双子幼なじみのいたずら耳かき♪
「おーにーいーちゃーん」
「ああああああああ!?」
急にかけられた声に驚いて思い切り仰け反ってしまう。
すると、直後に後頭部に鈍い衝撃。
「「でっ!!」」
どうやらそれは相手も同じようだった。
「いった!!ちょっとお兄ちゃん鼻!鼻打ったんだけど!?」
「二人ともお間抜けさんねー」
後ろを見ると涙目で鼻を押さえている女の子と、それを見て笑っている女の子がいた。
「何しに来たんだ」
そう問いかけると、二人はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「「もちろん、遊びに来たんだよ!!」」
同じような顔をした二人が、同じ言葉を同じタイミングで言い放った。
「というわけでお兄ちゃん、相手して」
「してー」
「今の状況を見てくれない?」
「「ええー」」
不満そうに声を上げる二人。
こいつらは俺の幼なじみの百草園蒔絵と辻利。俺の二つ下の年齢で、今は高校三年生だ。
「レポートなら蒔絵たちと遊んだ後でもできるでしょー?」
「そうだよ」
「パソコンでレポート作りながら手書きで記録も取ってるんですよ、勘弁して?」
こいつらは俺の予定とかお構い無しに遊びに来る。
とりあえず雨が入ってくるので部屋の窓は閉めてほしい。
「というかお前ら忍者かよ。何で音も立てずに窓から部屋に入ってきてんの?」
「そんなわけないじゃん。ちゃんとお邪魔しますって言ったし」
「お兄ちゃんが気づかなかっただけだよ?」
「…………そ、それくらい集中してやらないといけない課題なんだよ。今日はお引き取りください」
「え、やだ」
「やだ!?」
平然と言い放つ蒔絵と、ニコニコしている辻利。
いやまあ、レポートの提出自体は来週の金曜日だからまだ焦る時間じゃない。
でも早く終わらせて解放されたいじゃないですか。
「というかお前ら受験勉強はどうしたんだよ。そっちも高校三年生だろ」
「お兄ちゃんに教えてもらうから平気」
「そんな暇じゃないんだけど!?」
「だって蒔絵、お兄ちゃんと同じ大学に行くし」
「あ、そうなの?辻利は?」
「んー、蒔絵と一緒かな」
こいつら同じ大学に来るのかよ……。
そしたら今まで以上に面倒見る羽目になるんじゃ……。
「だからお兄ちゃんに受験勉強見てもらうから平気!」
「いやまず日頃から勉強しろ」
「面倒だよ」
「俺はその面倒を一人で乗り越えて大学受かったの!!」
面倒じゃねえんだよ。
「そりゃ、お兄ちゃんは男だからねえ」
「そういうのセクハラに該当するからな!?」
「だって辻利!」
「知らなかったねー」
ああどうしよう、すでに疲れた。
ここは一つ、こいつらを無視して課題をやろう。
机に向き直り、レポート作成を再開する。
「ちょっとお兄ちゃーん?」
「お兄ちゃん、無視ー?」
俺には妹がいないのでお兄ちゃんと呼ばれる事に対しては悪い気はしない。
でも今は正直うっとうしい。
「お兄ちゃん、どうしても蒔絵たちに構ってくれないらしいよ」
「うーん、どうしようねえ」
ガサゴソと、蒔絵と辻利が何かしているのが聞こえる。
恐らく俺の集中を切らす為に何か仕掛けてくるのだろう。
正直後ろを気にしている時点で集中も何もないけど、まあいいだろう。
これは俺vs蒔絵と辻利の勝負だ。
俺はこのレポートを出来るところまで進めてみせる!
「「じゃあまずは」」
そういった直後、首筋に何かが当たった。
くすぐったさで声を出しそうになるも、俺はそれを耐える。
「あはは、今ビクってしたー」
蒔絵がケラケラ笑いながら俺の首筋を何かで撫で続ける。
「お兄ちゃん、どーお?」
反対側からは辻利も同じようなことをしてくる。
しかしこういうのは段々続けてくると慣れるものだ。
この感触は……二人の髪だ。
蒔絵も辻利も髪は肩甲骨のあたりより長い。
恐らく髪の先端で俺の首筋を撫でているのだろう。
「反応なくなっちゃった」
「別のことしないとね」
いや正直やめてほしいんだが……受けて立とう。
「次はどうするー?」
「もっとお兄ちゃんを困らせよう」
おいコラ何するつもりだ。
「これとか良くない?」
「あ、じゃあ蒔絵はこれでお願い」
用意できたのか、俺の背後に立つ二人。
何だ、何してくるんだ。
カッ!
……ん?
カカッ、カッ!
両側から聞こえる音。
そして、どちらかのスマホからサンバ調の音楽が流れ始める。
カカッカッ、カカッカッ!
カスタネットか、何してんだこいつら。
蒔絵と辻利は音楽に合わせてカスタネットを鳴らしている。
へえ、耳元でカスタネット鳴らされるとうるせえもんだな。
かなりうっとうしいが、我慢出来ない範囲ではない。
むしろ音楽がいいBGMになっている。
「辻利、お兄ちゃんの作業効率が上がってるよ」
「早く終わるならそれはそれでいいんじゃなーい?」
残念ながらそんなにすぐ終わる課題じゃねえ。
てかすぐ終わるなら後回しにしてるわ。
「今はお兄ちゃんの邪魔をするのが蒔絵たちの役目だよ!別のにしよう!」
「はーい」
音楽とカスタネットが止み、またガサゴソと音が聞こえる。
なんだよ、ちょっとノッてきてたところなのに。
ってか邪魔する役目ってやめろや。
「お兄ちゃん、結構手強いね」
「きっと辻利たちがよくこういうことするから慣れてるんだよ」
確かにそれもあるかもしれない。
「じゃあ……アレで行く?」
「アレ……?ああ、蒔絵に任せるよー。辻利はできないからね」
……蒔絵にできて辻利にできないこと?
そんなことあったっけか。
「できないことはないでしょ」
「えー」
どういう意味で言ってるのか分からないけど、あっちの話が進まないうちにこっちの課題は進めてしまおう。
「一緒にやろうよ」
「自信ないなー」
「いいからいいから!いくよ!」
「えー」
後ろから蒔絵と辻利がゆっくり近づいてくる。
「うー」
未だに嫌がっている辻利だけど、そんなに嫌なのか。
ほんとに何されるんだ。
「えーい!」
「え、えーい」
左右から蒔絵と辻利が抱きついてきた。
そして、俺の両肩に押し付けられる何か。
……なるほどね?
辻利が嫌がっていた理由が何となく分かった。
蒔絵と辻利は顔も髪型も身長も似ているが、決定的に違う点が二つある。
まずは声。蒔絵の方が若干低く、辻利は高めの声だ。
そしてもう一つ、それは胸だ。
「蒔絵に全部持ってかれた」というのは辻利がよく言っていることで、蒔絵はそれなりにあるが辻利はぺったんこなのだ。
双子なのに差があることを辻利は結構気にしていた。
「お兄ちゃん、冷静ぶってても字が震えてるしタイプミスしてるよ」
「鼻の下も伸びてるねー」
集中できるかこんなもん。
胸なんか当たってて集中できる男がいたらそれは僧かゲイだ。
それに辻利だってぐいぐい押し付けてくるせいでちゃんと当たっている。
というかそのせいで揺れるから字なんて書けねえ。
「だーもう分かった分かった!俺の負けだ!」
二人の攻撃に耐えることができず、俺は完全に手を止めた。
耐えられるかあんなもん。
「「いえーい!!」」
ハイタッチをする蒔絵と辻利。
そんなに俺のこと邪魔したかったのか……。
肩に感触が残ってるし……。
「で、これから何するんだよ」
「そうだねぇ」
「なにしようかー」
決めてねえのかよ。
「あ、じゃあアレだ!」
「アレかー」
「どれだよ」
というかアレで通じるのすげえな。
さすがは双子。
「手を止めてこっち向いてくれたお兄ちゃんにー……蒔絵と辻利からのごほうびー♪」
「……なあ、ほんとにこれでいいのか?」
「いい光景ー♪」
「辻利さん?」
俺は座ったまま目隠しをさせられた。
そして辻利が不穏だ。
もしかしたらSっ気があるのかもしれない。
「何をするのか教えてくれよ」
「大丈夫だよお兄ちゃん、すぐに分かるから」
「痛くしないよー」
さっきの発言の後だと辻利のこの言葉ほど説得力の無いものはない。
痛いことされるんだろうか。
それとも……。
「お兄ちゃん何か期待してるみたいだけどそういうのじゃないからね?」
「……」
「ふふ、お兄ちゃんはすけべだねー」
人に胸を押し付けておいてよく言うよ。
まあ妹みたいなやつらだし手を出そうとは思わないけど……。
「お兄ちゃん、危ないから動かないでね」
「動かなければ痛くないからねー」
やっぱ痛いことなの!?
身の危険を感じた瞬間に、俺の両耳に何かが侵入してきた。
思わず背筋を伸ばしたが、痛いものではないことに気づいた。
これはむしろ……。
「お兄ちゃん、何だか分かった?」
「……綿棒か?」
「「あったりー」」
なるほど、ご褒美は耳掃除だったのか。
この二人もたまには気が利くじゃないか。
綿棒が耳の壁をこする音が気持ちいい。
「お兄ちゃんもしかして最近お手入れしてなかった?」
「汚いねー」
そんな直球で言われるとちょっと傷つくんですが……。
まあ確かにやっていなかったのは事実なので仕方ない。
次からちょっと気にしてみよう。
「それにしてもお兄ちゃんまだ顔赤いね」
「辻利たちをそういう目で見てたんだねー」
「違うから」
「あっはは、説得力なーい」
「ねー」
いやまあ、不覚にもドキッとはした。
まさか蒔絵や辻利がそんなことをするとは思ってなかったからね?
「まあそれよりもー……どう?綿棒気持ちいいでしょ」
「でしょー?」
「そうだな……できれば目隠しは取って欲しいけど」
「そーれーはーダーメー」
「今お兄ちゃんにすっごく近いからね〜」
いきなり耳元で囁かれて、若干背筋が震える。
「またお兄ちゃんビクってした」
「気持ちいいんだねー」
ゾワっとしたからビクっとしたんだけどね?
ただ、耳の中でガサガサいっているこの気持ち良さは本物だ。
「あれ、綿棒変えなきゃ」
「汚れされちゃったねー」
「変な言い方をするんじゃない」
辻利は狙って言ってるんだろうか。
耳から綿棒が抜け、また新しい綿棒が入ってくる。
そして耳の中からはまだガサガサ音が鳴っている。
そんなにしてなかったっけ。
「こんだけ溜めてるんだからお兄ちゃんのお耳の管理は蒔絵たちがしてあげないとねー」
「そうだねー」
「彼女か何かかよ」
「んー?何お兄ちゃん、もらってくれるの?」
「そんなこと言ってないけど」
「辻利、お兄ちゃんは蒔絵たちのこと嫌いみたいだよ」
「泣いちゃうねー」
「そこまでも言ってねえよ!?」
彼女って感じはしないんだよなあ。
やっぱり妹という感じが強い。
「お兄ちゃん、大学で好きな人とかいるの?」
「好きな人……うーん」
「悩むってことはいないねー」
「決めつけるのはえーなオイ!?」
いやまあいないけど!!
辻利さんは容赦ないですね。
「いないなら蒔絵たちがいつでも相手したげるからね」
「ねー」
「そういうお前たちは好きな人いないのかよ。高校だって共学だろ?」
「辻利はいるかなー」
「あ、いるんだ。じゃあ俺にこんなことしてる場合じゃないのでは?」
「ふふー。お兄ちゃんは別だよね」
聞いたことなかった。
「蒔絵は今いないんだよねー?」
「う、うん、まあね」
お、何だ今の反応。
もしかして蒔絵も好きな人ができたのか?
そうなら俺は応援するぞ。
「あ、奥におっきいのがある。とっちゃうねー」
辻利が綿棒を若干奥まで突っ込む。
大丈夫だろうか。
「蒔絵の方はいい感じだから今度はこれ使うね」
左耳の綿棒が抜けて、代わりにもっとふわふわしたものが入ってくる。
梵天か、これ気持ちいいんだよなあ。
なんというか、眠くなる。
「あ、お兄ちゃんのお口が緩んだね〜」
「取れるかな〜」
左耳のふわふわとは対照に、右耳は大物の摘出に難航しているらしい。
あー、梵天のせいか眠くなってきた。
最近課題をやるのに睡眠時間削ってたからなあ。
ずぞっ!
「うおっ」
「あっ、取れた〜」
「あっはは、お兄ちゃんビックリしてる!」
少し大きな音がして、綿棒が抜けていく。
どうやら大物が取れたらしい。
「よーし、こっちは終わり」
「蒔絵、それ貸してー」
「ほい」
「じゃあこっちも〜」
今度は右耳に梵天が侵入してくる。
心地よい刺激にすでに寝落ち寸前だ。
「あれ、お兄ちゃん?」
「……」
「辻利、そろそろ目隠し取ってあげようよ」
「そうだねー」
何かが外される感触。
しかし、抗えない心地よさに反応ができない。
眠気って急に来るものだよなあ……。
「ありゃ、完全に寝ちゃったね」
「辻利たちの大勝利だねー」
「お布団に運んであげよ」
「あ、運んだら辻利は帰るねー」
「バイトだっけ。頑張ってね」
……柔らかい。
えーと確か……蒔絵と辻利が……何だっけ?
「お、お兄ちゃん!?」
「ん!?」
蒔絵の驚いた声に自分も驚き、目が覚める。
そこは、蒔絵の膝の上だった。
……膝枕、とな。
「も、もう、お兄ちゃんがいきなり太ももを撫でるからビックリしたよ」
「おおごめんごめん、柔らかかったぞ」
「えっち……」
スカートで膝枕をする方が悪い。
「あれ、辻利は?」
「お兄ちゃんが寝てすぐバイト行ったよ」
「なるほどね」
結構ぐっすり寝てしまっていたらしい。
あたりは結構暗くなっていた。
「って、めっちゃ雨降ってるじゃん」
「そうそう、帰りづらくなっちゃった」
雨が屋根を叩く音が静かな部屋に響いている。
「なんだ、ずっと膝枕してくれてたのか。申し訳ないな」
「いいのいいの!喜んでくれたみたいで何よりだよ」
膝枕から離れると、蒔絵は布団の上で体育座りの姿勢のまま動かなくなった。
チラチラと、こっちを見てくる。
「お前辻利がいないと大人しくなるよな」
「そ、そんなことないよ!?」
そう言いながらも、蒔絵は動こうとしない。
まあいいか。
「ねえお兄ちゃん、今日さ」
「うん?」
「これだけ雨降ってるし、泊まっていってもいい?」
俺は知っている。
辻利もそうだけど、こいつらのお願いは……。
「どうせダメって言っても無理やり泊まるだろ」
「あっはは、よく分かってるじゃん」
そして蒔絵が泊まるということは、バイトが終われば辻利も来るだろう。
課題進めたいんだけどなぁ……。
「ふふ、じゃあお兄ちゃん、久しぶりに今日は一緒に寝ようねー」