイファと2人廊下に出た。すると先程まで明るかった廊下が急に真っ暗になった。
「っ何?」
その時、無意識に屈んだせいでレイファと繋いでいた手が離れた。あ…っと思った時にはレイファの気配が消えた。そして何かの魔力の負荷がかかった。
確か…屈んで床に手をついたはずなのに指先に触れる感触が床ではなく、土の感触だ。頬に風が当たる?
急に暗闇になったので自分が無意識に目を瞑っていたことに気が付いてゆっくりと目を開けた。
「外……。」
思わず茫然として呟いた。いつの間にか外に来ていた。どこかの森の中に居る…。先程の魔力の負荷は転移魔法だ、どういうことだ?
「ミルマイア様」
「ぎゃあ!」
急に誰かに声をかけられて飛び上がった!
「ミルマイア様落ち着いて下さい。私、フォーです」
「ふぉ……フォーさん?!」
そうだ!この低音の美声はフォーさんだ…そして今気が付いた。何もこんな時に気が付かなくていいのに気が付いてしまった…。
フォーさんの声は某有名イケメン声優さんのお声だった!
これで確定だ、フォーさんの声のキャストさんから察するにフォーさんも隠し攻略キャラじゃないだろうか?いや、今はそれどころではない。
「今、御前に出ますが大丈夫でしょうか?」
フォーさん(声は有名声優)に囁かれて現実に引き戻された。
「は、はい!お願いします」
ザッ…と魔力の気配がして、隻眼のフォーが私の前に現れた。フォーさんは屈んだままの私に手を差し出してくれた。私は立ち上がってフォーさんを見上げた。隻眼のフォーは優し気な微笑みを浮かべている。
これはいいわね…。さすが隠し攻略キャラも美形様だ。
「突然すみません。実はリヴィエラ殿下より、肝試しの時はミルマイア様とレイファ様の護衛をして欲しいと頼まれていたのです」
「まあ…。あっ!いけない…レイファは?!」
フォーさんは表情を厳しくされた。
「戻りますか?」
「レイファの所?はいっ勿論です!」
「転移をします、失礼」
フォーさんが私の手を取ったまま転移魔法を使った。急に眩しさに襲われて思わずよろめいたが、すぐにフォーさんに肩を支えられた。
「ミルマイア?!大丈夫か?フォーすまん!」
レイファの声がして、レイファの魔力と共にレイファに抱き寄せられた。
「怪我は無いか?」
「うん…」
明るさに慣れてきて目を開けると、私の目の前にはフォーさんの大きな背中が見えた。横にいるレイファの顔を見上げると、レイファもフォーさんと同じ方向を見ている。私はフォーさんの肩越しに廊下の向こうを覗き込んで見た。
やっぱり…!リーナ=ピュリーサ男爵令嬢…リーナがこちらを睨みつけている。
「ピュリーサ男爵令嬢、君は執拗に私に付きまとっているが一体何用なのだろうか?」
レイファはリーナを見据えながらそう話した。聞かれたリーナはフォーさんの肩越しに見ていた私の方を睨んできた。
「レイファと肝試しイベントは絶対に外せないイベントなのよ!あんた外へ弾き飛ばしたのにまた邪魔するの?さっさとイベントから外れてよっ」
またそれだ…。あのね…と言い返そうとした私をレイファは手で制すると、フォーさんより前に出て叫んだ。
「ピュリーサ男爵令嬢は何か勘違いをされているようだ。君が高位貴族令嬢であるミルマイア=シュトローエンテ侯爵令嬢にそのような不敬な物言いは許されない。尚且つ、私の婚約者を侮辱するのも大概にしろ!」
「こん…っ嘘…うそぉ?!」
このリーナの驚きっぷりから察するにあのポエムゲーの攻略中に、レイファとミルマイアが婚約するようなイベントは無かったみたいだ。やっぱり本来のゲームシナリオと違ってきているようだ。
だったらそれならそれで構わない。勿論私は最初からシナリオは全然憶えていないし、今までもリーナのことは適当に流してきたし私のスタンスは変わらない。
ただ、それを周りの人間がどう思うかは分からない。私はレイファが動き出したらそれがこの世界の正義なら止めることはしない。
「ピュリーサ男爵令嬢、君は昨日カッフェベルガ王太子殿下とリヴィエラ皇女殿下が崖下に転落されたことを事前に知っていた素振りを見せていたね?本当に何か知っているのではないのか?」
リーナはポカンとしてレイファとフォーさんの顔を見比べている。
「君が…殿下方を崖下に落とそうと画策したのじゃないのか?」
そりゃそうだね…私がレイファでもそう思うわ。リーナの発言と動きは怪しすぎるもんね。
フォーさんが一歩前へ踏み込んだ。
「ち…違うわっ!私は…ヒロインだもんっそ…そうか!個別ルートそうよね…個別ルートに入っちゃったんだよね?え~と誰のルート?フォート?いや違うか…まさか、サエバート?急がなくちゃ…」
ええっ?!ちょっと待って!フォートって誰だ?今、サエバートって言ったか?!
フォーさんが考え込んでいたリーナに一瞬で近づくとリーナの手を捩り上げた。
「イッ…痛いっ!止めてよっ痛いじゃないっフォートッ…私はヒロインなのよっ!」
フォート…ってフォーさんのことなんだ…。思わずフォーさんの隻眼を見詰めてしまう。
流石のフォーさんも信じられないような目でリーナを見ている。
「確かに…私の名前はフォートですが、どこでその情報を手に入れたのか…やはりカッフェベルガ王太子殿下の読み通り、この娘はどこかの国と通じている間者か?」
間者、うん……そうだよねぇ私がフォーさんでも、自分のフルネームを何故か知っている怪しい娘はスパイだと疑うと思うんだ。
暴れ騒ぐリーナはフォーさんに連行されて病院の外へ連れ出されていった。
肝試し大会の途中だけど、フォーさんがリーナが廃病院内に潜んでいて、ミルマイア様を傷つけようとした為、取り押さえたと、カッフェベルガ王太子殿下に報告してしまい(全くの嘘じゃないけど)リヴィエラとシエナを驚かせてしまった。
取り敢えず表面上は何事も無く処理されて、肝試し大会は続けられることになった。
梅雨の長雨、皆様お気を付けを