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タイトルは忘れました

ゲーム発売前にあらすじを読み、キャストさんに推しがいてどんな声で囁いてくれるのかと心ときめかせ、ワクワクしていた気持ちをプレイしてどん底気分に落とされた乙女の皆様、ご機嫌麗しゅう。宜しくお願いします。


誤字修正しています


「うわっ本物?!胸でかっ!背も高い!」


今、何だか大昔に聞いたことのある名称で私のことを呼んだ気がするけど?何かしら?でも言葉使いの悪い子ね…。


私が怪訝な顔してその令嬢を見ていると、サエバートが人混みの中から飛び出して来ると


「リーナ!勝手にウロウロするなよ!」


と、その小柄な令嬢に怒鳴っている。もしかしてこの方が遠縁の令嬢?


と、思って小柄な少女を見ていたらその女の子は急に走り出して、な…なんと私の隣に立っていたレイファにタックルした。いや、抱きついたのかな?


「やだぁ〜!何かに躓いて転んじゃったぁ!」


と、しかも若干棒読み?と思わせる声のトーンでレイファにしがみついたまま叫んだ。


いつもは騒がしい控えの間が水を打ったような静けさだ。レイファ…固まっている?心配になってレイファの顔を覗き込んだ。


無だ。そうレイファは無の表情していた!まるで何もなかったかのように前を向いている。しかし目は据わっている。


「おい、サエバート。早く連れていけ」


「なっ…!」


レイファが抑揚の無い声でサエバートを呼んだ。まだレイファにしがみ付いたままリーナさんは小さく声を上げた。


サエバートは一瞬でこちらに走り込んで来ると、リーナさんをレイファから引き剥がした。


「リーナッ!ここは王家主催のデビュタントの会場だよっ?!君が住んでいた田舎とは違うんだ。レイファは公爵家の方だよ。本来なら不敬でここで捕まっていてもおかしくないんだよ?」


サエバートに引き剥がされてもリーナさんはまだ、事態が飲み込めていないのかキョトンとしている。


レイファは舌打ちしながら私を見た。あら?


「レイファ、タイが曲がっているわ」


「そう?…ん?」


レイファは私に向けて顔を上げて喉元を見せてきた。これは私にタイを直せ…ということね。別に珍しくもないレイファの仕草に私は手を伸ばしてタイを直した。


するとリーナさんが小さく悲鳴を上げた。な、なに?


そこへ控えの間の扉が開いて、城の侍従が入って来た。


「お待たせ致しました。只今より夜会を開催致します。お名前をお呼びする順番にてご入場頂きます。」


「やっとか〜」


「お腹空いちゃった」


レイファの差し出した腕に手を置くとお互いの身だしなみをチェックした。


「私達が呼ばれるの、デビュタントの方々の前よね」


「最後の方だよ、皇太子殿下とリヴィエラの前かな」


レイファの言うとおり、身分的にその辺りだろう。レイファは私のドレスの背中のラインを見た後に、優しく微笑んだ。


「ミルマイア、今日のドレス似合ってるな、素敵だ」


そう…ここ最近はレイファが夜会のドレスもよく誉めてくれる。おまけに時々ドレスも贈ってくれるのだ。訳を聞いても


「未来の嫁への予行練習」


と、言うのだが…多分アレだね。レイファに恋人なり奥様なりが出来た時に、ドレス選びに失敗しない為に私で練習してるんだね。


「レイファもいつも格好良いけど今日も素敵だね」


私もレイファの練習と違って、心からの賛辞をレイファに送っておく。


いやぁ〜うちのレイファ君は本当にイケメンさんだね!


「嘘っ?!」


私達の後ろに居るリーナさんからまた、悲鳴が聞こえる。本当にどうされたのだろう?


そして次々と出席者の皆様が会場入りされて、やっと私達の番が来た。レイファの予想通り私達はリヴィエラと皇太子殿下の前だった。


そして、リヴィエラとリスファンテ皇太子殿下のご紹介の後に、デビュタントの令嬢達が入場して来た。サエバートとリーナさんは…というと、リーナさんはキョロキョロしている。あれはいけない…。落ち着きのない令嬢だという印象を与えてしまう。


このデビュタントと言うのは、一種の青田買いの品評会みたいなものだ。磨けば光る令嬢の原石を探しに未婚の貴族の子息やその両親が目を光らせている。


言葉は悪いがここで自分を売り込めば、上位貴族の子息に見初められて…なんて夢物語も起こりうるのが、この夜会なのだ。


侍従の方が国王陛下夫妻と王子殿下お二人の来場を知らせる。私達は腰を落として、礼を取った。


そして夜会が始まった。私は一曲目をレイファと踊ると、ウキウキしながらスイーツビュッフェのテーブルに向かった。


「ミルマイア~俺、座ってるわ〜。適当に俺の分の菓子も持って来て」


「ちょっと根性無いわね、分かったわ。座ってなさいよ」


レイファは踊っている時はイケメンビーム?を出していたのに今は萎れたおじいちゃんみたいな魔質になっている。


疲れんの、早っ!


私は優雅に移動しつつ、心の中では猛ダッシュでスイーツビュッフェが盛りつけられたテーブルに向かった。


そして取り皿を手に持つと素早く目を動かしてケーキの種類を確認する。狙いを付けるとプチケーキがピラミッドのように積み重ねられているお皿から、果物系のプチケーキを数種類取り分けた。


あれ?チョコ系のケーキが無いわ…。このピラミッドの反対側かな?


私は素早くピラミッドの裏側に回った。裏側には先客がいた。


おや、いつも夜会で私と共にスイーツのテーブルを温め合っている、ウマデイト伯爵さんちのデボラ嬢がいらっしゃる。


「デボラ〜」


「ミルマイア、今日もここで会えると思ってましたわ!」


お互いにニヤニヤしながら笑っていると、私達のいるピラミッドの反対側からものが倒れる音がして、女性の悲鳴が聞こえた。


「何かしら?」


「何でしょう?」


デボラと二人、ピラミッドの向こう側を覗き込むと、そこには尻餅をついているリーナさんとそのリーナさんに巻き込まれたのか、メイドの女の子が転んでいるのが見えた。


するとリーナさんはカッと目を見開き前を指差している。


「あの方に押されました!私が可愛いのなんてあなたには関係ないじゃない!あまりにひどい言い方だわ!」


ピラミッドタワーの向こう側は私には見えないけど、その押した誰かがいるのかな?


まあいいか、私には関係ないし。私は首を引っ込めると


「デボラ、苺のムース食べられました?」


と、私の隣で同じように覗き込んでいたデボラに聞いた。


「え、あ、はい。上に乗せているホイップの酸味がまた絶妙で〜そうそう、今回このチョコパイのカカオが一味違って…」


私とデボラはチョコパイの置いてある皿に急いで移動した。そこでホクホクしながら、チョコパイを取り分けていると、デボラと私の後ろにさっき転んでいたリーナさんが急に走り込んで来た。


何かしら?


リーナさんは顔を真っ赤にしながら、私を指差した。


「私はあなたが支配する学園に自由を取り戻してみせるわ!あなたの嫌がらせにも負けないわよ!」


ん?誰に言ったの?


思わずデボラを見てしまう。


「この方デボラの知ってる方?」


「いえいえ?初めてお会いします…え?なんでしょう…」


ですよね、私も今日初めて会ったし…。しかし今の言葉、どこかで聞いたことあるなぁ。言葉…台詞…。ん?ゲームか?


私は首を捻っていた。思い出そうと頑張っていた。するとリーナさんが小さい声で


「うそ…ここでミルマイアが高笑いで宣戦布告してくるイベがあるよね…」


と呟いたのが、聞こえた。


何だって?イベントって今、言った?


「あの、リーナ様でしたよね?私あなたと今日が初対面ですわよね?」


私がそう聞くと返事もすることもなく、リーナさんはクルリと踵を返すと、人垣の向こう側に消えて行った。


「変わった方…ですわね?」


「え…?あ、そ、そうね。変わった方ね」


デボラに聞かれて慌てて返事をした。


今、心底びっくりしている。


あのリーナさんの言葉、どこで聞いたか思い出したからだ。


私は内心の動揺を隠して、デボラと更にお菓子を摘まんでからレイファの所に戻った。


するとレイファの横のソファーに大胆にもリーナさんが座っていた。そこは私が座るつもりだったんだけどな…と、思っていたらレイファが私を見て


「遅いぞ〜何やってたんだよ。ああ、君そこはミルマイアが座るから退いてくれる?」


と横のソファに座っているリーナさんに言い放った。


あ、確かこれに似たイベントあったよね!と、台詞を思い出そうとしているとリーナさんは小さく悲鳴を上げながら、言ったレイファ本人を見ずに私を睨みつけながら叫んだ。


「確かに私は一輪の小さき花…あなたのような大輪の薔薇には負けるけど、私の輝きは誰にも消せないわ!」


ひええぇ寒っ…。ださポエムだ!私はやっと思い出した。


このリーナのポエム…ベタ過ぎてプレイ画面を見ながら鼻で笑ってしまった、夜会で田舎者の主人公を苛める令嬢のイベント。


当時、この台詞を聞いた私はゲーム画面を見ながらくそダサくて鳥肌がたったのもついでに思い出した。


どうしたもんかな…。


私、どうやら自分がクソゲー認定したゲームの中に存在しているようです。


取り敢えず、これ以上リーナから鳥肌ポエムを聞かされたくないので、もう一回スイーツビュッフェに戻ろうかな?


「レイファ、ビュッフェにもう一度行ってくるわ」


私はゆっくりとビュッフェに戻りかけた…が、目の前に急に壁が出来てぶち当たりそうになった。


壁の正体はレイファだった。転移魔法で私の前に飛んで来たようだ。


「俺も行く。腹も減ったから軽食も食べたい」


あら?そう


レイファはそう言いながら、私の持っている皿に乗っているプチケーキを食べている。


「美味いな、これ」


思わず笑顔になる。レイファは私の腰に手を回すと、ビュッフェの方へと私を連れて歩き出した。


その私達の後ろで主人公(リーナ)の叫び声が上がった。


「それ、私のイベじゃない!ライバル令嬢のくせに邪魔して何やってんのよ!」


リーナのイベント…。


私は聞こえないフリをしてレイファとスイーツビュッフェの所に行った。


そう、私は自分がクソゲー認定したゲームの中にいるのは間違いないようだ。あのデフォルト名の主人公、リーナも先ほどから叫んでいる言葉を考えると彼女も元日本人の転生者だと推察される。


そうしてどうやら私はこの世界のリーナ(主人公)の敵キャラのライバル令嬢らしい。


ここで今までの状況を整理しよう。


この世界は女性向け恋愛シミュレーションゲーム『リーナの寒いポエムを聞くゲーム(仮)』の中だ。


タイトルは正直に言うと忘れた。クソゲーなんかに構っている暇はなかったからだ。常に新しいゲームを求めるハンターは、過去のクソゲーにいちいち心を砕かないのだ。


だから内容も無いようなクソゲーのことなど覚えていなかったのだが、先ほどの寒ポエムを聞いて余りのクソゲーっぷりなこのゲームを思い出したわけだ。タイトルは完全に忘れたけど…。


兎に角このクソゲーの特徴は


その1、主人公のポエム(台詞)がくそ寒い。


その2、恋愛シミュレーションのくせに、最初から好感度MAXでシナリオに恋愛の過程の描写が一切なく、好きになるドキドキ感を全く味わえない親切設計。(余計なお世話)


その3、無駄に豪華な男性声優ばかりを起用するも、その殆どが非攻略キャラのCV。しかも発売後すぐに続編ディスクの発売を発表。更にその非攻略キャラ達が続編で攻略対象に格上げの後出し商法。だったら最初から続編を買うのにふざけるな!とSNSが炎上。


今、思い出す限りはザッとこんな感じだった…おそらく。何か他のクソゲーと記憶が混同している可能性もあるが概ねこんな感じだ。


そして思い出したのがもう一つある。私の横でサンドウィッチをモグモグ食べている、レイファ=ヴィッツハンバーも続編ディスクで非攻略キャラから攻略対象に格上げされたキャラだった。


レイファがキャラクターだったのだ…とんでもない衝撃だ。


「そのパイも美味しいな」


レイファは嬉しそうな笑顔を私に見せている。この彼がキャラクター?そして私もキャラクター?レイファのデータを抽出すればデータで構築されたプログラムの存在なの?


全然実感が湧かない。私自身は毎日お腹は空くし、眠くもなる…一日24時間あって365日。そうやって嬉しい事も辛い事も、この16年間そうやってこの世界で生きてきた。


それにレイファがリーナ(主人公)とどう言うやり取りをしてゲームの攻略を進めていたのか全く覚えていないのだ。


クソゲーにありがちな、内容が無いようぅ~だった可能性もあるが、覚えていない。


一瞬、リーナ(主人公)の為にライバル令嬢を演じてやろうか?と思ったが…。


どうして私がクソゲーの為に自分を殺してまで、演じてやらなきゃならんのか?とフツフツと怒りが込み上げてきた。生前の私も何もクソゲーをやりたくて高額なゲームを買っていた訳ではない。楽しそうだな~とか、綺麗なキャラデザだな~とか発売前はワクワクして、発売日に通販で届くのを待っていたのに、いざプレイしてみれば、あの体たらく…。


クソゲー共に言いたい。真面目に仕事しろ!ゲームなら面白く楽しいエンタメを提供しろ!


ちょっとスッキリした。


誰がクソゲーの為に心を砕いてやるものか!製作者?の意図としてはライバル令嬢がしっかりライバルしなくちゃリーナ(主人公)が目立たないから困るのだろうけど、そんなに主役を張りたいなら自力で頑張ればいいんだよ!私は頑張らないよ?今まで通り、面白可笑しく友達と過ごしていくからさ。


ところがだ


リーナはへこたれなかった。へこたれるどころか益々レイファに近付いて行ったのだ。


リーナは主人公の特殊能力?で私達と同じ国立の魔術学園のSSクラスに編入してきて、レイファに猛アタックを開始した。


なるほどね、君の推しメンはレイファか。レイファルートを攻略したいんだね。


そして勝手に攻略してくれて構わないのに、私なぞ無視しておけばいいのにレイファといると必ずあの寒いポエム(台詞を)朗々と歌いながら近づいて来るのだ。


「私とレイファの間にまた貴方は立ち塞がるのね〜。まるで氷山のよう〜」


ポエム寒っ!氷山も寒っ!しかも手元のメモをチラチラ見ながらポエムってんじゃないよ!


私さ〜このクソゲーの何が嫌だったか、段々思い出してきたわ。


この意味の無いポエムが苦手なんだよ。実はゲームの序盤でこの寒ポエムの台詞にも何か意味があるんじゃないかと思って、メモってたりしたのだけど、王太子?か近衛だったか?を攻略し終わった時に気が付いたのよ。


制作サイドはただただ、この寒いポエム(台詞)を言いたいだけだったってことに。これがゲーム攻略のキーアイテムになるのかと思い、いちいち画面をpause状態にして寒いポエムを書き付けた、汗と涙の結晶の大量のポエムぎっしりメモ紙を、ゲーム画面に渾身のナックルカーブで投げつけたわ。


ふざけんなっクソゲー野郎!


○○クエや、荒野で口笛吹くRPGの中で出てくる呪文や暗号をメモる習慣がつい出てしまい、A4のコピー用紙にびっちり寒ポエム書いてしまった自分をぶん殴りたかった。


もう寒ポエムゲーなんて忘れたいのにさ、リーナ(主人公)が目の前でチラチラするから嫌でもこのクソゲーのクソゲーっぷりを思い出してイライラするばかりだった。


それでここ最近はリーナとの遭遇を回避していたのだった。


BGMが大きく録音されているのかキャストさんの声が囁きボイスで全然台詞が聞こえないゲームがありました。あれはバグでしょうか?

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[一言] 主人公の寒いポエムを聞かせられるゲームはつらいなと思いました
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