プロローグ
初めまして、木箱てぃっしゅと申します。
頭の中はいつも、どっかんずどーんと魔法が飛び交う戦闘好きです!
初作品です、至らない点もあるかと思いますが温かい目でお楽しみ頂けたらと思います!
──この世界はどこまでも、不条理と理不尽に満ちていた。
世界は産業革命という華々しい歴史を迎えてからすでに三千年。
もちろん、──この間にさまざななことが起きた。
人類はこれまでに世界を巻き込んだ戦争を四度も繰り返す。これにより、世界中の人口は全盛期の二十分の一にまで減少し、不毛な地が数多く生み出されてしまった。
──それでも人間という生き物は実にしぶとい。
人類は殺しかけた星を技術という暴力をもって延命して、種の生存を勝ち取ったのだ。
だが、そんな悲惨な世界大戦は、かれこれ五百年も前の話。
最後の大戦が終結した後、それぞれが平和を謳歌した。
けれど、専門家はよく言った。──『次こそ世界大戦が勃発したならな、間違いないく地球のみならず太陽系すらも巻き込んで自滅するだろう』と。
これまでの歴史を学んだものならば、これが笑い話にならないことを知っているだろう。
第四次世界大戦では月が消滅し、海が蒸発した。
まったく、月を軍事攻撃に使うなど馬鹿げた話だ。
五百年前でその技術があるならば、今なら地球を一撃で粉砕するようなものができてもおかしくない。
歴史上、人間は石器時代や中世というように、ある期間に名称を与えて区別した。
そして今の時代は、──『限界期』と呼ばれている。
由来は簡単だ。──もうこれ以上解明しようがないまでに科学、工学、技術が到達してしまったのだ。
故に、生きている人類は世界大戦をしようものなら、世界が終わると知っている。
しかし、人間という生き物は本当にどうしようもない。
──再び、第五回目の世界大戦、またの名を終末戦争が勃発した。
原因は実にくだらない。
──ある国々が団結して国家間の調和を平然と滅茶苦茶にするほどの自己利益の追求を行ったのだ。
喉元過ぎれば熱さも忘れるとはよく言ったものである。
無論、そうなれば軍事行動に移した国々に抗うように、侵略を受ける国々は連合として抵抗を始める。
──そうして、大戦が始まって二十日が過ぎた。
大戦は終局、軍配は必死の抵抗を見せた連合軍に上がった。
この時代にもなると、作るのも壊すのも一瞬である。
だが、勝敗は明らかに決して侵略軍に挽回の余地がない状況でありながら降伏をしない。
徐々に追い詰められた侵略軍のトップは、決して手にしてはいけない引き金に手をかける。
それは誰一人として得をしない選択。
──太陽系すら破壊する兵器による心中だった。
自滅兵器に手を出したという情報を手にした連合軍は、それを阻止するべく最大の力をもって自滅兵器の破壊に乗り出した。
当然、その行動に軍を裂けば守りが多少薄くなる。
よって連合軍は太陽の光の下で生活をしていた国民に避難を要請する。それにより、多くの人間が地下シェルターに避難することになる。
ただ、急な要請だったこともあり、どこの地下シェルターも人が捌き切れず待機列を作っていた。
当然、その待機列は子供から老人まで様々である。
「大丈夫か、ゆりな?」
「うん、大丈夫」
黒髪黒目の少年──十織は妹のゆりなの身を案じる。
ゆりなは新雪に空の蒼を思わせるフロスティブルー色をした長髪の十一歳の少女であり、妖精のように人間離れした可愛らしさであった。
「本当に?」
「大丈夫だって」
元気そうに笑うゆりなを、十織は過剰なまでに気を遣う。
これには原因があり、十織は今勃発している第五次世界大戦──またの名を終末戦争の初頭で両親を失っていた。
この時代、男女関係なく戦争に駆りだされる。
その為、十織とゆりなの両親は兵役として戦争に向かった。
けれど十織とゆりなの両親は帰ってくることはなかった。そのかわりに、兵役が満了した日より一週間後、遺骨を持った兵隊が十織とゆりなの元へやってくる。
当時──十織は泣き崩れながら、世界の身勝手さを憎んだ。どこまでも、唐突にやってくる不条理に発狂した。
その頃からだった。十織は大切な人を失うことに過度の恐怖心を持つようになったのは。
「何かあったら、いうんだぞ? いいな」
「お兄ちゃんこそ、無理しちゃだめだよ?」
「もちろん」
十織はゆりなの頭を撫でる。それをゆりなはくすぐったそうな様子と共に、可愛らしくはにかんだ。
こうして、十織とゆりなは地下シェルターに身を預け、脅威から身を隠した。
ここに来てから、どれだけの時間が経ったのだろう。久しく太陽も青空も見ていない。あるのは、不格好な鉄製の壁による圧迫感とそこはかとなく湧いてくる心の悲鳴だけである。
「お兄ちゃん……、いつになったら外に出られるのなか?」
上着の端を引っ張り、尋ねるゆりな。
ここでは滅多に会話が起こらないので、あたりの視線をかき集めたがそれも一瞬。十織は不自然で空っぽな笑みをゆりなに向けて答える。
「ゆりな、それはおれにもわからない」
「そうなんだ……」
ゆりなはしょんぼりと表情を暗くする。
十織はゆりなを気にして、慰め程度にしかないならない言葉をかける。
「今は不足の事態に備えているだけみたいだから、きっとすぐ出られるよ」
「ゆりなも早く外に出たい」
この気まずくなった十織とゆりなの空気を和ませようと、適当な話題を振った。
「ここから出たら、何をやろっか? おれはジューシーなお肉が食べたいな」
「ゆりなは、ケーキが食べたい!」
「いいね、おいしいそう。味はやっぱ、ビターチョコレートなのか?」
「もちろん! 生クリームは甘すぎる……」
十織は、十一歳にして生クリームを甘いというゆりなの味覚に苦笑いをする。もっとも、十織も生クリームのくどい甘みを得意としてなかったけれど。
「やっぱ、早く出られたらいいな……」
「うん……」
十織はゆりなから目をそらし、暗く湿った地面を睨んだ。
地面を睨んだところで、何にもならなことは十織にだってわかっている。
それでも、この現状を強要する世界の首脳陣に腹を立てずにはいられなかった。
──そう、いつだって勝手な都合なのだ。
ここまで文明を発展させてなお、そのようなくだらない出来事がなくならないことに十織はため息をこぼす。
「……お兄ちゃん?」
ゆりなは険しい形相に変えている十織に声をかけた。十織もすぐに切り替えて、平常を振る舞う。
「ごめん、ちょっと考えごとしてた」
「大丈夫? ちょっと怖かったけど……」
「もう大丈夫、わるかったな」
十織はゆりなの頭を撫でた。ゆりなの髪はとても柔らかく、風が吹けばすぐに飛んでいってしまいそうなほど華奢で繊細であった。
ゆりなはフロスティーブルーの綺麗な髪を揺らして、可愛らしく笑う。
しばらくして、再びこのシェルター内の静寂が破られる。
──それも、一人によってではなく複数名であった。
「な、なんだあれ!?」
「くるなぁあ!」
「どうなっている、上から何も情報はないのか?」
言葉の内容が切迫したものであったため、シェルター内にいる全員の意識をかき集めた。
十織とゆりなも例に漏れることなく、声のした方向を注視した。
「何あれ……」
「……わからない」
ゆりなは十織に説明を求める。
だが、十織もそこで起きているものを見て思考が停止する。
──そこには、まるでありとあらゆる遮蔽物を無視するかのように、等速で浸透する正体不明の白い光が広がっていた。
それは一度浸透すると、その物資は同様に白い光を放ち始める。これは人間も例外ではなく、光により近くいたものは白い光を発していた。
周囲の人たちも異常事態であることを察して、あっという間にシェルター内はパニックに陥る。
「ゆりなっ!」
淡々と辺りを侵食する光からゆりなを庇う。
しかし、それも甲斐無く光と接触した十織とゆりなは、周囲の人間同様に白い光に包まれてしまった。
「怖いよ、お兄ちゃん」
「怖いな。……でもお兄ちゃんがついてるから大丈夫だぞ」
この普通ではない状態で、焦りや恐怖を感じず平然としていられるならば、それはただ純粋に危機感が欠如しているだけであろう。
遅れて、シェルター内に備え付けられていたスピーカーに電源が入れられる音を耳にする。
『──避難者は決してパニックに陥らず、速やかに頭を守るようにして待機してください』
「なるほど……」
「なに……?」
国がこうして地下の様子も知らずに指示を出したということは、敵国が兵器を使用したのだろう。
そうだとするならば、この白い光は敵国の兵器によって生み出されたものになる。
また、この地下シェルターは地下千メートルに存在するらしい。
これほどの地下にまで光が侵食しているならば、きっとこの星全体がすでに白色に包まれているに違いない。
「星すら殺す気なのか……」
専門家の言う通り、本当に人類はこの星や太陽系を巻き込んで自滅するつもりなのだろうか?
「なんだこれは!?」
「助けてくれ!」
さらにこのシェルターを侵食した光の強度が一層強くなった。それに伴って、周囲の人間はこの世の地獄を垣間見たかのように喚き散らした。
「何があろうと、ゆりなはおれが必ず守るから」
必死の形相で想いを口にする。
十織とゆりなはすでにこの戦争で両親を失っており、十織はその時に感じた例えようもない喪失感と絶望を再び味わうことに恐怖する。
(もう、……あんな想いは嫌だ。おれは母さんや父さんにゆりなを任されたんだ)
十織は一際強い力でゆりなを抱きしめた。
「お兄ちゃんとゆりなは、……死んじゃうのかな?」
震えた声でゆりなは十織に問いかける。
それもそうだ、ゆりなはまだ十一歳で年端も行かぬ女の子だ。このような状況で怯えないほうがおかしい。
──そんな中、十織はゆりかを抱きしめたまま、想いをありのままを解き放つ。
「もし、おれたちの人生が絶たれても──」
「……え?」
構わず、十織は続ける。
「必ずおれは、ゆりなの手を離したりしない──」
誓うように、それでいてどこか暖かに呟く。これは言ってしまえば、十織の魂に刻まれる呪いだ。
それでも──!
「それでも……世界が、運命が邪魔をするというなら──」
──その運命さえも殺してみせる。
そう言い切ることは叶わず。
──次の瞬間には、この世界から音は消え去り、白い輝きのみが広がるだけであった。