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個別ルートに入りました

攻略中のキャラと気まずくなった時、画面に選択肢が出た。『怒る』と『泣く』ここで泣くのはねぇな~と怒るを選んだら、主人公が予想を上回る暴言を吐き出していて、攻略キャラと一緒にドン引きしてしまった乙女の皆様、宜しくお願いします。

カッフェベルガ王太子殿下は二時限目の授業から登校して来られた。


時候のご挨拶程度しか会話したことのない殿上人だという認識だったけど、レイファと居ると只の16才だった、だが顔が良い。そこは認めてあげよう…上からですみません、殿下。


「肝試しって何?」


「え~と何かな?ミルマイア」


休み時間に林間学校の冊子を読んでいたカッフェ殿下(そう呼べ!と言われたので)はレイファと私を交互に見ながらそう聞いてきた。


流石従兄弟同士、体全体の骨格が似ているし一斉にこっちを見たキョトンとした顔が似ている。


「不気味な建物や、人気の無い場所を歩いて無事に帰って来れるか…度胸試しみたいな遊びですね」


「戦場で死体の山の側を通るようなもの?」


「そうかもね」


死体の山…ゾンビっぽい方が怖い気もするけど、王子と公爵子息に異議は唱えにくい。


そして放課後…王太子殿下が市井に遊びに行きたい!と仰るので皆で連れ立ってクレープ屋さんに行くことになった。


あれコレって、人数は多めだけどスチルイベント発生じゃないかな?でももしスチルになるとしたら、大人数が一枚絵に収まる、その他のフォルダに入る友情イベントスチルになるよね?


皆でキャッキャッ言いながら商店街に向けて歩いている時に、何となくだけど後ろを見たらリーナがいた!


ジト目でこっちを見ている。私のせいじゃないよ?カッフェベルガ王太子殿下が食べたい!と言ったんだよ?


皆でクレープを買い、公園で頬張った。林間学校の話をして笑っている私の視界の隅にリーナが見えた!


最早ストーカーじゃないかね…。そんなにクレープイベント起こしたかったのかな?あ~あアレかも、時期が過ぎると起こせなくなる期間限定イベントなのかもね。


さて恨みの籠ったストーカーの視線を受けつつ『皆で放課後デート』イベントを終え…


林間学校に行く日がやって来ましたよー。


宿泊する国立指定公園のある場所へは、大型の転移陣で移動する。簡単に説明すると魔法で起動する大型テレポート装置なのだ。


「C組から出発ですよ~C組は陣の中に入って~」


先生の指示の元、ゾロゾロと移動している生徒達を見ながら私は落ち着かない。だって真後ろに背後れ……リーナが立っているんだもん。気になるわぁ…。


ところがだ、そんなリーナをレイファが時折、刺すような視線で睨んでいるのだ。勿論その視線に気が付いたクラスの皆がリーナの事を同じような目で見ている。


リーナは完全に孤立無援状態なんだけど、大丈夫なのかな?どう見ても恋愛イベントを起こすことに注視し過ぎて、本来楽しむべき学園生活、友達を作ったり~友達と食べ歩きに出たり~観劇を皆で出かけたり~とか…恋人よりも優先的に楽しむべき、若者の青春イベントがおざなりになっている気がするんだよね。


そんなにレイファに固執していたらあっと言う間に3年間終わっちゃう…あれ?


今、重要なことを思い出しかけた…。この『リーナの寒いポエムを聞くゲーム(仮)』ってシナリオは3年間もあったっけ?そんなに何度もスチル付イベントが起こる訳ないよね?


私の恋愛シミュレーションゲームプレイ歴から推察するに一作品中、攻略対象キャラクターが大体3~8人位存在するとして、一キャラにスチル付イベントが5枚(5回)以上あるとすると…そんなに毎月スチル付イベントが起こっていたら卒業までのイベントでレイファのスチルだけでも最低36枚にも及ぶ計算になる。


それは絶対に無い…と言い切れる。制作コストとかディスクの容量とかの…大人の事情ではあるが。


つまりだ


リーナがこれほど躍起になってクレープイベントを起こそうとしたり、林間学校の班別けに捩り込みたいと騒ぐのは…時間が無いから?


もしかしてこのクソゲーって一年間しか攻略期間が無いとか?


「ミルマイア、俺達の番だよ」


私の手を握ってくれたレイファの手の温もりにハッとして顔を上げた。


確かにゲームとして攻略期間は一年だとしても、例えそうだとしてもリーナは忘れてはいないだろうか?このミラジェール魔術学園は教育課程は3年ある。おまけに卒業後、付属のミラジェール大学院に進学も出来て、大学生にもなれる。


クレープイベントなんて起こし放題じゃない?別にスチル付きイベントだからって言っても、そのスチルをリーナが見れる訳じゃないしね?


あのスチルはゲーム画面越しに見るから尊いだけで、普段の何でもない日常の一コマじゃないか。


レイファと手を繋いだまま転移陣に向かった。


「野営体験の時に釣りが出来るんだって」


レイファがそう話しながら、私の耳に口元を寄せてきた。頷きながら返事をしていると私とレイファ…そのかなり後ろにリーナの姿がある。何かメモを見ている?


「では転移を開始しますよ!忘れものは無いですね?」


「はーい!」


先生に返事をして、私達SSクラスの生徒も転移をした。


「物凄い、緑の匂いだね!」


「緑の匂いって何だよ~?」


転移した先の国立公園のジャングル?を前に感動して息を吸い込んでそう叫ぶと、レイファに笑われた。


「でも分かるわ~王都に居たら自然に触れあう機会もないもんね?」


とシエナが深呼吸をしながらそう言っている。リヴィエラもシエナを真似て深呼吸している、可愛いね。


学年全体の注意事項の説明があります~!と、先生が声かけをしたので、公園の入口に集合して学年主任の先生の話を聞く。


その間、チラッとリーナを見たら、何かメモを書いている?一瞬、先生の注意事項を書きつけているのかな?と思ったけど、時々考え込む仕草を見せているから違うみたいだ。


変なの。


林間学校一日目は野営体験だ。班ごとに分かれて釣り道具とテント…備品を受け取る。テントの設営などはレイファとカッフェベルガ王太子殿下が設置してくれた。意外だと思ったが、カッフェ殿下は魔獣討伐などで野営することもあるそうなので、「私は役に立つ人材だと思うよ!」と自らをそう称していた。


本当に役に立つカッフェ殿下だ。王子様に向かって上から発言済みません。


と言うのも、リヴィエラは生粋の皇女殿下だし、私も今世では侯爵令嬢…そして残念ながら前世はインドア女だったので、キャンプなんてパリピな活動はしていなかったせいで、この野営体験では役立たずなのは否めない。


シエラは言わずもがな大衆食堂を営む家のお嬢さんだ。包丁さばきも華麗に、カレーの具材を切っている。駄洒落ではない…念の為。


私とリヴィエラは大人しく枯れ枝を拾って歩いていた。因み王位継承権一位と三位の男達は仲良く釣りに出かけていた。サエバートはシエナの補助をしている。


「ふぅ…薪って拾うの大変なのね。でも私って役に立たないわね…」


「リヴィエラこれも重要なお仕事だよ、火が無ければ調理も出来ないもの!私達だって立派な役立つ人だよ!」


同病相憐れむ…。リヴィエラと出来ないコンビで慰め合いながら、薪を拾ってテントに戻った。


しかしテントに戻ってみると…


ちょちょちょ…?!何故かリーナがシエナの横で一緒にカレーの下準備をしている?どういう事?


「あ、お帰り~。リーナさんがね~お料理得意だって言うんで手伝ってもらってたの」


いやいやいやぁ?!シエナの人の好い対応は素晴らしい事だけどぉここで発揮しなくてもいいと思うんだあ!


そうだよ、リーナは別班だと思うんだけどな?と周りを見ると、他の班(他クラスも含む)の主に女子達から鋭い目を向けられている、某リーナ。


しっかしリーナは鋼メンタルだなぁ~。寧ろ関心するよ…ところがね、いつも穏やかなリヴィエラが急に声を荒げた。


「リーナ様、あなたは別の班ですわ。ご自身の班の手伝いを放棄して何をされていますの?林間学校の目的をお忘れですか?仲間との共同作業で親睦を深め、規律と協調性を高めるのが目的ですわ。すぐに自身の班にお戻りになって、そちらを助けていらっしゃい」


ひえええっ!リヴィエラァァ!正論ですっ!


仁王立ちをしてビシーッとリーナを指差していたリヴィエラを見ていたら、周りに居た主に女子達が一斉にリヴィエラへ拍手喝采を送ってきた。


「そうですわっ流石、リヴィエラ殿下!」


「殿下の仰る通りですわっ!場を弁えなさいませ、リーナ=ピュリーサ!」


「殿下方にご迷惑をかけて恥を知りなさいっ!」


ここぞとばかりに他の班の貴族令嬢達がリーナに対して集中砲火を浴びせてくる。


ああ…これアレだ、リーナに対して言いたくてうずうずしていたけれど、上の人間(皇女殿下、公爵子息)が何も言わないのに出しゃばる訳にはいかないわぁ~状態だったところへ、リヴィエラが突破口を開いてしまった訳だ。


集中砲火を浴びてしまった当のリーナは、わなわなと震えながらリヴィエラを目を見開いて見詰めている。


リヴィエラは手を挙げて騒ぐ女生徒達を制した。貴族令嬢達は咳払いをしながら静かになった。リヴィエラは静まり返ったキャンプ場に良く通る声で話し出した。


「リーナ様はレイファやミルマイアに対しても不敬極まりない態度ですが、本来なら許されないことなのですよ?私達が貴賤問わず親しくしているからといって、リーナ様がいきなり私達の中に踏み込んで来て良い理由はありません。リーナ様が友人になりたいと仰るならそれなりに段階を踏んで、自然な形で信頼のおける関係性を築いていくのがいいと思いませんか?リーナ様は一方的に押し付けるだけで何も分かっていないわ、この世間知らずな私よりね」


「そ……あ…………い…の?」


リーナはわなわなと震えたまま、何かを呟くと走って川の方へ逃げ出した。


「まあぁ逃げ出すなんて…!」


「本当に不敬な方ね」


またご令嬢方が口々にリーナの事を責め立てていた。しかし私はそれどころではなかった。


「そんな、その台詞はミルマイアが言う台詞そのままじゃない…もしかして私、カッフェベルガルートに入っちゃったの?レイファは?レイファ…どうしてレイファが助けてくれないの?」


そう…確かにリーナはそう呟いていた。


本来のミルマイア…ゲームのキャラが言うべき台詞をリヴィエラが言っている。それはこの場面がゲーム内でも実際に起こるイベントだと言う事だろう。リーナは台本?通りに演じようとして同じシチュエーションを作り出した。


だが実際にその台詞を言いながら叱責したのはリヴィエラだった。


つまりは、しゃしゃり出て他班の手伝いをしていた主人公(リーナ)に私があの台詞投げつけて…まるで『主人公を苛める悪役令嬢』のような場面を作り、本来はここでレイファが


「リーナを苛めるな!良かれと思って手伝ってくれたんだろう!(仮)」


とか叫んでリーナを庇ってくれるイベントがあったんだろう。ただ残念なことに庇って欲しいレイファは釣りに行ってしまっておりませんが…。


しかしもっと気になることをリーナは呟いていたではないか。


「私、カッフェベルガルートに入っちゃったの?」


この呟きから察するにリーナを叱責するライバル令嬢がミルマイア→リヴィエラに変わったことでカッフェベルガ王太子殿下ルートになった…つまりは


カッフェベルガ王太子殿下とリーナの恋愛シナリオにリヴィエラが参加しちゃうということなの?


私が茫然としている間にも、シエナとリヴィエラはお互いにしょんぼりとしながらカレーを作り出していた。


「ごめんね、リヴィエラ。私考えなしにリーナさんを迎え入れちゃって…」


「そんな、シエナが謝ることはないわ。あの方が強引なのは分かっているもの…私もつい、我慢出来なくて怒鳴ってしまったわ」


「シエナ…リヴィエラ…俺の親戚がゴメン。何だか俺の両親にはあいつ、妙に受けがいいんだよ。猫被ってるって言うのかな?俺がきつく叱ると母親が逆に俺を叱るというか…兎に角ゴメン」


そう2人に謝罪してサエバートまでしょんぼりしている。


私はこの空間にいるのが気まずくなり、レイファ達の様子を見てくるね~と言って川の方へ逃げ出した。


さて…困った。


レイファルートからカッフェベルガ王太子殿下ルートに入った?ことによってリーナが寒ポエムを連発する相手が変わってくるということなのだろうか?


しかし現実的に考えて、うちの国の王太子殿下と地方の男爵令嬢が公には恋人同士にはなれないだろう。そして後々、妾その1くらいにはなれるかもしれないが、正妃は絶対になれない…まず不可能だ。そもそもだけど、このクソゲーがエンディングは結婚までシナリオが描かれていたのかも疑問だ。憶えてないって不便だね。


もしかすると


攻略キャラ:「好きです!」


主人公:「はい喜んで!」


そこでEDの歌が流れて~FIN…だったのでは?そこからが本番なのに~と前世の私なら画面に向かって叫んでいるところだがクソゲーにありがちな、痒い所に手が届かないシナリオだった可能性が高い。


そんなことを悶々と考えつつ…レイファ達の魔質を探して川縁を歩いていると、割と鬱蒼とした木々の下で釣りをするレイファとカッフェベルガ王太子殿下を見付けた。


周りには護衛のお兄様達がいる。お兄様達に、ご苦労様ですと声かけをしてからレイファ達の側に近付いた。


「どう?釣れた?」


レイファはニヤニヤしながらバケツの中を見せてきた。おおっ岩魚が5匹!おおっ殿下は10匹!


「まあこんなもんだよ~(ドヤァ)」


レイファはふんぞり返っている。いやいや、それどころではないよ。


「レイファ…ドヤッてる場合じゃないよ?炊事場では修羅場が起こっていたんだから…」


私は釣りを止めて片付け始めたレイファとカッフェベルガ王太子殿下に、先程の主人公と悪役令嬢のバトル(仮)の一部始終を話して聞かせた。


「あの女っ厚かましいな!何でわざわざ俺達の所に来るんだよ?リヴィエラは良く言った!」


「確かにリヴィエラ殿下の言う通りだね。林間学校の趣旨がそうだし、自分の割り当てを放棄するのは規律を乱しているし無責任だ。」


ズバーーッと攻略キャラ2人に切って捨てられるリーナの所業。いくらシナリオに沿いたいからといって常識外れな行動をしてはいけないよね。


「それなら急いで帰ろうか?リヴィエラ殿下が気落ちしているかもしれない」


と、カッフェベルガ王太子殿下が男前な発言をして、私とレイファの肩に手を置いて転移魔法を発動された。なるほど、魔法ですぐにリヴィエラ達の所へ帰るつもりだね。


「ザァパーーン…」


「ん?」


転移魔法で移動するその瞬間、私達の後ろの川縁で物凄い水音がしたけど?


一瞬で転移が終わり、炊事場に戻ってからレイファが


「すげぇ大きな魚が跳ねる水音してなかった?残って釣ってたら大物釣れたかもぉ惜しかった!」


とか言ってたけど、もう岩魚いっぱいあるんだしいいじゃない?と窘めておいた。


夕食のカレーと岩魚の串焼きを食べながら、カッフェベルガ王太子殿下は落ち込んでいるシエナ、サエバート、そしてリヴィエラを気遣いながらお優しい言葉をかけておられた。


気のせいでしょうか?カッフェベルガ王太子殿下とリヴィエラの雰囲気が良い感じなのは?カッフェベルガ王太子殿下に優しく慰められて、涙を堪えて微笑んでいる、リヴィエラの可愛い事っ…!


焚き火の仄明るい光の中、語らう高貴な方達を見て私はほっこりして、林間学校の一日目を終えようとしていた。



カッフェベルガ王太子殿下は、紫紺色の髪に菫色の瞳のイケメン様という設定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公がクソゲー忘れてんなーと思ってたのですがクソゲーはすぐに忘れますよね
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